1. 慢性消化器疾患
  2. 大分類: 難治性膵炎
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自己免疫性膵炎

じこめんえきせいすいえん

Autoimmune pancreatitis

告示

番号:32

疾病名:自己免疫性膵炎

概念・定義

 自己免疫性膵炎とはその発症に自己免疫機序の関与が疑われる膵炎である.2002年に初めてその診断基準が提唱され,これまでに成人領域を中心に多くの症例が蓄積されている.臨床像および病理組織学的な違いから、1型と2型に大別される。1型自己免疫性膵炎は、しばしば閉塞性黄疸で発症し、発症年齢のピークは60歳代で男性に好発する。組織学的にはリンパ球とIgG4陽性形質細胞の高度な浸潤と線維化を特徴とする。IgG4関連疾患の膵病変と考えられている。2型自己免疫性膵炎は比較的若年者にみられ、しばしば炎症性腸疾患を合併し、IgG4上昇などの血清学的異常所見に乏しい。組織学的には好中球浸潤による膵管上皮破壊像を特徴とする。
 1型、2型ともにびまん性膵腫大、膵管狭細像などの画像所見を特徴とし、ステロイド治療により軽快する。1型ではステロイド治療例の20-40%、維持療法中の20-30%に膵炎の再燃がみられる。長期的には膵萎縮や膵石の併発を伴い膵外・内分泌障害に至る。2型では再燃例は少ない。

病因

1型自己免疫性膵炎は、高γグロブリン血症、高IgG血症、高IgG4血症や抗核抗体、リウマチ因子などの自己抗体が陽性であることから自己免疫機序の関与が推測される。2型ではIgG4低値など血清学的異常に乏しく真の原因は不明である。

疫学

「2011年自己免疫性膵炎の全国調査」による有病率は人口10 万人あたり4.6 人,罹患率は人口10 万人あたり1.4 人である。小児例の報告は国内外を合わせて20例程度で、小児における疫学は不明である。

臨床症状

自己免疫性膵炎に特異的な症状はない。1型自己免疫性膵炎では、腹痛は無~軽度であり、閉塞性黄疸、糖尿病症状(口渇感、全身倦怠感、体重減少)、随伴する膵外病変(IgG4関連疾患)による症状を呈することが多い。2型自己免疫性膵炎では腹痛が多く、しばしば急性膵炎にて発症する。

検査所見

1型自己免疫性膵炎では、肝胆道系酵素上昇(60-82%)、総ビリルビン上昇(39-62%)が認められる。血中膵酵素値の上昇(36-64%)も認められるが、急性膵炎や慢性膵炎の急性増悪のように異常高値となることは少ない。免疫学的には高γグロブリン血症(43%)、高IgG血症(62-80%)、高IgG4血症(68-92%)以外にも、抗核抗体(40-64%)、リウマトイド因子(25%)、抗carbonic anhtydraseⅡ抗体(55%)、抗ラクトフェリン抗体(75%)などの非特異的自己抗体が陽性となる。2型自己免疫性膵炎は、急性膵炎で発症することが多く、アミラーゼ、リパーゼなどの膵酵素値の上昇を認める。

診断の際の留意点

小児では総IgGおよびIgG4値は年齢相対的に低値のため、診断基準の1項目であるIgG4 135mg/dL以上を満たす例は少ない。また、小児では内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)や膵生検を施行可能な施設は限られているため、膵管像の把握は磁気共鳴胆管膵管造影(MRCP)で代用されることが多いが、年少例では体格の問題から膵管が十分に描出されない場合もある。自己免疫性膵炎臨床診断基準2011(日本膵臓学会、厚生労働省難治性膵疾患調査研究班)では、これらの膵病理所見、ERCPによる膵管像、IgG4値が重要視されているため、小児では確診が得られる症例は極めて稀である。

治療

ステロイド治療が有効である。1型自己免疫性膵炎の再燃例ではステロイドの再投与、漸減スピードを遅くするなどの工夫が必要である。2型自己免疫性膵炎では、炎症性腸疾患の治療薬(ステロイドの増量、メサラジン、サラゾピリン、アザチオプリン、インフリキシマブ、アダリムマブなど)にも反応し炎症性腸疾患の病勢安定とともに改善する。

合併症

現在では1型自己免疫性膵炎はIgG4関連疾患の膵病変と考えられており、種々の膵外病変(涙腺唾液腺炎、肺門リンパ節炎、間質性肺炎、硬化性胆管炎、後腹膜線維症、尿細管間質性腎炎など)の合併が報告されている。2型自己免疫性膵炎は炎症性腸疾患、特に潰瘍性大腸炎を合併する。炎症性腸疾患の発症に先行して膵炎を来す場合、維持療法中に膵炎を来す場合の両パターンとも存在する。

予後

ステロイド治療により短期的予後は比較的良好である。1型自己免疫性膵炎では、長期的にはステロイド治療例の20-40%、維持療法中の20-30%に膵炎の再燃がみられ、膵萎縮や膵石の併発を伴い膵外・内分泌障害に至る場合もある。小児期発症の自己免疫性膵炎例は稀であり、長期的予後は不明である。

成人期以降の注意点

小児期発症の自己免疫性膵炎は稀であり、成人期以降も継続して観察し得た報告はない。

参考文献

  • (1) 自己免疫性膵炎診療ガイドライン2013.膵臓28: 717-83, 2013
  • (2) 菅野淳ら.膵臓30:54-61, 2015
  • (3) 植木敏晴ら.膵臓30:116-122, 2015
  • (4) 村田真野ら.日消誌111:1632-9, 2014
  • (5) Zen Y, et al. JPGN 59: e42-5, 2014
  • (6) Patel Z, et al. Clin J Gastroenterol 8: 421-5, 2015
:バージョン1.0
更新日
:2018年1月31日
文責
:日本小児栄養消化器肝臓学会