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進行性骨化性線維異形成症

しんこうせいこっかせいせんいいけいせいしょう

fibrodysplasia ossificans progressiva

告示

番号:5

疾病名:進行性骨化性線維異形成症

概念・定義

進行性骨化性線維異形成症(fibrodysplasia ossificans progressiva:FOP)は、全身の骨格筋や筋膜、腱、靱帯などの線維性組織が進行性に骨化し、このために四肢関節の可動域低下や強直、体幹の可動性低下や変形、開口障害を生じる疾患である。このため病状の進行とともに日常生活動作(活動)が阻害される。異所性骨化は主として小児期に始まる。注射や手術などの医療行為を含む外傷を契機とし、フレアアップ(flare-up)と呼ばれる炎症性の皮下軟部組織腫脹に引き続いて骨化を生じることが多いが、外傷のないフレアアップや、フレアアップを経ない骨化もあることがわかっている。足の母趾に先天性の形態異常を伴うことが多いという特徴があり、それ以外に、手の母指の低形成、小指の弯曲、長管骨骨幹端部の外骨腫、禿頭、聴力障害を伴うことがある。

病因

家系例の検索からFOPは常染色体優性遺伝形式を取るとされている。BMP typeI の受容体であるACVR1 /ALK2の遺伝子変異が原因であり、中でも617G>A(R206H)が最も多い変異である。日本人の罹患者でもこの変異が最も多く確認されている。近年このR206H 以外のACVR1 /ALK2遺伝子変異を示す非典型例も報告されている。
ACVR1/ALK2の遺伝子変異がFOPにおける進行性異所性骨化をはじめとした症状にどうつながるかは十分に解明されていない。BMPが結合せずとも下流にシグナルを伝達するリガンド非依存的恒常的活性化機構と、BMPが結合した際に過剰なシグナルが伝達するリガンド依存性過剰活性化機構とが提唱されている。

疫学

FOPを診療する可能性の高い整形外科、リハビリテーション科、小児科の各学会認定施設を対象とした疫学調査から、日本の患者数を60~84名と推定している。この調査では男女差はなく、10歳台の患者が最も多かった。世界的にはFOPの有病率は200万人に1人と報告されており、日本人患者数60~84名はほぼこれに相当している。

臨床症状

 FOPの主症状である異所性骨化は、乳児期から学童期にかけて初発することが多い。注射や手術などの医療行為を含む外傷を契機とし、骨化に先立ちフレアアップと呼ばれる皮下軟部組織に腫脹や腫瘤を生じ、フレアアップは時に熱感や疼痛を伴うことがある。これが消退を繰り返しながら骨化が進行し、四肢では関節の拘縮、強直、体幹では可動性低下や変形、頭部では開口制限につながる。しかし外傷を契機としないフレアアップや、フレアアップを経ない骨化もあることがわかっている。
 骨化は体幹(傍脊柱や項頚部)や肩甲帯、股関節周囲から始まり、徐々に末梢へ進行する傾向があり、移動能力や上肢の機能は進行性に低下する。胸郭の軟部組織や咀嚼に関係する組織にも可動性の低下や骨化を生じ、呼吸障害、開口制限につながる。平滑筋と心筋には骨化を生じないとされている。
異所性骨化以外の症状として、足の母趾の先天性形態異常(外反を伴う短趾が多い)を伴うことが多い。この他、手の母指の短縮、小指の弯曲、禿頭、聴力障害を伴うこともある。

検査所見

 異所性骨化は、単純X線やCTで確認することができる。フレアアップの部位のMRI検査では、皮下軟部組織の炎症性変化を捉えることができる。異所性骨化に対する骨シンチグラム、フレアアップに対するPET/CTに関する報告もある。
 異所性骨化やフレアアップと関係した血液検査等のバイオマーカーは明らかになっていない。
 異所性骨化以外のX線所見として、長管骨骨幹端部の外骨腫(脛骨近位内側の骨突出を認めることが多い)、太い大腿骨頚部がある。足の母趾の先天性形態異常は、X線では第一中足骨遠位関節面の傾きを伴う外反母趾、基節骨・第一中足骨の短縮を認め、年齢とともに基節骨と末節骨が癒合することがある。頚椎や踵骨の形態異常も報告されている。

診断の際の留意点

足の母趾に先天性の形態異常(短縮や変形)を認めた場合には、FOPの可能性を考慮する必要がある。また、FOPを疑う状態では、診断のために生検などの外科的侵襲を加えることは、フレアアップや異所性骨化を招く可能性があり、避ける必要がある。

治療

 FOPに対する根治的治療法は開発されていない。フレアアップや異所性骨化を予防するために、筋肉に及ぶ注射や手術など医療行為を含む外傷を避けるように指導する。インフルエンザやインフルエンザ様のウイルス感染もフレアアップの危険因子とされているので罹患しないように指導する。
 薬物治療としてわが国では、フレアップ時またはフレアアップの予防としてCOX2阻害薬を主体とする消炎鎮痛剤が、またフレアアップ時の治療(骨化予防)として経口ステロイド薬の短期投与が行われている(いずれも保険診療で用いられる薬剤であるがFOPは対象疾患として明記されていない)。海外のガイドラインには、mast cell stabilizerであるcromolynや骨吸収抑制作用を持つビスフォスフォネートについて記載があるが、わが国ではあまり用いられていない。
 現在FOPにおける異所性骨化を抑制する薬剤の開発が世界中で行われている。レチノイン酸受容体γ作動薬であるPalovaroteneはClementia社により、また抗アクチビン抗体であるREGN2477はRegeneron社により、海外で治験が行われている。わが国ではシロリムス(ラパマイシン)の医師主導治験が始まっている。

合併症

体幹の変形や胸郭の可動性低下による呼吸障害、開口障害による口腔内の不衛生や栄養摂取障害、聴力の低下、腎結石などを合併することがある。

予後

 機能予後は、加齢とともに徐々に悪化する。10歳台から着衣、身繕い、衛生、リーチ動作等での障害が生じ、20~39歳ではそれ以外の動作を含めて機能障害が進み、40歳以上ではほぼ全介助となることが判明しているが、患者により症状の進行には個人差がある。
 生命予後に関しては、胸郭の可動性低下による呼吸障害と心臓への負荷が主に関係する。海外からは、平均予測寿命は56歳との報告がある。

成人期以降の注意点

小児期に生じた異所性骨化による障害が成人期以降も徐々に進行する。特に心肺機能の低下には注意を要し、機能的予後のみならず生命予後を改善するための治療の継続が必要である。

参考文献

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:バージョン1.0
更新日
:2018年1月31日