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痙攣重積型(二相性)急性脳症

けいれんじゅうせきがたきゅうせいのうしょう; にそうせいきゅうせいのうしょう

Acute encephalopathy with biphasic seizures and late reduced diffusion; AESD

告示

番号:17

疾病名:痙攣重積型(二相性)急性脳症

概念・定義

痙攣重積型(二相性)急性脳症(AESD)は、日本で1990年代後半から認識され始めた新しい症候群である。「痙攣重積型急性脳症(AEFSCE)」(塩見, 2000年)、「両側前頭葉を主として障害する乳幼児急性脳症(AIEF)」(Yamanouchiら, 2006)、「二相性けいれんと遅発性拡散低下を呈する急性脳症(AESD)」(Takanashiら, 2006)など複数の異なる病名で報告されたが、2015年に「痙攣重積型(二相性)急性脳症」として指定難病に認定された。突発性発疹やインフルエンザなどの感染症を契機に、痙攣と脳の傷害を生じる症候群で、小児の急性脳症のうち日本では最も頻度の高い型である。急性期(発症~痙攣反復期)から亜急性期(回復期)にかけて、二相性の臨床経過(初発時の有熱時痙攣重積と第3~6病日の焦点発作群発)および頭部MRI拡散強調画像(第3~9病日の大脳皮質下白質の拡散低下)を特徴とする。慢性期に入ると多くの患者にてんかん、知的障害など神経学的後遺症が残り、重症患者では生涯にわたり続く。痙攣重積型(二相性)急性脳症は小児の後天的脳障害の主要な原因のひとつである。

病因

痙攣重積型(二相性)急性脳症の詳細な病因は不明である。発症の契機として突発性発疹やインフルエンザなど小児がしばしば罹患する高熱を伴う感染症がある。痙攣重積型(二相性)急性脳症を発症しやすい遺伝性素因として、酵素カルニチントランスカルバミラーゼII(CPT2)の熱感受性多型、神経調節因子アデノシンA2A受容体(ADORA2A)の多型、ナトリウムチャネル(SCN1A)のミスセンス変異など複数の遺伝子の多型や変異が見出されている。またテオフィリンなど特定の薬物が病態を悪化させる可能性が指摘されている。
痙攣重積型(二相性)急性脳症の病態として、興奮毒性による遅発性神経細胞死が想定されている。

疫学

世界的にみて、痙攣重積型(二相性)急性脳症の患者は日本に集中している。日本においては、痙攣重積型(二相性)急性脳症は小児の急性脳症のうち最も頻度が高く、1年に100~200人が発症し、急性脳症全体の29%を占める。慢性期に入った患者を含めると患者数は数千人と推定される。
発症年齢は生後6か月から1歳代が最も多い。男女差はない。発症の契機となる感染症は突発性発疹(38%)とインフルエンザ(10%)が最も多く、ロタウイルス胃腸炎(2%)、RSウイルス感染症(2%)がそれに続く。致死率は1%と低いが、軽度~中等度の後遺症が41%、重度の後遺症が25%と多くの患者に残る(Hoshinoら, 2012)。

臨床症状

a. 初発症状(第1病日)
高熱をともなう感染症(多くはウイルス感染症)の初期に、痙攣発作(early seizure)で発症することが多い。大部分が痙攣重積(痙攣性てんかん重積状態)である。稀に短時間の痙攣発作の場合もある。痙攣発作は全般性あるいは片側性の間代あるいは強直発作が多い。初発発作は治療抵抗性の場合が多い。痙攣発作に引き続き意識障害が持続する場合が多い。頭部CTやMRIでは大多数の場合、異常を認めない。

b. 一過性回復期(第2~5病日)
発症後数日間は意識障害が軽快傾向を示すが、完全に清明となることは少ない。意識障害が強い例や抗痙攣薬持続静注している例は、一過性回復期や痙攣反復期を確認できない。

c. 痙攣反復期(第3~6病日)
第3~6病日に焦点発作を群発することが多い。軽微な発作症状のことがあり、気づきにくい(subclinical seizure)。発作は1~数日にわたって反復する。発作再燃とともに意識障害が悪化する。これと前後してMRI拡散強調画像で皮質下白質優位に高信号病変が出現する。

d. 回復期(第7病日~2か月)
痙攣反復期を過ぎると意識障害は徐々に改善し、神経機能が回復する。この時期に不随意運動、常同運動などを認めることが多い。この時期にはてんかん発作を通常認めない。

e. 慢性期(3か月以降)
不随意運動や常同運動はほとんど消失する。運動障害は回復しても、種々の程度の知能障害は多くの患者で残る。発症から数か月以降にてんかん発作が起こることが多い。てんかん発作はミオクロニー発作や脱力発作、てんかん性スパズム、焦点発作など多彩であり、音などで誘発される場合がある。治療抵抗性の経過を辿ることが多い。

