概念・定義
臨床症状はデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)に類似するが、発症時期や進行がより遅く、歩行不能時期は少なくとも15歳以降である.DMDと鑑別が困難であるような早期発症例から、成人後期発症まで重症度に幅がある.発症すると緩徐に運動機能低下を示すことも多い.小児期にたまたま行った検査によって未発症の状態で高CK血症を認めたことを契機に診断に至る例も多い.
病因
ジストロフィン遺伝子変異に由来する筋ジストロフィーである。その種類はエクソン単位の欠失が約60%、重複が10%、30%が点変異などの微小変異である.保険適用されており全エクソンの欠失・重複が判定できるMLPA (Multiplex Ligation Probe Amplification) 法を用いることで、約70%の患者で遺伝子診断が可能である.DMDとBMDの違いは、エクソン単位の欠失・重複の合計塩基数が3の倍数かどうか、DMDの場合には3の倍数でない(out-of-frame)、BMDの場合には3の倍数となる(in-frame)というframeshift仮説で多くは説明可能である.
疫学
日本における疫学情報は存在しないが3000名程度と推測される.アイルランドにおける検討で10万あたり2.2と報告されている.
臨床症状
臨床症状はデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)に類似するが、発症時期や進行がより遅く、歩行不能時期は少なくとも15歳以降である.DMDと鑑別が困難であるような早期発症例から、成人後期発症まで重症度に幅がある.発症すると緩徐に運動機能低下を示すことも多い.小児期にたまたま行った検査によって未発症の状態で高CK血症を認めたことが契機になり診断に至る例も多い.運動が誘因となり下腿などの筋痛を認めることが多く、日常生活に影響を及ぼすこともある.小児期であっても心筋症を発症することがある.知的障害、発達障害、精神症状を合併する場合もある.
検査所見
a. 血清CK(クレアチンキナーゼ)
筋の壊死を反映し、大半の筋ジストロフィーで高値を示すが、その程度は筋ジストロフィーのタイプによっておよそ決まっている.BMDの場合には数百~数千台の高値を示す場合が多い.
b. 筋電図
安静時活動電位、低電位、最大振幅の低下、早期動員など非特異的な筋原性の所見を認める.
c. 遺伝子診断
ジストロフィン遺伝子変異の種類はエクソン単位の欠失が約60%、重複が10%、30%が点変異などの微小変異である.保険適用されており全エクソンの欠失・重複が判定できるMLPA (Multiplex Ligation Probe Amplification) 法を用いることで、約70%の患者で遺伝子診断が可能である.DMDとBMDの違いは、エクソン単位の欠失・重複の合計塩基数が3の倍数かどうか、DMDの場合には3の倍数でない(out-of-frame)、BMDの場合には3の倍数となる(in-frame)というframeshift仮説で多くは説明可能である.
d. 筋生検
侵襲的な検査であるため、適応をよく検討したうえで施行する.BMDではジストロフィン蛋白のサイズや量の減少を認める.ジストロフィン蛋白レベルの評価は筋組織を用いたジストロフィン免疫染色やウエスタンブロット法などで評価する.
診断の際の留意点
遺伝子診断によって確定診断が得られる場合が大半であるが、本人に加えて家族の情報も同時に得られる場合がある点が、他の検査と大きく異なる特徴である.母や母方の親族の保因者の存在の可能性の念頭に置く必要もある.そのような面からも、遺伝子解析の前には遺伝学と該当する疾患に精通した医師による検査前カウンセリングが望ましい.診断後の本人、家族への心理的な面も含むケアも非常に重要である.必要に応じて専門医への紹介も検討する.
治療
根本的治療法は現在までのところ見いだされていない.必要に応じて、リハビリテーション、呼吸障害、心機能障害や側弯や関節拘縮に対する治療を行う.デュシェンヌ型で承認されているステロイド治療についてはエビデンスに乏しい面があるが使用されている場合がある。プレドニゾロンは本疾患に承認はされていないものの保険上は認めるとの通知がなされている。
合併症
小児期にも心筋症を合併する場合があり定期的な評価を行う必要がある。呼吸障害は小児期には稀である。
予後
小児期には通常生命予後は問題ない。成人期以降になると心筋症や呼吸不全の合併、重症度が予後を規定する。
成人期以降の注意点
主に成人期以降、早ければ10歳代に運動機能低下、心臓合併症、呼吸機能低下などの問題を生じてくるので、定期的な評価、必要に応じてリハビリテーションを行う.適切な時期に成人診療科への移行を検討する.
参考文献
- 森まどか.小児筋疾患診療ハンドブック.診断と治療社,東京,2009,105-110
- Lefter S. A population-based epidemiologic study of adult neuromuscular disease in the Republic of Ireland. Neurology. 2017;88:304-313.
