1. 神経・筋疾患
  2. 大分類: 早産児ビリルビン脳症
77

早産児ビリルビン脳症

そうざんじびりるびんのうしょう

Bilirubin encephalopathy in preterm infants

告示

番号:55

疾病名:早産児ビリルビン脳症

疾患概念

ビリルビン脳症は、ビリルビンの神経毒性に起因する脳障害を指す。アンバウンドビリルビンは神経毒性を持ち、淡蒼球・視床下核・海馬・動眼神経核・蝸牛神経腹側核・小脳プルキンエ細胞・小脳歯状核などが選択的に障害される。早産児では、比較的軽度の高ビリルビン血症でもビリルビン脳症が起きることが知られている。日本では、出生体重1,000g未満の超低出生体重児の生存率が改善するとともに、早産児ビリルビン脳症の存在が認知されるようになってきた。早産児ビリルビン脳症の患者では、約3分の2を超低出生体重児が占めている。

ビリルビン脳症では、アテトーゼ型脳性麻痺・auditory neuropathy型聴覚障害・動眼神経麻痺による上方注視障害などの神経症状を認める。アテトーゼ型脳性麻痺は、主動作筋と拮抗筋との共収縮・筋緊張の著しい変動・姿勢や筋緊張の非対称性を特徴とする。情動や刺激による筋緊張の変化が特徴的で、安静時や睡眠時は低緊張であるが、刺激が加わったり興奮したりすると一気に著しい高緊張へと変化することが多い。姿勢も特徴的で、ほぼ常に非対称性を呈するとともに捻転の要素を持つことが多い。聴覚障害の客観的な評価は、合併する知的障害や運動障害のため必ずしも容易であるとは限らない。ビリルビン脳症の聴覚障害は蝸牛神経の障害を主とするauditory neuropathyであると考えられている。聴性脳幹反応には重度の異常を認めるが、日常生活では会話が可能であることもまれでなく、聴性脳幹反応所見と実際の聴力との間に乖離があることが特徴的である。

疫学

2013年に行われた在胎30週未満の早産児を対象とした全国調査では、早産児ビリルビン脳症の発生頻度は在胎30週未満の早産児1,000出生に対し約2と推定された。2017年の「早産児核黄疸の包括的診療ガイドラインの作成」班の全国調査の結果からは、毎年10人程度の早産児ビリルビン脳症の新規発症があると推定された。これらの結果から、日本では成人を含めると300人程度の早産児ビリルビン脳症の患者がいると推定される。

病因

早産児では中枢神経の未熟性がアンバウンドビリルビンの神経毒性の感受性を高めること、ビリルビン脳症のリスクを高める低アルブミン血症・アシドーシス・感染症などの合併症が稀でないことなどから、早産児ではビリルビン脳症のリスクが高い。アンバウンドビリルビンによる神経毒性は、細胞膜やミトコンドリアおよび小胞体の膜に対する障害に関連することが知られている。アンバウンドビリルビンが生体膜のリン脂質と何らかの相互作用を起こし、その結果として小胞体ストレス・酸化ストレス・酵素活性低下・エネルギー産生不全などが起きることが推定されているが、詳細な細胞障害の機序はいまだ不明である。興奮毒性や炎症は、アンバウンドビリルビンによる神経障害を促進すると推定されている。これらの結果として、神経細胞内にCaイオンの流入が起こり、アポトーシスや細胞周期の停止をきたすと考えられている。

臨床症状

神経症状では、アテトーゼ型脳性麻痺が特徴的である。乳児期から非対称な姿勢と筋緊張の著しい変動を伴う運動発達遅滞を認める。抗重力的な伸展支持が難しく屈曲活動優位であるため、腹臥位では殿部が挙上した逆三角形を呈する。筋緊張は著しい低緊張から過緊張まで目まぐるしく変動し、特に情動による影響を受けやすい。低緊張と過緊張、ジストニー姿勢(運動寡少)とアテトーゼダンス(運動過多)、非対称の側方性(運動パターンの左右差が交替する)など、同一症例でも緊張状態や運動徴候に変動が大きい。粗大運動の障害が重篤であるのに比較して、コミュニケーション能力は比較的保たれていることが多い。また、上肢の機能も比較的保たれていることが多い。通常の形態の食事を摂取できる患者が約半数であり、全面的な介助が必要であっても食事を安全で効率的に摂取できる患者は少なくない。一方、重症例では口腔・咽喉頭周囲の不随意運動が強いため有意語を話すことができず、呼吸や嚥下の障害および重度の知的能力症を合併する身体的または精神的ストレスがあると、横紋筋融解症に至るほどの過緊張につながることもある。