検査所見

痙攣重積型(二相性)急性脳症の画像所見は特徴的であり診断上、最も重要である。第1~2病日に施行されたMRI は拡散強調画像を含めて正常である。第3~9病日で拡散強調画像にて皮質下白質の高信号(bright tree appearance)、T2強調画像、FLAIR画像にて U fiber に沿った高信号を認める。皮質のT2高信号は約半数に認められるが、U fiber 病変に比して軽度である。病変分布は患者によりさまざまであるが、前頭部優位(前頭葉、前頭頭頂葉)ないし片側大脳半球優位などのパターンをとる例が多く、中心前・後回は傷害されにくい(central sparingと称される)。第9~25病日には拡散強調画像の皮質下白質の高信号は消失し、皮質の拡散強調画像での高信号を認めうる。同時期にT2強調画像、FLAIR画像では皮質下白質に高信号を認める。2週以降に脳萎縮が出現し、しばしば残存する。SPECT による脳血流検査では急性期には病変部位血流の増加を、第10病日以降は血流低下を呈し、数ヶ月から数年にわたり徐々に回復する。
血液検査では炎症反応や軽度の逸脱酵素の上昇など非特異的な所見が見られる。髄液検査では、細胞数の増加など脳炎、髄膜炎を示唆する所見を欠く。
脳波検査は疾患特異的な所見は得られないが、大脳機能をリアルタイムで評価できる点で有用である。痙攣重積型(二相性)急性脳症では基礎波の異常(主に全般性、片側性、局在性の徐波化、紡錘波の消失)が効率に見られる。時に突発性異常波、subclinical seizureも検出される。通常脳波あるいはaEEG (amplitude-integrated EEG)を用いた長時間持続モニタリングが有用である。

診断の際の留意点

痙攣重積型(二相性)急性脳症の初発から一過性回復期までの数日間は、本症に特有の二相性経過や頭部MRI所見がまだ現れていないため、遷延性(複雑型)熱性痙攣との鑑別が困難な症例が多い。第1病日の臨床所見と検査所見の組み合わせによるスコアが考案され、両者の鑑別に用いられているが、まだ改善の余地がある。
鑑別診断の対象は臨床症状で発熱に伴う痙攣、意識障害など類似の所見を呈しうる他の脳症症候群、脳炎など、また頭部MRIでbright tree appearance類似の所見を呈しうる頭部外傷、虐待、低酸素脳症である。

治療

痙攣重積型(二相性)急性脳症の急性期治療は支持療法を基盤とする。現時点でエビデンスのある特異的治療、特殊治療は存在しない。
痙攣重積型(二相性)急性脳症では痙攣重積状態がしばしば認められる。また痙攣重積型(二相性)急性脳症の主な病態は興奮毒性と考えられている。このことから、痙攣重積状態をできるだけ早期に頓挫させることが重要である。
特異的治療として、日本ではメチルプレドニゾロンパルス療法が広く行われてきた。しかし痙攣重積型(二相性)急性脳症に対する有効性は確立しておらず、無効であったとする報告(Hayashiら, 2012)も散見される。
特殊治療として、日本では脳低温・平温療法を試みている施設が複数ある。痙攣重積型(二相性)急性脳症に対する有効性を示唆した報告(Nishiyamaら, 2015)もあるが、反論もあり、エビデンスは確立していない。
痙攣重積型(二相性)急性脳症の慢性期治療では、しばしば合併する難治性てんかんの治療が主な問題となりやすい。認知や行動の異常、高次機能障害に対する治療やリハビリテーションが、一部の患者に対して行われる。嚥下、呼吸機能が著しく低下した患者では食事介助ないし経管栄養や胃瘻が必要となり、摂食リハビリテーションを施行することがある。

合併症

痙攣重積型(二相性)急性脳症の慢性期に重度の心身障害を残した患者では、嚥下、呼吸機能の低下や身体の拘縮、変形に伴う全身的合併症をきたしやすい。

予後

痙攣重積型(二相性)急性脳症の急性期の致死率は1%と低い反面、症例の約70%に神経学的後遺症が認められる。知的障害、運動麻痺に加えて、慢性期に難治性てんかんを発症することがしばしばある。

成人期以降の注意点

痙攣重積型(二相性)急性脳症の大多数は、乳幼児期に発症する。また疾患概念が認識され始めたのが1990年代後半と、歴史が浅い。このため痙攣重積型(二相性)急性脳症と診断された成人患者は現時点でほとんどおらず、情報がない。

参考文献

  • 塩見正司. インフルエンザ脳症-臨床病型分類の試み-. 小児科臨床2000; 53: 1739-1746.
  • Takanashi J, Oba H, Barkovich AJ, et al. Diffusion MRI abnormalities after prolonged febrile seizures with encephalopathy. Neurology 2006; 66: 1304-1309.
  • Yamanouchi H, Mizuguchi M. Acute infantile encephalopathy predominantly affecting the bilateral frontal lobes (AIEF): a novel clinical category and its tentative diagnostic criteria. Epilepsy Res. 2006; 70: S263-268.
  • Hoshino A, Saitoh M, Oka A, et al. Epidemiology of acute encephalopathy in Japan, with emphasis on the association of viruses and syndromes. Brain Dev. 2012; 34: 337-343.
  • Hayashi N, Okumura A, Kubota M, et al. Prognostic factors in acute encephalopathy with reduced subcortical diffusion. Brain Dev. 2012; 34: 632-639.
  • Nishiyama M, Tanaka T, Fujita K, Maruyama A, Nagase H. Targeted temperature management of acute encephalopathy without AST elevation. Brain Dev 2015; 37: 328-333.
  • 小児急性脳症診療ガイドライン策定委員会(編)小児急性脳症診療ガイドライン. 診断と治療社, 東京, 2016
:バージョン1.0
更新日
:2018年1月31日
文責
:日本小児神経学会