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スタージ・ウェーバー(Sturge-Weber)症候群

すたーじ・うぇーばーしょうこうぐん

Sturge-Weber syndrome

告示

番号:26

疾病名:スタージ・ウェーバー(Sturge-Weber)症候群

概念・定義

 スタージウェーバー症候群は、頭蓋内軟膜血管腫と、顔面ポートワイン斑(毛細血管奇形)、緑内障を特徴とする神経皮膚症候群の一つである。多くの神経皮膚症候群が常染色体優性遺伝を示すのに対し、スタージウェーバー症候群では遺伝性を示した例の報告はない。病態の基本は静脈発生障害による循環不全であり、脳、皮膚および眼の毛細血管奇形により診断がなされる。臨床上の問題点は、てんかん、精神運動発達遅滞、運動麻痺、および視力・視野障害などの神経症状が主であるが、顔面ポートワイン斑も患者の精神的苦悩の原因になる。神経症状は進行性および難治性の経過をとることが多く、予後に最も影響を与えると考えられている。
 近年、9番染色体長腕上に存在するGNAQ遺伝子の単一ヌクレオチド、モザイク変異が報告された。それより毛細血管奇形組織からの診断が期待されている。

病因

  明らかな病因は不明であるが、胎生初期の原始静脈叢の退縮不全と考えられている。胎生5~8週に原始静脈叢は静脈系の発生とともに退縮するが、スタージウェーバー症候群では静脈発生不全があるために原始静脈叢が遺残する事になる。頭蓋内では静脈灌流障害による脳血流低下より、局所神経症状やてんかん発作、精神運動発達遅滞が生じる。顔面を中心とした軟部組織においても静脈系灌流障害により軟部組織の腫脹やポートワイン斑が、眼においても眼圧上昇が生じると考えられる。
  近年、スタージウェーバー症候群患者の頭蓋内軟膜血管腫と顔面ポートワイン斑組織よりGNAQ遺伝子変異が報告された。GNAQ遺伝子変異は血管腫に見られた体細胞性変異であり、血管腫の発生や遺残に関与していると考えられる。しかしながら、静脈発生不全を説明し得るものではないため、更なる原因検索が求められている。

疫学

 年間 50,000~100,000 出生に 1 人の発症率と推定されている。本邦での正確な患者数は不明である。近年の本邦における出生数から計算すると年間 10~20 人の発生となる。よって、0~19歳まででは約300人の患者が推定される。本疾患の平均寿命も未定であるが、成人までを含めるとおおよそ1,000 人の患者数が予測される。予後に影響を与える難治性てんかんや精神運動発達遅滞を有する患者は約50~80%と考えられるため、本邦には500~800人の医療支援を必要とする患者が存在すると考えられる。

臨床症状

 頭蓋内軟膜血管腫、顔面ポートワイン斑(毛細血管奇形)、緑内障の三所見が重要とされるが、全てが揃う必要はない。毛細血管奇形を有する組織下で血液うっ滞とそれに伴う虚血変化が起こるため、病変の広い例がより重度の障害を呈することになる。
 てんかん発作は75~90%の患者に生じ、その約50%は数種の適切な抗てんかん薬治療を行ってもコントロールができない難治性てんかんである。乳児期に発作を初発するが、幼児期に発作が軽快する群と難治に経過する群に分かれる。発作型は血管腫部位より推定される焦点発作であるが、動作停止のみなどのわずかな症候であることも多く、注意深い観察が必要である。また一旦発作が起きると重積になる傾向がある。
 精神運動発達遅滞は50~80%に見られ、てんかん発作の重症度および軟膜血管腫範囲に比例する。軟膜血管腫に覆われた直下の脳は萎縮をしていることが多く、局所的な機能不全が生じているため、罹患部位が広い程発達遅滞の程度も強くなると考えられる。てんかん発作にともなった発達遅滞か虚血そのものによる症状かの鑑別は重要であり、てんかんに伴い発達遅滞や退行が生じている際には、てんかんの治療を優先させるべきである。
 軟膜血管腫下の脳皮質が虚血に陥るため運動麻痺などの局所神経症状を呈する。症状は脳可塑性により修飾を受けるが、虚血の進行とともに緩序に進行する傾向がある。また、てんかん発作も虚血を進行させるため、局所症状の進行を抑えるためにも発作をコントロールすることが肝要である。
 緑内障は静脈の形成不全と脈絡膜血管腫による静脈血うっ滞による眼圧上昇より生じる。頭蓋内の軟膜血管腫が前方に位置する例で生じやすくなるという部位的な関連がある。眼圧上昇より視力、視野障害が生じ、失明に至ることもあり得る。後頭葉の虚血による視障害と眼球病変の併存により、さらに視野欠損部位が広くなるも懸念され、総合的な判断が求められる。
 顔面皮膚のポートワイン斑(毛細血管奇形)は、三叉神経第1枝および第2枝領域に生じることが多い。必ずしも顔面ポートワイン斑側に頭蓋内軟膜血管腫があるわけではない。また両側顔面にポートワイン斑を認める例が約10%あるのに対し、約15%では顔面血管腫を認めない例が存在する。顔面ポートワイン斑を認める部位には軟部組織の腫脹が併存することが多く、口腔内では咬合不全、摂食不全の原因となる。

検査所見

頭蓋内軟膜血管腫とてんかん焦点診断には客観的な検査が必要になる。軟膜血管腫の有無と脳萎縮や石灰化などの付随所見の有無を確認するためには以下の検査が必要になる。

  1. 画像検査所見
    MRI:ガドリニウム増強において明瞭となる軟膜血管腫、罹患部位の脳萎縮、患側脈絡叢の腫大、白質内横断静脈の拡張
    CT:脳内石灰化
    SPECT: 軟膜血管腫部位の低血流域
    FDG-PET: 軟膜血管腫部位の糖低代謝

