概要・定義
ミトコンドリアアセトアセチル-CoAチオラーゼ遺伝子の異常による常染色体劣性遺伝形式をとる有機酸代謝異常症、ケトン体代謝異常症である。本酵素活性の低下によって、イソロイシンの中間代謝、ケトン体代謝が障害されることによる。常染色体劣性遺伝性疾患である。
疫学
世界で100例以上の報告があるが、日本においては8家系11例が診断されている。
病因
ミトコンドリアアセトアセチル-CoAチオラーゼ酵素活性の低下によって、イソロイシンの中間代謝、ケトン体代謝が障害されることによる。この酵素のイソロイシン中間代謝の障害により代謝経路上流由来の代謝産物が蓄積する.
症状
ほとんどの症例が生後6か月から2歳頃に感染に伴う発熱、胃腸炎などに伴い、重篤なケトアシドーシス発作をきたす.ケトアシドーシス時の症状は嘔吐,多呼吸,意識障害などである.発作が重篤だと死に至ったり、後遺症をきたすことがある。発作間欠期には無症状である.
診断
重篤なケトアシドーシス発作を来した症例において疑う。この酵素のイソロイシン中間代謝の障害により代謝経路上流由来の代謝産物が蓄積する. 2−メチル-3−ヒドロキシ酪酸,チグリルグリシンなどの代謝産物は尿有機酸分析にて検出可能である.典型的尿有機酸プロファイルをもつ患者では化学診断が可能である.しかしそうでない患者においては有機酸分析での診断が難しい.日本にこのような症例が多い.
手引き参照
治療
1)ケトアシドーシス発作の予防〜感染時、食事摂取が難しいときには早期のグルコースの点滴補給。
2)蛋白制限食〜軽度に蛋白摂取を制限する。
3)ケトアシドーシス発作時には、十分なグルコース点滴とアシドーシスの補正、呼吸管理を含む支持療法。
予後
重篤な発作によって発達障害、死亡することもある。発作の後遺症がなければ予後は良好。
本症は10歳以降ケトアシドーシス発作の危険性低下すると考えられている。
成人期以降
成人期に重篤なケトアシドーシスを来した例は報告がない。女性患者の正常出産の報告もある。
参考文献
1. 深尾敏幸. ケトン体代謝異常症:特にアセトン血性嘔吐症と鑑別すべきサクシニル-CoA:3-ケト酸CoAトランスフェラーゼ欠損症を中心に. 日本小児科学会雑誌2007; 111:723-739
2. 深尾敏幸. 脂肪酸代謝異常症,ケトン体代謝異常症の最近の進歩.日本小児科学会雑誌2012;116:1801-1812
3. Fukao T, et al. Ketone body metabolism and its defects. J Inherited Metab Dis 2014;37:541-551
- 版
- :バージョン2.0
- 更新日
- :2015年5月25日
- 文責
- :日本先天代謝異常学会