1. 神経・筋疾患
  2. 大分類: 難治てんかん脳症
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遊走性焦点発作を伴う乳児てんかん

ゆうそうせいしょうてんほっさをともなうにゅうじてんかん

Epilepsy of infancy with migrating focal seizures; EIMFS

告示

番号:76

疾病名:遊走性焦点発作を伴う乳児てんかん

疾患概念

発症までの発達が正常な生後6ヶ月未満の児におこるてんかん性脳症。発作中に脳波焦点が対側または同側の離れた部位に移動してそれに相応する多様な焦点性運動発作を示し、後に多焦点性の発作がほぼ連続するようになる。治療抵抗性であり、多くの症例で発作予後、発達予後ともに不良で、重度の精神運動発達遅滞を残す。

疫学

国内での疫学的調査はないが、国内の患者数は約225人と推定される。

病因

かつては原因不明とされたが、一部の患者に KCNT1SCN1AKCNQ2SCN2ASCN8ATBC1D24SLC25A22SLC12A5 などの遺伝子異常が見つかっている。遺伝子異常が見つかる割合は約70%である。中でも、ナトリウム依存性カリウムチャネルをコードする KCNT1 異常の頻度が最も多く、27%~50%の患者で認められる。

臨床症状

発症前の発達は正常で、6か月未満で様々な焦点起始発作で発症する。その後、1か月から1歳ぐらいの間に、発作が頻発し、ほぼ連続してみられるような期間を経験する。発作焦点部位の移動に伴い、眼球・頭部の偏位、眼瞼のぴくつきや眼球の間代、上下肢や顔面・口角の間代や強直、咀嚼、強直間代発作など多様に変化し、無呼吸、顔面紅潮、流涎などの自律神経症状を高頻度に伴う。その後、発作頻度は減少する。

検査所見

1. 脳波
発作間欠期:
初期にはてんかん性発作波はまれで、背景波が徐波化を示す。年齢とともに多焦点性の脳波異常を示すようになる。
発作時:
1回の発作中に律動性の鋭波がある部位から起こり、対側大脳半球や同側の離れた部位に移動する。発作症状も移動した発作波の焦点部位に相当する症状に変化する。
2. 頭部MRI
発症時は正常だが、経過とともに萎縮が見られることがある。

診断

A. 症状
  1. 発作中に発作焦点部位が移動する部分発作(多くは運動発作)。
  2. しばしば無呼吸、顔面紅潮、流涎などの自律神経症状を伴う。
  3. 発作は群発ないしシリーズをなして頻発する。
  4. 発症前の発達は正常であるが、重度の精神運動発達遅滞を残す。
B. 検査所見
1. 血液・生化学的検査:
特異的所見なし。
2. 画像検査:
初期には異常なく、病変はない。進行すると脳萎縮を示す。
3. 生理学的検査:
初期にはてんかん性波はまれで、背景波が徐波化を示す。その後、多焦点性棘波が出現する。発作中には脳波焦点が対側又は同側の離れた部分に移動し、一つの発作時発射が終わる前に次の発作時発射がはじまる。
C. 鑑別診断

鑑別する疾患は、新生児期のけいれん、急性脳炎・脳症、ピリドキシン依存症、ピリドキシンリン酸依存症、アルパース(Alpers)病、乳児の良性部分てんかん、家族性又は非家族性良性新生児けいれん、家族性良性乳児けいれん、早期ミオクロニー脳症。

D. 遺伝学的検査
KCNT1SCN1APLCB1SCN2ASCN8ATBC1D24SLC25A22SLC12A5QARS などの変異。
診断のカテゴリー
Definite:生後 6か月未満の児に A. 1. がみられ、B. 3. が確認されれば診断は確定する。

診断の際の留意点/鑑別診断

診断の根拠となるのは発作時の脳波所見であり、長時間脳波を記録することが望ましい。また、本症を疑う場合、複数回の発作時脳波記録を行うことで、診断が可能な場合もある。主な鑑別疾患は、新生児期のけいれん、急性脳炎・脳症、ピリドキシン、ピリドキシンリン酸依存症、Alpers病、乳児の良性部分てんかん、家族性または非家族性良性新生児けいれん、家族性良性乳児けいれん、早期ミオクロニー脳症などが挙げられる。

合併症

KCNT1 変異例で体肺側副血行路による肺出血をきたす例が報告されている。

治療

確立した治療法はない。一般的に、通常の抗てんかん薬、ステロイド、ケトン食での治療に対して抵抗性である。臭化カリウムが効果的との報告がある。KCNT1変異例で抗不整脈薬のキニジンが効果的だったという報告がある。

予後

発作予後、発達予後ともに不良なことが多い。発症前の発達は正常だが、発症後は発達の停滞が見られる。てんかんは発作が1歳以後に減少するが、長期に渡治療継続が必要である。認知機能、行動の障害のほか、種々の程度の運動機能の障害を伴うことが多い。

研究班

平成29~31年度厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)「稀少てんかんに関する調査研究」
令和2~4年度厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)「稀少てんかんに関する包括的研究」

成人期以降の注意点

てんかんは成人期以降も治療が必要なことも多い。知的障害や自閉スペクトラム症などの行動障害の合併もあり、症状に応じて継続的な支援が必要である。

参考文献

  1. Coppola, G. (2009). Malignant migrating partial seizures in infancy: An epilepsy syndrome of unknown etiology. Epilepsia, 50, 49–51.
  2. Kawasaki Y.et al. (2017). Three Cases of KCNT1 Mutations: Malignant Migrating Partial Seizures in Infancy with Massive Systemic to Pulmonary Collateral Arteries. The Journal of Pediatrics, 191, 270–274.
  3. 須貝研司.片側巨脳症.希少てんかんの診療指標.日本てんかん学会, 東京, 診断と治療社, 2017:38-40
  4. Burgess R.et al. (2019). The Genetic Landscape of Epilepsy of Infancy with Migrating Focal Seizures. Annals of Neurology, 86(6), 821–831.
:第1版
更新日
:2021年11月1日
文責
:日本小児神経学会