1. 神経・筋疾患
  2. 大分類: 難治てんかん脳症
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早期ミオクロニー脳症

そうきみおくろにーのうしょう

Early myoclonic encephalopathy

告示

番号:69

疾病名:早期ミオクロニー脳症

疾患概念

多くの場合生後1月以内に発症するてんかん性脳症で、眼瞼、顔面、四肢等の不規則で部分的な、ばらばらで同期しない、一見、焦点間代発作にも見えるミオクローヌス(erratic myoclonus)が睡眠時・覚醒時ともにみられ、次いで微細な発作、自動症、無呼吸、顔面紅潮等を伴う多彩な焦点発作が現れる。脳波は睡眠時、覚醒時ともに正常な基礎律動や睡眠活動はなく、suppression-burst(SB)パターンを示し、睡眠時により明瞭になる。発作予後、発達予後ともに不良で、半数は1歳以内に死亡し、生存例も最重度の発達遅滞を示す。

疫学

非常にまれであり、国内での患者数100例未満と推定される。

病因

共通した病因はないが、代謝異常症(非ケトーシス性高グリシン血症が多く、その他プロピオン酸血症、ビタミンB6依存性てんかん等)や遺伝子異常によるものが原因となっている例がある。一定した遺伝子変異は知られていないが、CDKL5KCNQ2ErbB4SCN1AGABRB2SIK1AMTSLC25A22STXBP1SPTAN1 変異等の報告例がある。国内では脳形成異常が原因の例も少なくないとされる。

臨床症状

発症は生後1か月以内がほとんどであり、生後から、あるいはてんかんの発症時から反応性の低下や筋緊張低下などの神経学的な異常がみられる。発作は睡眠時・覚醒時ともに見られる眼瞼、顔面、四肢の不規則で部分的なミオクローヌス(erratic myoclonus)で発症し、次いで微細な発作、自動症、無呼吸、顔面紅潮等を伴う多彩な焦点発作となる。erratic myoclonusは通常2、3週~2、3か月で消失する。時に全身性ミオクローヌス、後に強直発作や反復するスパズムを示すこともある。発症後は、発達は停滞あるいは退行する。

検査所見

  1. 脳波所見 SBパターンを覚醒、睡眠ともに示す。SBパターンは睡眠時により顕著になり、睡眠時のみに見られることもある。通常2、3か月後に非定型ヒプスアリスミアあるいは多焦点性発作波となるが、SBパターンが数か月~数年持続する場合や、非定型ヒプスアリスミアからSBパターンにもどる場合もある。
  2. 頭部MRI 全前脳胞症、滑脳症、限局性皮質異形成などの脳形成異常が見られる場合がある。
  3. その他 先天代謝異常などの原因検索のための検索、染色体検査、遺伝子検索などが必要となる。

診断

本症は臨床症状と脳波所見にて診断する。生後1か月以内(まれに3か月以内)の児に不規則で部分的なミオクローヌス(erratic myoclonus)が睡眠時・覚醒時ともに出現し、後に微細な発作、自動症、無呼吸、顔面紅潮などを伴う多彩な焦点発作がみられる。脳波所見では、SBパターンが見られる。本症のSBパターンは、睡眠時に顕著で、睡眠時のみに見られる場合もある点が特徴である。

診断の際の留意点/鑑別診断

Erratic myoclonusを示す疾患と、脳波でSBパターンを示す疾患が対象となり、特に大田原症候群(Ohtahara syndrome:OS)との鑑別が問題となる。発作症状では、OSでは強直発作、スパズムで発症し、ミオクローヌスはOSではまれであることが異なる。また、OSのSBパターンは覚醒・睡眠で変化しない点が異なるとされる。非ケーシス性高グリシン血症をはじめとする代謝異常症の検索が必要である。また、ビタミンB6依存性てんかんでもミオクローヌスやSBパターンが出現することがあり、鑑別を要する。

治療

通常の抗てんかん薬やホルモン治療(ACTHなど)、ケトン食療法などが行われるが、治療抵抗性である。非ケトーシス性高グリシン血症を基礎に持つ場合、ビガバトリン投与で悪化した例の報告がある。代謝異常症が基礎にある場合はその治療で改善する場合もある。

予後

Erratic myoclonusは数週間あるいは数ヶ月後に消失する。てんかん発作は難治で、発作予後、発達予後ともに不良なことが多い。半数は1歳以内に死亡する。

研究班

平成26~28年度厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)「希少難治性てんかんのレジストリ構築による総合的研究」
平成29~31年度厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)「稀少てんかんに関する調査研究」
令和2~4年度厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)「稀少てんかんに関する包括的研究」

成人期以降の注意点

長期経過に関する情報に乏しい。てんかん以外にも認知機能、運動機能に重大な障害をみとめ、成人期以降もてんかんの治療とともに全身状態に合わせた対症療法や支援が必要である。

参考文献

  1. 須貝研司.日本てんかん学会(編):早期ミオクロニー脳症,稀少てんかんの診療指標.診断と治療社,2017:34-7.
  2. Mizrahi EM, Milh M. (2019) Early severe neonatal and infantile seizures. In: Bureau M, Genton P, Delgado-Escueta A, Dravet C, Guerrini R, Tassinari CA, Thomas P, Wolf P (Eds). Epileptic syndromes in infancy, childhood and adolescence (6th ed). 91-102. Montrouge, John Libbey Eurotext Ltd
:第1版
更新日
:2021年11月1日
文責
:日本小児神経学会