1. 神経・筋疾患
  2. 大分類: 遺伝子異常による白質脳症
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先天性大脳白質形成不全症

せんてんせいだいのうはくしつけいせいふぜんしょう

congenital hypomyelinating leukodystrophy

告示

番号:4

疾病名:先天性大脳白質形成不全症

概念・定義

中枢神経系の髄鞘の形成不全により大脳白質が十分に構築されないことによって起こる症候群である。生直後からの眼振と発達遅滞、痙性四肢麻痺、小脳失調やジストニアなどの症状を呈する。代表的なものはペリツェウス・メルツバッハ病(PMD)である。PMDを含め、下記のこれまでに11疾患が同定されている(表1;11疾患と原因遺伝子)。
(1)ペリツェウス・メルツバッハ病
(2)ペリツェウス・メルツバッハ様病1
(3)基底核及び小脳萎縮を伴う髄鞘形成不全症
(4)18q欠失症候群
(5)MCT8欠損症
(6)Hsp60シャペロン(chaperon)病
(7)サラ病
(8)小脳萎縮と脳梁低形成を伴うび漫性大脳白質形成不全症
(9)先天性白内障を伴う髄鞘形成不全症
(10)失調、歯牙低形成を伴う髄鞘形成不全症
(11)脱髄型末梢神経障害、中枢性髄鞘形成不全症、ワーデンバーグ症候群、ヒルシュスプルング病

病因

11疾患全てにおいて原因遺伝子が同定されている。最も頻度が高いPMDはPLP1遺伝子の変異で起こる。それ以外に、GJC2、TUBB4A、MBP、SLC16A2、HSPD1、SLC17A5、POLR3B、FAM126A、POLR3A、SOX10、 POLR1Cなどの遺伝子の異常が原因となることが知られている。一方で、臨床的に先天性大脳白質形成不全症と診断された患者の3分の1では遺伝子変異が見いだされておらず、上記以外にも未同定の疾患原因遺伝子が存在すると考えられる。

疫学

国内で行われた疫学調査では本邦での発症率は、10万人出生あたり、0.78人であり、そのうちの0.26人がPelizaeus-Merzbacher病 (PMD)であった。アメリカ、ドイツからの報告もほぼ同様である。国内では200名程度の患者数と考えられる。

臨床症状

先天性大脳白質形成不全症に共通して認められる所見としては、運動路の障害による種々の程度の痙性四肢(下肢)麻痺があり、眼振,知的障害,小脳障害:体幹・四肢の失調症状,企図振戦,小児期には測定障害,変換障害,不明瞭言語など,大脳基底核障害:固縮,ジストニア,てんかんなどを呈す。幼児期には低緊張のことが多いが,上下肢の腱反射が亢進し,Babinski反射等の病的反射が残存し,次第に痙性四肢(下肢)麻痺を呈する.複合型あるいは単純型痙性対麻痺の表現型をもつ軽症例の存在が知られており,下肢の痙性が初発症状のことがある.運動障害・知的障害はほとんどの症例でみられる.一般的に運動障害が,知的障害よりも高度であり,言語理解力が表出言語能力を上回る.小脳障害は遠心路,求心路ともに起こる.体幹・四肢の失調症状,企図振戦,小児期には測定障害,変換障害,不明瞭言語などが認められることがある.固縮やジストニアなどの大脳基底核症状は,経過にともなって出現する場合も多い.白質異常により,皮質症状としてのてんかんを合併することもある.
その他、18q欠失症候群に特徴的な臨床症状としては、成長障害(特に低身長)、伝音性難聴、小頭症、顔面正中部低形成、くぼんだ眼球、眼裂狭小、鯉様の口などの多様な臨床症状が挙げられる。またMCT8欠損症では、四肢の固縮やジストニア姿勢、重度の運動障害・知的障害が特徴的である。小脳萎縮と脳梁低形成を伴うび漫性大脳白質形成不全症では近視、先天性白内障を伴う髄鞘形成不全症では白内障、などそれぞれの遺伝子異常に対応した症状も認める。

検査所見

血清・生化学的所見では,特異的なものはないが、MCT8欠損症では甲状腺ホルモン検査にて、fT4低値、fT3高値、fT3/fT4高値を示す.生理学的検査では,聴性脳幹反応や体性感覚誘発電位,視覚誘発電位ではいずれも種々の程度の中枢性伝導障害を示す.また,末梢神経伝導速度あるいは筋電図所見により末梢神経障害の有無により細分類する(表1)。髄鞘化の評価としては、MRIが診断確定に有用である。病変部の大脳白質の信号強度を、T1強調画像とT2強調画像で比較する。病変部の白質は大脳皮質と比較してT2強調画像で高信号であり、T1強調画像で高信号(正常パターン)・等信号・軽度低信号と様々な信号強度を呈し、皮質下白質から脳室周囲の深部白質まで同程度の信号強度であることが多い。脱髄(demyelination)では、病変部の白質はT2強調画像で強度高信号でありかつT1強調画像で強度低信号を呈し、一般的に病初期には皮質下白質(U-fiber)は保たれる。CT像では,白質の低吸収域を呈することがあるが,診断の有用性は低い。

診断の際の留意点

「診断の手引き」を利用する。先天性大脳白質形成不全症であることを、満たすには必ずしも遺伝子検査を必要としないが、遺伝子検査による、病原変異の検出は、予後・合併症の予測などに役立つ。PLP1遺伝子検索に関しては保険収載されているが、それ以外では保険外となるため、遺伝子検索を希望する場合には、ホームページより班員に連絡を取る(http://plaza.umin.ac.jp/~pmd/index.html)。

