概要
有馬症候群は、1971年に有馬正高により報告された疾患で、乳児期早期より重度精神運動発達遅滞、先天性視覚障害、嚢胞腎(若年性ネフロン癆)、眼瞼下垂、小脳虫部欠損、下部脳幹形成異常を呈する常染色体劣性遺伝疾患である
ジュベール(Joubert)症候群は、1969年にJoubertがフランス系カナダ人の家族に筋緊張低下、呼吸異常、眼球運動失行、小脳虫部低形成あるいは欠損を呈する疾患を初めて報告し、その後世界で100例以上の報告がある。近年、この本来のJoubert症候群に腎障害、視覚障害などの合併が報告され、Joubert症候群関連疾患として提唱されている。
疫学
有馬症候群は、本邦で10名程度と推測される。Joubert症候群は、8-10万に1名程度と推測されている。
病因
近年、ジュベール(Joubert)症候群, セニオール・ローケン(Senior-Loken)症候群, COACH 症候群 などのジュベール症候群関連疾患はcilia(繊毛)の障害として理解されている。
絨毛(cilia)は脊椎動物のほとんどの細胞に存在し、非運動性の一次繊毛(primary cilium)と運動性繊毛(motile cilium)がある。
最近、一次繊毛は多くの臓器に存在し、機械的や化学的な刺激の受容のみならず発生や器官形成・維持に必要なシグナル因子の情報伝達を担っていることがわかってきた。その一次繊毛の機能不全は脳形成障害や多指症、のう胞腎、肝・膵の形成障害、網膜の形成障害などをもたらし、知的障害などがおきる。
これらの疾患の原因遺伝子の異常として、AHI1, NPHP1, NPHP6 (CEP290), TMEM67 (MKS3 or MECKELIN) and RPGRIP1Lなどが報告されている。
有馬症候群の遺伝子の異常はいまだ不明であるがやはりciliopathy(繊毛障害)の可能性が高いといわれている。
症状
有馬症候群は、早期より重度の精神運動発達遅滞、小脳虫部欠損・低形成(脳幹部の形態異常を伴うことがある)、乳幼児期から思春期に生ずる進行性腎機能障害、病初期からみられる視覚障害(網膜部分欠損などを伴うことあり)、片側あるいは両側性の眼瞼下垂様顔貌(症状の変動があることがある)が特徴である。腎機能障害、視覚障害は、当初異常なくても、途中から症状が顕在化してくることがある。腎機能障害は、脱水、成長障害、不明熱という症状で、気づかれることもある。
ジュベール症候群は筋緊張低下、呼吸異常、眼球運動失行、小脳虫部低形成・欠損を呈する疾患である。小脳虫部の低形成と脳幹部の形態異常は、Molar Tooth signとして知られている。ジュベール症候群は近年多彩な症状を呈することが分かり、Joubert症候群+視覚障害やJoubert症候群+腎機能障害、Joubert症候群+視覚障害+腎機能障害、Joubert症候群+顔面指異常・内臓逆位などが報告され、Joubert症候群関連疾患という概念が提唱されている。
治療
有馬症候群の治療については、予後に関連する腎障害の治療が重要となる。早期よりの腎障害への対応、また腎障害が進行すると透析、腎移植などが必要になる。
Joubert症候群では、新生児期、乳幼児期などに呼吸障害を呈する場合がある。呼吸促進剤、酸素投与、場合によっては、人工呼吸器管理などを要する場合がある。
また有馬症候群、Joubert症候群ともに、低緊張・運動発達の遅れや認知面・言語面などの遅れに対して、早期介入などの療育を必要とする。
予後
Joubert 症候群の呼吸異常は時に死に至ることもあるので注意が必要である。しかし呼吸異常は通常は年齢と共に改善することが多い。Joubert症候群にも腎障害を合併することがあり、予後を左右する。有馬症候群は早期に腎障害が進行することが多く、遅くとも小児期には腎不全となる。
- 版
- :バージョン1.0
- 更新日
- :2014年10月1日
- 文責
- :日本小児神経学会