  2. 生理学的所見
    脳波:患側の低電位徐波、発作時の律動性棘波または鋭波

     MRI撮影の条件として、ガドリニウム増強を用いたFLAIR像や3D Susceptibility Weighted Imaging (SWI)はそれぞれ軟膜血管腫の範囲や白質内横断静脈の描出に優れている。生後6ヶ月未満でのMRI検査では適切な条件で撮影しても偽陰性や過小評価される事があり、繰り返し検査を行う必要がある。FDG-PETでは発作後数日に渡り高代謝領域が描出されることが知られており、陽性所見が得られた際には病勢を知る指標になる。
     発作間欠期の脳波では棘波や鋭波は出現頻度が低く、罹患領域が低電位となる事のみが記録される事が多い。そのため、てんかん発作の確定と病態把握にはビデオ脳波同時記録を行うと良い。発作時の症候では動作停止や呼吸抑制のみといった僅かのものであるため、注意深く観察をする必要がある。またその際の発作波も遅い周波数の律動波が長時間に渡り出現といった特徴的なものが多く見られる。
     毛細血管奇形部位のモザイク変異としてGNAQ遺伝子の変異(9q21, GNAQ,c.548G>A)が認められる。

診断の際の留意点

 顔面ポートワイン斑のないスタージウェーバー症候群はMRIなどの画像診断をしない限りには診断にいたらない。同様に小児の視力・視野障害出現時にも頭蓋内の画像診断を必要とする。
 てんかん発作症候は軽微で分かりづらい場合がある。てんかん発作の重症度と精神運動発達遅滞は相関するため、進行性の発達遅滞を生じているときには、てんかん発作の存在を疑う必要がある。
 知能障害、自閉傾向、行動異常は約80%に見られ、てんかん発作がコントロールされた後にも継続、進行することがある。

治療

 スタージウェーバー症候群に対する治療は保険診療が認められている。
 頭蓋内軟膜血管腫に対する根治的な治療法はなく、臨床的に問題となるてんかんに対する治療が主体である。抗てんかん薬にて発作が抑制されるのは約50%と考えられている。その他の抗てんかん薬に抵抗性の例にはてんかん外科治療が考慮される。基本的にてんかん焦点は軟膜血管腫下の皮質にあるため、血管腫部位が手術のターゲットである。てんかん発作を抑えることで発達を促すことが主目的であり、その為には脳の可塑性を考慮した積極的な焦点切除術が用いられることもある。てんかん手術にはその他に脳梁離断術や迷走神経刺激療法といった緩和的治療法も選択に入る。
緑内障には点眼薬による内科的治療と外科治療があるが、年少より生じている例では緩序進行性であり、治療効果が乏しい。
 顔面ポートワイン斑(毛細血管奇形)に対しては、レーザー治療が用いられている。年少期よりレーザー治療を行った方が、母斑の消退には効果を認めるとされている。数回にわたるレーザー治療を必要とするため、皮膚科専門医、形成外科専門医と相談をして治療計画を組むことが望ましい。

合併症

 運動麻痺などに神経症状が長期に渡ることより上下肢の関節拘縮や肢長の左右差が加わることがあり、装具装着やリハビリテーションを要する。
 軟部組織の腫脹が口腔内に生じると咬合不全の原因になり、摂食障害や栄養障害が合併する。

予後

 てんかん発作は適切な抗てんかん薬の投与により約50%で抑制が可能である。幼児期から学童期にかけて発作が寛解してくる傾向があるという報告もあるが、原因となっている静脈灌流障害は残存しているため、抗てんかん薬の減薬や中止は慎重に行った方が望ましい。てんかん発作のコントロールは頭蓋内軟膜血管腫の罹患部位の広さに相関するため、軟膜血管腫の広範囲例では早期の外科治療を行った方が予後は良好になる。両側大脳半球に軟膜血管腫をもつ例に対して、完全に発作を抑制する治療方法は確立されていない。
 知能障害、自閉傾向、行動異常は約80%に見られるが、てんかんに対する治療の他は有効な治療法は報告されていない。教育機関や小児心理士との連携が必要である。
 緑内障は緩序進行性であり、失明に至ることもある。
 顔面ポートワイン斑は早い治療介入が治療効果に対する良好因子とされる。

成人期以降の注意点

 成人期までを観察した多数例における長期予後の報告はない。現在、稀少難治性てんかんレジストリが進行しており、その結果よりデータ集積ができることを期待する。思春期以降にも自閉傾向、行動異常、発達障害が残存することが多くの例で見られるため、就労が困難になるなどの社会生活への不適応が生じている。

参考文献

  • 1) Pinto A, et al.: Epileptogenesis in neurocutaneous disorders with focus in Sturge Weber syndrome. F1000Res 2016: doi: 10.12688/f1000research.7605.1
  • 2) Shirley MD, et al.: Sturge-Weber syndrome and port-wine stains caused by somatic mutation in GNAQ. N Engl J Med. 2013 23; 368(21): 1971-9
  • 3) Griffiths PD, et al.: Contrast-enhanced fluid-attenuated inversion recovery imaging for leptomeningeal disease in children. AJNR Am J Neuroradiol. 2003; 24: 719-23.
  • 4) Warren Lo, et al: Update and future horizons on the understanding, diagnosis, and treatment of Sturge-Weber syndrome brain involvement. Dev Med Child Neurol. 2012:214-23.
  • 5) 菅野秀宣 他:Sturge-Weber症候群:No Shinkei Geka 2010, 38: 613-620
:バージョン1.0
更新日
:2018年1月31日
文責
:日本小児神経学会