治療

根本的な治療が存在しないため、何れも症状に対して下記のような治療を行う。

■てんかん
てんかん発作の抑制は難治な場合が多いため、発作に伴う外傷、脳症、誤嚥、入院などを防ぐことを目標にする。治療は発作のタイプにより、部分発作にはカルバマゼピン(10-20 mg/kg分2)を第一選択とし、第二次選択薬としてはレベチラセタム(40-60mg/kg分2)、ラモトリジン(1-15 mg/kg分2)、トピラマート(5-9 mg/kg分2)、ゾニサミド(4-8 mg/kg分2)、バルプロ酸(10-30 mg/kg分2-3)、クロバザム(0.2-1 mg/kg分2)等を用いる。全般発作には第一選択薬バロプロ酸、フェノバルビタール (2-5mg/kg分1-2)を用い、第二次選択薬としてはラモトリジン、トピラマート、ゾニサミド、クロバザム等を用いる。

■ジストニア、痙直
ジストニアは不随意、持続的な屈筋、伸筋の同時収縮で、ねじれや異常な姿位になる。随意運動、感情、不快な刺激などで誘発され、本人へ疼痛、整形外科的な障害をもたらす。痙直は、相動性伸張反射の増強を主体とする筋緊張が亢進した状態である。それにより疼痛や歩行などの運動が障害されるようであれば、理学療法や定期的なストレッチ運動などで管理する。薬物療法としては、全身性の筋緊張亢進、ジストニアに関してはエペリゾン(1-4mg/kg分3), ジアゼパム(0.1-0.3mg/kg分1-3)、バクロフェン(0.1-0.3-0.6mg/kg分1-3)、ダントロレンナトリウム(0.5-3mg/kg分2-3)、ジサニジン(0.05-0.1-0.15mg/kg分1-3)、フェノバルビタール(2-5 mg/kg分1-2)を用いる。重症例では、バクロフェンの髄腔内注入、深部脳刺激療法などがある。局所性のジストニア、痙性では、ボツリヌス毒素(1-3U/Kg)を用いる(最大3ヶ月毎)。

■側弯・股関節脱臼
側弯は進行性で心肺機能や生活の質にも影響を与える。大切なことは予防することであり、毎回の診察時に確認する。疑われた場合は、レントゲン写真で確認し、装具で調整する。Cobb角が40-50度を超えてくる場合は手術が考慮される。股関節脱臼は筋緊張低下、痙直、けいれん、骨の脆弱性などが原因で、かつ大腿骨が内転・内旋・屈位になりやすいためにおこる。外転位保持夜間装具が必要となる場合がある。高度例では整形外科的な腸腰筋延長・切離術をおこなう。

■呼吸・摂食障害
重症度の高い患者に対しては、早期から嚥下困難や気道保護へ注意しておくことが肝心である。咽頭喉頭機能不全のために誤嚥性肺炎を起こしやすい。経口摂取が難しい症例では、経鼻胃管あるいは胃瘻からの栄養補給が行われる。筋緊張亢進のために、胃食道逆流を伴う症例では、噴門形成術を併用する。レントゲン撮影下の嚥下機能の評価をし、適切な栄養や水分の補給をより安全に行うため、経管栄養の適応を検討する。機械的な呼吸補助具は他の筋疾患では有効であることが多いが、この疾患群でも症状に応じて検討する価値はある。

■視覚、聴覚、言語障害
大脳皮質や網膜の障害、白内障、緑内障で視力障害をきたす。聴覚も同様に大脳皮質障害による。急激に意思疎通が不良になった患者では、聴力検査を試みるべきである。視覚障害や聴覚障害のある子どもとのコミュニケーションに際しては、電気的なコミュニケーションツールなどを用いると容易になることがある。

■睡眠障害
頻度は多いが周囲に気付かれにくい。原因は、疼痛、行動障害、多剤服用薬剤の副作用、舌根沈下などによる閉塞性呼吸障害、大脳障害による自律神経失調など多岐にわたる。環境調整から開始するが、投薬ではメラトニンが最も安全で忍容性が高く、効果も期待できる。次に鎮静効果のあるベンゾジアゼピン系のゾルピデムやテマゼパムなども用いられるが、過睡眠、筋緊張低下による舌根沈下、分泌物増加があるので、導入や維持は慎重に行う。

合併症

治療の項参照

予後

疾患により異なるが、最も多いPMDの場合、10~20歳台からゆっくりとした退行が始まるが、長期的な予後に関しては不明である。他の疾患では長期予後は、不明である。

成人期以降の注意点

PMDのように、発達も緩徐でありゆっくりとした退行を来す疾患と、中途まで正常発達を来たし、その後進行性の経過をたどる。症例によっては、乳幼児期から重度の運動障害・知的障害をきたし、強いジストニアとてんかんを示す疾患など、原因遺伝子および遺伝子変異により大きく異なるが、成人期以降の長期的な予後は不明であり、症例ごとに認められる症状に応じた医療的対応が必要となり、多くの例では成人期を超えた医療が必要となる。

参考文献

  • 先天性大脳白質症; PMDと類縁疾患に関するネットワーク http://plaza.umin.ac.jp/~pmd/index.html
  • 井上 健,岩城明子,黒澤健司,高梨潤一,出口貴美子,山本俊至,小坂 仁 先天性大脳白質形成不全症:Pelizaeus-Merzbacher病とその類縁疾患 脳と発達 2011:43(6);435-442
  • Osaka, H., and Inoue, K. (2015). Pathophysiology and emerging therapeutic strategies in Pelizaeus–Merzbacher disease. Expert Opinion on Orphan Drugs 3, 1447-1459.
:バージョン1.0
更新日
:2018年1月31日
文責
:日本小児神経学会