- 版
- :バージョン1.0
- 更新日
- :2018年1月31日
- 文責
- :日本小児神経学会
概念・定義
乳幼児期早期に発症する筋ジストロフィーの総称である.日本では福山型(Fukuyama type CMD:FCMD)が最も多い.その他Ullrich型先天性筋ジストロフィー(Ullrich congenital muscular dystrophy: UCMD),LMNA遺伝子変異によるもの(lamin related CMD:L-CMD)やメロシン欠損症などが存在するが、病因が同定できない例も存在する.福山型の病因であるfukutin遺伝子などは糖鎖修飾に関与する酵素をコードしており、それらの遺伝子変異によって生じる先天性筋ジストロフィーをα-ジストログリカノパチー(α-dystroglycanopathy)と総称する.
病因
病因遺伝子として報告されているものは下記などが知られており、非常に多岐にわたる.
FKTN, LAMA2, COL6A1, COL6A2, COL6A3, ITGA7, POMT1, POMT2, POMGNT1, FKRP, LARGE, POMGNT2/GTDC2, B3GALNT2, B3GNT1, SGK196/POMK, TMEM5, GMPPB, DPM1, DPM2, DPM3, DOLK, ISPD, DAG1, INPP5K, POMT1, POMT2, POMGNT1, FKRP, LARGE, OMGNT2/GTDC2, 3GALNT2, B3GNT1, SGK196/POMK, TMEM5, GMPPB, DPM1, DPM2, DPM3, DOLK, SPD, DAG1, INPP5K, SEPN1, LMNA, RYR1, SYNE1
疫学
日本における患者数は不明である.海外においても限られた情報しか存在しないが、10万あたり0.99人という報告がある.
臨床症状
乳幼児期早期より、運動発達遅滞、筋力低下、筋緊張低下を主症状とする.一般に病気の進行に伴い側弯症や関節拘縮などの骨格変形を伴うことが多い.いったん獲得した場合においても歩行不能となる場合がある.呼吸筋障害や心筋障害による慢性呼吸不全、心伝導障害、心不全を認める例も少なからず存在する.嚥下障害を認める場合もある.
検査所見
血清CK:筋の壊死を反映し,大半の筋ジストロフィーで高値を示す.その程度は筋ジストロフィーのタイプによっておよそ決まっている.
針筋電図:安静時活動電位,低電位,最大振幅の低下,早期動員など非特異的な筋原性の所見を認める.
骨格筋画像:CT,MRIは骨格筋の萎縮,肥大,脂肪化の評価に有用である.タイプにより障害を受ける筋に違いを認める傾向がある.
筋病理:現在においても確定診断に最も有効な評価法であり,免疫組織学的手法などを用いることでさらに病態に迫る所見を得ることが可能である.侵襲的な検査であるため,適応をよく検討したうえで施行する.
遺伝子診断:福山型では確定診断のため遺伝子診断を保険診療のなかで行うことができる.
診断の際の留意点
遺伝子解析技術の進歩によって多くの遺伝子変異が同定されており、遺伝子診断によって確定診断が得られる場合が増えてきている.遺伝子解析の前には遺伝学と該当する疾患に精通した医師による検査前カウンセリングが望ましい.診断後の家族への心理的な面も含むケアも非常に重要である.必要に応じて専門医への紹介も検討する.
治療
根本的治療法は現在までのところ見いだされていない.必要に応じて、リハビリテーション、呼吸障害、心機能障害や側弯や関節拘縮に対する治療を行う.
合併症
呼吸障害、心筋症、心伝導障害、嚥下障害、側弯症、消化管障害、骨粗鬆症などを合併しうる.
予後
予後は病型や症例により異なる.筋力低下,運動機能障害はADL,QOLに大きな影響を与えるが,呼吸不全,心機能障害,嚥下障害が主に生命予後に影響する.定期的な機能評価,合併症検索と適切な介入が重要である.
成人期以降の注意点
ケアの向上によって先天性筋ジストロフィーの生命予後は改善しているが、長期予後に関するデータは乏しい.定期的な呼吸機能、心機能、ならびに嚥下などの評価とそれらに対する治療を小児期から成人期にわたり包括的に行う姿勢が重要である.
参考文献
- Wang CH, et al. Consensus statement on standard of care for congenital muscular dystrophies. J Child Neurol. 2010;25(12):1559-81.
- Fu XN, et al. Genetic and Clinical Advances of Congenital Muscular Dystrophy Chin Med J (Engl). 2017; 130: 2624–2631.
- 版
- :バージョン1.0
- 更新日
- :2018年1月31日
- 文責
- :日本小児神経学会
概念・定義
筋強直(ミオトニー)と筋力低下を主症状とする疾患である.発症時期は新生児期から成人期まで幅広い.骨格筋症状以外に多臓器の症状を合併しうる全身性疾患である.1型(DM1)と2型(DM2)が存在するが日本ではほとんどがDM1である.
