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重症筋無力症

じゅうしょうきんむりょくしょう

myasthenia gravis; MG

告示

番号:20

疾病名:重症筋無力症

概念・定義

重症筋無力症(Myasthenia gravis: MG)は神経筋接合部の信号伝達に関わる蛋白に対する自己抗体によって,神経筋の刺激伝達が障害される自己免疫疾患である.主な標的抗原はシナプス後膜上のニコチン性アセチルコリン受容体(Acetylcholine receptor: AChR)であるが,筋特異的チロシンキナーゼ(MuSK)を標的とする自己免疫疾患も明らかになってきている.臨床症状は,運動の反復による筋力低下(易疲労性),夕方に症状が憎悪する(日内変動)を特徴とする.

病因

自己抗体によって,神経筋の刺激伝達が障害される自己免疫疾患である.AChR,MuSK以外に骨格筋のE-C couplingに関連する蛋白質(リアノジン受容体,ジヒドロピリジン受容体)や電位依存性Kチャネル(Kv1.4)に対する自己抗体の存在が明らかにされている.90%以上がAChRを標的としており,その機序は,抗AChR抗体による (1) AChとAChRの結合阻害,(2)AChR架橋によるAChR破壊,(3)補体を介在した後シナプス膜破壊によると考えられている.本疾患と胸腺異常(過形成,胸腺腫)との関連に関しては数多くの報告があるが,まだ十分には解明されていない.

疫学

本邦のMG発症年齢は5歳未満にピークがある.1973年の調査では小児期発症に最大のピークがあり,全患者1,430例のうち5歳未満発症は14.7%,5歳以上から10歳未満発症は6.8%であった.1987年の調査では患者総数は6,000例,うち5歳未満は10.1%,2006年の調査では患者総数は15,100例,うち5歳未満は7.0%であった. 2006年の全国疫学調査にて成人のMGは老年にシフトしているが,小児期発症のピークは過去30年間変わっていない.小児期発症MGは欧米には少ないが,日本,中国といった東アジアに頻度が高い.

臨床症状

動揺性のある筋力低下,易疲労性が特徴的である.日内変動があり,朝より夕方に症状が強いこと,運動の反復により症状が増悪し,休息により改善する.眼筋型は眼瞼下垂,外眼筋麻痺による複視を示す.眼瞼下垂は片側から始まり,両側に移行する.全身型も眼の症状で発症することが多いが,顔面,頸部,四肢近位筋に症状が認められ易い.重症では呼吸筋も障害される.急性増悪した場合をクリーゼと言い,重篤な呼吸障害を来し,人工呼吸管理,集中治療を要する.球症状は乳児では特に気付かれにくいが,弱い啼泣.哺乳不良や幼児では鼻声,むせやすさなどの症状を示す. 小児期発症MGに関しては,本邦では臨床および電気生理学的解析より純粋眼筋型,潜在性全身型,全身型に分類され,治療法の決定,予後の判定に有用であることが提唱されている.すなわち,潜在性全身型とは臨床的には眼筋症状のみであるが,四肢筋の誘発筋電図にて減衰現象を呈する場合であり,抗コリンエステラーゼ(ChE)薬に抵抗性である場合が多く,治療は全身型に準じた 免疫抑制療法を選択する.診断は,塩酸エドロホニウム試験による症状の改善の確認,誘発筋電図による低頻度連続刺激時の減衰現象,抗AChR抗体証明などで行う.抗AChR抗体は小児期発症MGでは陰性例が多く(50%),陽性例も成人例に比し低値である.

診断

治療

治療法は純粋眼筋型,潜在性全身型,全身型の分類により異なる.純粋眼筋型では,通常抗コリンエステラーゼ(ChE)薬にて治療を開始し,症状が改善しないときは,可及的速やかにステロイド薬を追加する.抗ChE薬は,対症療法に過ぎず必要最低量を投与するようにする.潜在性全身型には抗ChE薬を使う場合もあるが,無効の場合は積極的にステロイド薬を使う.全身型の場合,当初の治療は入院にて行い,ステロイド薬から開始する.ステロイド薬は初期に大量に使うことが一般的であるが,初期増悪に特に注意が必要である.投与方法は治療施設・医師の判断で隔日投与もしくは連日投与が選択される.小児特有の副作用としての成長障害をきたさないよう,ステロイド使用はできるだけ短期間かつ少量にとどめるよう工夫する.ステロイド薬の効果がないときは,他の免疫抑制薬(アザチオプリン,カルシニューリン阻害薬:タクロリムス,シクロスポリン)の追加または切り替えを考える.胸腺摘除術は,小児期発症MGの思春期前発症例は寛解率が高いこと,胸腺摘除術は寛解率に影響を及ぼさず,有効性のエビデンスも高くないことから,難治例に限定的に検討されるべきである.血液浄化療法・大量免疫グロブリン静注療法ともに,成人と同様,難治例や増悪したMG症状には有効な手段となりうる.大量免疫グロブリン静注療法は,血液浄化療法と比較して侵襲性が低く,またブラッドアクセス確保が難しい乳幼児に有用である.

予後

小児期発症MGの経過,予後は発症年齢,臨床型,治療の内容により異なる.早期の診断と適切な投薬加療により多くは寛解に至るが,治療開始が遅れた場合,適切な治療が成されなかった場合,症状が持続することもある.治療抵抗例,ステロイド依存性例もあり,加療中症状の増悪,再燃を示すことも少なくない.

文献

1) Andrew PI. A treatment algorithm for autoimmune myasthenia gravis in childhood. Ann N Y Acad Sci. 1998; 841: 789-802. 2) Chiang LM, Darras BT, Kang PB. Juvenile myasthenia gravis. Muscle Nerve. 2009; 39: 423-431. 3) Anlar B. Juvenile myasthenia: diagnosis and treatment. Paediatr Drugs. 2000; 2: 161-169. 4) 瀬川昌也.小児重症筋無力症―潜在性全身型―.内科 1973; 31: 1222-1226. 5) 大澤真木子.重症筋無力症.小児神経学の進歩第22集,診断と治療社,東京,1993: p127-140. 6) 野村芳子.小児重症筋無力症.Clinical Neuroscience 2008; 26: 986-989.

:バージョン1.0
更新日
:2014年10月1日
文責
:日本小児神経学会