聴覚障害では、auditory neuropathyによる感音性難聴が特徴である。auditory neuropathyは蝸牛神経の障害であり、内耳の外有毛細胞の機能は保たれていると考えられる。auditory neuropathyでは音に対する反応の同期性が乏しいため聴性脳幹反応では異常を呈するが、音に対する信号は大脳に伝わる。このため、聴性脳幹反応で高度な異常があっても一定以上の聴覚が保たれる。聴性脳幹反応で無反応であっても、日常生活において音声に適切に反応する患者は稀でない。

歯の黄染やエナメル質異形成もビリルビン脳症の特徴であるが、早産児ビリルビン脳症における実態は今のところ十分に明らかになっていない。

検査所見

頭部MRIでは、両側淡蒼球にT2強調像で高信号を呈する病変を認める。淡蒼球の病変は修正6~18か月では高率に認めるが、修正2歳を過ぎると徐々に分かりにくくなる。新生児期には両側淡蒼球にT1強調像で高信号を呈する病変を認める可能性があるが、適切な時期にMRIを施行するのは困難である。視床下核にも同様の病変を認めると推定されるが、視床下核はサイズが小さいためその確認は必ずしも可能とは限らない。

聴性脳幹反応では、無反応などの高度な異常を認めることが多い。聴性脳幹反応の異常は新生児期から小児期まで高率である。自動聴性脳幹反応による新生児聴覚スクリーニングでも異常を認めることが稀でない。

診断

「早産児核黄疸の包括的診療ガイドラインの作成」班が提案した診断基準は以下の通りである。まず神経症状を注意深く評価することが重要である。頭部MRI所見は、信号強度の変化が顕著でないことがあるので、慎重な判読が必要である。新生児期のビリルビン値が著しい高値でない症例が多いため、著明な高ビリルビン血症を認めなくても早産児ビリルビン脳症を除外することはできない。

  1. 非対称な姿勢、情動による筋緊張の変動、反り返りの3つを特徴とする脳性麻痺もしくは運動発達遅滞を呈する
  2. 在胎週数37週未満で出生
  3. 頭部MRI(T2強調像)で両側淡蒼球に異常信号を認める※1
  4. 聴性脳幹反応(ABR)で異常を認めるが、聴覚反応は保たれている
  5. 他の粗大な脳病変、脳奇形、進行性疾患を除外できる※2
※1
異常の検出率が高い生後6か月から1歳半の撮像で確認することが望ましい
※2
非特異的な脳室拡大、脳梁菲薄化、軽度の脳室周囲白質軟化症(PVL)は除外しない。両側視床および被殻に異常を認める例は除外する
診断のカテゴリー
確実例:
1、2、3、5 を満たす
疑い例:
1、2、4、5 を満たす

診断の際の留意点/鑑別診断

アテトーゼ型脳性麻痺と痙直型脳性麻痺とを鑑別することが重要である。早産児ビリルビン脳症に特徴的な非対称な姿勢と筋緊張の著しい変動に注目することが、両者の鑑別に有用である。

頭部MRIにおける淡蒼球の信号異常は、修正6か月から1歳6か月では明瞭であることが多いが、それ以外の年齢では不明瞭なことが稀でない。MRIを判読する際には撮像時の年齢を考慮して慎重に判読することが重要である。

聴性脳幹反応で無反応であることを根拠に高度難聴と判定されることがあるが、実際には音声に良好な反応を示すことが稀でない。日常生活の場面における音に対する反応を適切に評価することが求められる。

合併症

消化器合併症では、誤嚥・誤嚥性肺炎が多い。固形物よりも液体を誤嚥しやすく、粘性があるものやペースト状の形態のものは誤嚥しにくい。重度の運動障害を認める児では、胃の軸捻転をきたしやすい。さらに、過緊張による腹腔内圧の高まりと空気嚥下や便秘による腹満から、胃食道逆流を認めることも稀ではない。誤嚥に胃食道逆流を伴う場合は重度の誤嚥性肺炎をきたす危険性が高く、窒息に至る可能性がある。