病因
DM1は常染色体優性遺伝をとる.病因遺伝子はDMPKであり,その遺伝子の3'側非翻訳領域にあるCTG繰り返し配列が増加しており,triplet repeat 病の一つである.健常人ではこのCTGの繰り返し配列は30回未満であるが,患者では50~2000回程度に延長している.この繰り返しの数と臨床症状は相関し,成人型<小児型<先天型と繰り返し数の延長傾向を認める.世代を経るに従ってこの繰り返しの数が増加し,症状は重くなる傾向にあり,これを表現促進(anticipation)とよぶ.
疫学
アイルランドにおける検討で10万あたり6.75と報告されている.希少疾病ではあるものの筋疾患の中では頻度は高く、日本では約10000名程度と推測されている.
臨床症状
発症時期の違いによって成人型,小児型,先天型に分類される.
先天型は疾患を有する母(まれに父)から生まれ,新生児期から重度の筋力低下,筋緊張低下,哺乳障害、顔面筋罹患を認め,呼吸障害を伴い人工呼吸管理が必要な例や生後まもなく死亡する例も少なくない.逆V字型口唇,嚥下障害,股関節脱臼,関節拘縮,横隔膜麻痺などを伴うことも多い.先天型では経過とともに筋力,筋緊張は改善し,人工呼吸器からの離脱が可能となり,歩行が可能となる例も多い.幼児期以降は知的障害が全例で明らかになる.成人以降になると運動機能の低下や呼吸障害を認めるなど成人型の症状を認めるようになる.
小児型は幼児期以降に精神発達遅滞で発症し,知的障害に加えて特徴的な顔貌を認める.先天型,小児型いずれもミオトニーは幼児期には認めず思春期頃に出現する.
成人型は側頭筋や四肢遠位筋優位の筋力低下やミオトニーのほかに多臓器障害を認める疾患で,心病変(心伝導障害,心筋障害),慢性呼吸不全,嚥下障害,認知機能障害などの中枢神経異常,白内障,耐糖能障害,悪性腫瘍などの合併を示す.
検査所見
a. 血清CK(クレアチンキナーゼ)
筋の壊死を反映し、大半の筋ジストロフィーで高値を示すが、本疾患の場合には正常、もしくは軽度上昇を示す.
b. 筋電図
ミオトニー放電を認めるのが特徴である.
c. 画像所見
単純X線像にて横隔膜高位、脳MRIで側脳室拡大、白質病変などを認める場合がある.
d. 筋病理
新生児期には筋の未熟性が目立ち、筋管細胞に類似したperipheral halo像を示す.幼児期以降にはタイプ1線維萎縮や中心核などの所見を示す.
e. 遺伝子解析
DM1の病因遺伝子DMPK、DM2の病因遺伝子CNBP変異をみとめる.
診断の際の留意点
遺伝子診断によって確定診断が得られる場合が大半であるが、本人に加えて家族の情報も同時に得られる場合がある点が、他の検査と大きく異なる特徴である.表現促進現象などによって両親自身には自覚症状が乏しい状態で子が先に診断を受け子の診断を契機に両親の診断に至る場合がある.そのような面からも、遺伝子解析の前には遺伝学と該当する疾患に精通した医師による検査前カウンセリングが重要である.診断後の本人、家族への心理的な面も含むケアも非常に重要である.必要に応じて専門医への紹介も検討する.
治療
根本的治療法は現在までのところ見いだされていない.必要に応じてリハビリテーション、呼吸障害や嚥下障害、心伝導障害、側弯に対する評価、治療を行う.小児発症例では知的障害を伴うことが多く、療育や教育的な視点での対応や助言を行う.疾患の特徴である筋強直現象は治療の対象となることは少ない.
合併症
嚥下障害、慢性呼吸不全、心伝導障害などの心臓機能障害、知的障害、日中過眠などを合併する.成人期には眼瞼下垂・兎眼、白内障・網膜色素変性症、難聴、低酸素血症、睡眠時無呼吸症候群、耐糖能障害・高インスリン血症、高脂血症、骨肥厚、低IgG血症などのより多彩な合併症を呈する.
予後
先天型では新生児期、乳児期に死亡する場合もある.小児期発症例では知的障害が主症状で他の症状が目立たないことも少なくないが、成人期以降になると前述したような多彩な症状が出現するようになる.
成人期以降の注意点
先天型などでいったん獲得した場合でも成人期以降になると運動機能が退行してくる.慢性呼吸不全や心伝導障害、耐糖能異常、悪性腫瘍の合併は主に成人期に生じるので、適切な時期に成人診療科への移行を検討する.
参考文献
- 斎藤義朗.先天性筋強直性ジストロフィー.小児筋疾患診療ハンドブック.診断と治療社,東京,2009;166-170.
- Lefter S. A population-based epidemiologic study of adult neuromuscular disease in the Republic of Ireland. Neurology. 2017;88:304-313.
- 版
- :バージョン1.0
- 更新日
- :2018年1月31日
- 文責
- :日本小児神経学会