診断の手引き

  1. 神経・筋疾患
  2. 大分類: 筋ジストロフィー
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45から51に掲げるもののほか、筋ジストロフィー

そのたきんじすとろふぃー

Muscular dystrophy

告示

番号:17

疾病名:10から16までに掲げるもののほか、筋ジストロフィー

状態の程度

運動障害、知的障害、意識障害、自閉傾向、行動障害(自傷行為又は多動)が続く場合又は治療として強心薬、利尿薬、抗不整脈薬、末梢血管拡張薬、β遮断薬、肺血管拡張薬、呼吸管理(人工呼吸器、気管切開術後、経鼻エアウェイ等の処置を必要とするものをいう。)、酸素療法、中心静脈栄養若しくは経管栄養の一つ以上を継続的に行っている場合

診断基準

A 症状

発症時期の違いによって成人型,小児型,先天型に分類される.
先天型は疾患を有する母(まれに父)から生まれ,新生児期から重度の筋力低下,筋緊張低下,哺乳障害、顔面筋罹患を認め,呼吸障害を伴い人工呼吸管理が必要な例や生後まもなく死亡する例も少なくない.逆V字型口唇,嚥下障害,股関節脱臼,関節拘縮,横隔膜麻痺などを伴うことも多い.先天型では経過とともに筋力,筋緊張は改善し,人工呼吸器からの離脱が可能となり,歩行が可能となる例も多い.幼児期以降は知的障害が全例で明らかになる.成人以降になると運動機能の低下や呼吸障害を認めるなど成人型の症状を認めるようになる.
小児型は幼児期以降に精神発達遅滞で発症し,知的障害に加えて特徴的な顔貌を認める.先天型,小児型いずれもミオトニーは幼児期には認めず思春期頃に出現する.
成人型は側頭筋や四肢遠位筋優位の筋力低下やミオトニーのほかに多臓器障害を認める疾患で,心病変(心伝導障害,心筋障害),慢性呼吸不全,嚥下障害,認知機能障害などの中枢神経異常,白内障,耐糖能障害,悪性腫瘍などの合併を示す


B 検査所見

a. 血清CK(クレアチンキナーゼ)
筋の壊死を反映し、大半の筋ジストロフィーで高値を示すが、本疾患の場合には正常、もしくは軽度上昇を示す。
b. 筋電図
ミオトニー放電を認めるのが特徴である.
c. 画像所見
単純X線像にて横隔膜高位、脳MRIで側脳室拡大、白質病変などを認める場合がある.
d. 筋病理
新生児期には筋の未熟性が目立ち、筋管細胞に類似したperipheral halo像を示す。幼児期以降にはタイプ1線維萎縮や中心核などの所見を示す.
e. 遺伝子解析
DM1の病因遺伝子DMPK、DM2の病因遺伝子CNBP変異をみとめる.


C 遺伝学的検査等

DM1の病因遺伝子DMPK、DM2の病因遺伝子CNBP変異を同定する.大多数を占めるDM1は常染色体優性遺伝をとる.病因遺伝子はDMPKであり,その遺伝子の3'側非翻訳領域にあるCTG繰り返し配列が増加しており,triplet repeat 病の一つである.健常人ではこのCTGの繰り返し配列は30回未満であるが,患者では50~2000回程度に延長している.この繰り返しの数と臨床症状は相関し,成人型<小児型<先天型と繰り返し数の延長傾向を認める.世代を経るに従ってこの繰り返しの数が増加し,症状は重くなる傾向にあり,これを表現促進(anticipation)とよぶ.


D 鑑別診断

先天性ミオパチー、先天性筋強直性ジストロフィー、中枢神経障害、Prader-Willi症候群などが鑑別にあげられる。


E-1 確実例

1. 運動障害、知的障害、筋強直など本症を示唆する症状
2. 筋病理にて骨格筋の壊死・再生などの筋ジストロフィー変化など本疾患を示唆する所見の同定
3. 病因遺伝子の遺伝子変異の同定
4. 同一家系内に遺伝学的又は免疫学的検索で診断の確定した類症者が存在し、遺伝形式が当該疾患と矛盾しない
1に加えて3もしくは4を認める場合


E-2 疑い例

1. 運動障害、知的障害、筋強直など本症を示唆する症状
2. 筋病理にて骨格筋の壊死・再生などの筋ジストロフィー変化など本疾患を示唆する所見の同定
3. 病因遺伝子の遺伝子変異の同定
4. 同一家系内に遺伝学的又は免疫学的検索で診断の確定した類症者が存在し、遺伝形式が当該疾患と矛盾しない
1に加えて2を認める場合

参考文献

  • 斎藤義朗.先天性筋強直性ジストロフィー.小児筋疾患診療ハンドブック.診断と治療社,東京,2009;166-170.
:バージョン1.0
更新日
:2018年1月31日
文責
:日本小児神経学会