1. 神経・筋疾患
  2. 大分類: 先天性グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)欠損症
28

先天性グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)欠損症

せんてんせいぐりこしるほすふぁちじるいのしとーるけっそんしょう

Inherited GPI deficiency (IGD)

告示

番号:44

疾病名:先天性グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)欠損症

概念・定義

 糖脂質からなるGPIアンカーは、ほ乳類の細胞においては150種以上の蛋白質の膜結合に用いられている。これら種々のGPIアンカー型タンパク質は小胞体でタンパク質部分とGPI アンカーが別々に合成されて結合し、小胞体やゴルジ体で修飾されて、細胞膜表面に輸送されるが、先天的な遺伝子変異によりこの過程に異常が生じるのが、先天性GPI欠損症 (IGD)である。
 IGDでは、知的障害が必発であり、難治性てんかんや顔貌・消化管・腎尿路系・手指・足趾などの形態異常、難聴などを呈する。重症例では、重度心身障害児・者となる。診断には、顆粒球のフローサイトメトリー、遺伝子検査が必要である。従来Mabry症候群として知られていた、高アルカリホスファターゼ(ALP)血症、精神運動発達遅滞・てんかんを呈する疾患がIGDであることが明らかになっているが、今後もオーバーラップする疾患が見つかってくると考えられる。

病因

GPIが欠損すると150種以上のGPIアンカー型蛋白質が細胞表面に発現できないのでGPI生合成遺伝子の完全欠損は胎生致死になる。IGDは27個のGPI生合成や修飾に関わる遺伝子のうちのどれかが様々な程度に活性が低下した部分欠損症である。現在までの17種の遺伝子欠損によるIGDが報告されている。症状は細胞膜上のGPIアンカー型蛋白質の発現低下や構造異常によって起こり、変異遺伝子やその活性低下の程度により多様な症状を示す。症状のうち、てんかんの原因の一つとしてGPIアンカー型蛋白質であるALPの発現低下が挙げられる。

疫学

研究班が把握している国内症例は25家系33人であるが、IRUDや他のプロジェクトの遺伝子解析により診断された症例は把握できていないのでさらに増加していると考えられる。海外症例を含めると現在までに148家系、216例のIGD症例がある。

臨床症状

主症状
周産期異常を伴わない知的障害があり、多くは運動発達の遅れ、てんかんを伴い時に家族性に見られる。

他に頻度の高い症状や重要な症状として以下の症状がある。
①新生児期、乳児期早期発症の難治性てんかん
②顔貌異常:両眼解離、幅の広い鼻梁、長い眼裂・テント状の口、口唇・口蓋裂、耳介の形態異常
③手指、足趾の異常:末節骨の短縮、爪の欠損・低形成
④その他の奇形:肛門・直腸の異常、ヒルシュスプルング病、水腎症、心奇形など
⑤難聴、眼・視力の異常
⑥皮膚の異常:魚鱗癬など
⑦筋緊張低下、関節拘縮、四肢の短縮
⑧易感染性

検査所見

1. 多くは末梢血顆粒球のフローサイトメーター解析によりCD16の発現低下を示す。

2. 以下の検査所見が見られることがある。
①高アルカリホスファターゼ(ALP)血症(年齢別正常値の上限を超える)
②手指・足趾のX線写真で末節骨欠損
③聴性脳幹反応(ABR)の異常
④脳MRIの拡散強調画像(DWI),あるいはT2強調画像にて基底核・脳幹の高信号領域、進行性の小脳萎縮、髄鞘化の遅延 

3. GPIアンカー型タンパク質の生合成および発現・修飾・輸送などに関与する遺伝子のいずれかに変異をみとめる。

診断の際の留意点

責任遺伝子の種類や,活性低下の程度によって症状はさまざまである。主症状に加えてその他の症状が一つ以上認められる場合には末梢血顆粒球のフローサイトメーター検査と遺伝子検査を行う。顆粒球のCD16の有意な低下を認められるか、遺伝子検査によりGPIアンカー型タンパク質の生合成および発現・修飾・輸送などに関与する遺伝子のいずれかに変異をみとめたばあいに、IGDと診断する。

治療

対症療法
抗てんかん薬、筋弛緩薬、消化管運動改善薬など
経管栄養、呼吸補助(気管切開、喉頭離断、在宅人工呼吸)
手術(口唇・口蓋裂修復術、鎖肛修復術、無神経節腸管切除術・口側正常腸管肛門吻合術など)
理学療法、作業療法、言語療法

ビタミンB6補充療法
(今後 活性化葉酸、ビタミンB1)

合併症

難治性てんかん、ヒルシュスプルング病、口唇・口蓋裂、難聴、魚鱗癬、脂質異常、先天性心疾患、水腎症、鎖肛、骨の異常

予後

小脳萎縮や白質変性症など神経症状は生後も進行することがある。生命予後は臓器の奇形や皮膚のバリア機能、易感染性、難治性てんかんの有無によるが、これらは責任遺伝子の種類と、変異による活性低下の程度に大きく依存する。精神運動発達については,重度に遅れている症例が多い。

成人期以降の注意点

成人期まで達した症例に関しては、まだ報告数が少ないので現状は不明であるが、てんかんと重度精神運動発達遅滞を有する症例が多く、多くは経済的自立・就労は不可能であると考えられる。

参考文献


  • Tanigawa et al. Phenotype-genotype correlations of PIGO deficiency with variable phenotypes from infantile lethality to mild learning difficulties.Hum Mutat. 2017 Jul;38(7):805-815.
  • Murakami Y, Kinoshita T.Inherited GPI deficiencies:a new disease with intellectual disability and epilepsy.No To Hattatsu. 2015 Jan;47(1):5-13. Review.
  • Kuki I et al. Vitamin B6-responsive epilepsy due to inherited GPI deficiency. Neurology. 2013 Oct 15;81(16):1467-9.
:バージョン1.0
更新日
:43131
文責
:日本小児神経学会