呼吸器合併症では、背景に早産児に特有の慢性肺疾患を有することが多く、在宅酸素療法を要することが少なくない。呼吸予備能の低下から感染に伴って呼吸不全となり、気管切開を要することがある。上気道の合併症としては、閉塞性無呼吸症候群がある。過緊張による頸部の過後屈と下顎の引き込み、舌根沈下が原因となる。下気道の合併症としては誤嚥性肺炎が最も多く、喉頭軟化症や肺ヘモジデローシスも起こることがある。

整形外科的合併症では、脊柱側彎と股関節脱臼・亜脱臼が多い。いずれも進行性で、有効な予防法は知られていない。股関節亜脱臼の出現時期は2~13歳で、5歳にピークを認める。おむつの交換や陰部の清潔保持に支障をきたす。脊柱側彎は思春期に急激に悪化する。

早産児ビリルビン脳症に特徴的な合併症として、ジストニア重積・急性脳症・突然死が挙げられる。ジストニア重積は感染や情動の変動をきっかけに発症し、重篤な全身性のジストニアが数時間から数日にわたって持続する。内服薬や坐薬での鎮静は困難で、バルビツレートやベンゾジアゼピン系薬物などの静脈内投与を要し、時には呼吸循環管理を必要とする。著しい高CK血症やミオグロビン尿を伴うことがあり、多臓器不全に陥って生命の危険を招くこともある。感染をきっかけに急性脳症を発症した症例も散見されている。また、就寝中に予期せぬ死亡を認めることがある。

治療

現状では、治療は対症療法である。運動障害に対する治療は、多方面からのアプローチが必要である。リハビリテーションはすべての症例に必要で、姿勢保持や介助量軽減など日常生活のあらゆる面に効果を認める。不眠や不機嫌のコントロールも重要で、必要に応じて抗痙縮薬や睡眠薬の調整を行う。アテトーゼ型脳性麻痺に対して有効性のエビデンスが確立された内服薬は無いのが現状だが、日本ではクロルジアゼポキシドなどが多く使用されている。ボツリヌス毒素筋注療法や髄腔内バクロフェン持続注入も試みられることがある。

予後

神経症状は改善することはなく、ジストニアは年齢とともに悪化する傾向がある。消化器・呼吸器合併症に対しては胃瘻造設・気管切開・喉頭気管分離などの治療が必要になることが稀でない。成人期の早産児ビリルビン脳症については未だ十分な調査が行われておらず、不明な点が多い。

早産児ビリルビン脳症患者86人の調査では、幼児期に死亡した患者が4人、学童期の死亡した患者が4人で、小児期全体の死亡率は9.5%であった。幼児期の死亡原因は呼吸不全・脳症が1人ずつ、不明が2人であった。学童期以降の死因はすべて睡眠中の突然死であった。

成人期以降の注意点

これまでに成人の早産児ビリルビン脳症の研究はなされておらず、その詳細な実態は不明である。一般に神経症状は改善することはなく、合併症としての脊椎側弯や呼吸障害は徐々に増悪すると予想される。今後の調査によって、成人の早産児ビリルビン脳症の患者の実態やその問題点が明らかになることが期待される。

参考文献

  1. 日本医療研究開発機構 難治性疾患実用化研究事業「早産児核黄疸の包括的診療ガイドラインの作成」班.早産児ビリルビン脳症(核黄疸)診療の手引き
  2. Okumura A, et al: A nationwide survey of bilirubin encephalopathy in preterm infants in Japan. Brain Dev. 2020; 42: 730-7.
  3. Kitai Y, et al: A questionnaire survey on the efficacy of various treatments for dyskinetic cerebral palsy due to preterm bilirubin encephalopathy. Brain Dev. 2020; 42: 322-8.
  4. Kitai Y, et al: Diagnosis of Bilirubin Encephalopathy in Preterm Infants with Dyskinetic Cerebral Palsy. Neonatology. 2020; 117: 73-9.
  5. Morioka I, et al: Current incidence of clinical kernicterus in preterm infants in Japan. Pediatr Int. 2015; 57: 494-7.
:第1版
更新日
:2021年11月1日
文責
:日本小児神経学会