概念・定義
微小血管障害性溶血性貧血(MAHA)は様々な原因疾患を背景に細小血管で微小血栓が形成され赤血球破砕が起こる病態である.血栓性微小血管障害症(thrombotic microangiopathy : TMA)や播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation:DIC)は主たる病因となる.近年,von Willebrand因子(VWF)の特異的切断酵素であるADAMTS13(a disintegrin-like and metalloproteinase with thrombospondin type 1 motifs 13)に関する研究が飛躍的に進歩する中で,血小板血栓主体のTMAとフィブリン血栓主体のDICは明確に区別されるようになってきた.TMAとは①クームス試験陰性のMAHA(破砕赤血球を伴う貧血,ハプトグロビン低下,LDH上昇,間接ビリルビン上昇などを伴う),②消耗性の血小板減少,③微小循環障害による臓器障害を3主徴とする疾患概念であり,血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura : TTP)と溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome : HUS)が含まれる.両疾患は明確に区分できない場合があり,その代表が造血幹細胞移植後TMA(SCT-TMA)である.HUSは志賀毒素産生腸管出血性病原大腸菌(Shiga toxin-producing Escherichia coli : STEC)に起因するSTEC-HUSと,下痢症状を伴わない非定型HUS(atypical HUS : aHUS)に大別される.このようにMAHAは多岐にわたる疾患を含む病態である.以下,STEC-HUS,aHUS,SCT-TMA,DICのそれぞれについて概説する.広汎な疾患概念を包括する非常に複雑な病態であるが,近年,診断や治療に関するガイドラインが整備されつつある.HUSとDICに関しては2014年3月時点で本邦における診断・治療のガイドラインが作成されており,本稿もその内容に従った.SCT-TMAに関しては,造血細胞移植ガイドラインGVHD(日本造血細胞移植学会)の「資料3.Thrombotic microangiopathy(TMA)」の項も一部参照した.詳細は各々のガイドラインを,また,TTPに関しては,別項「血栓性血小板減少性紫斑病」を参照されたい.
- 版
- :バージョン1.0
- 更新日
- :2014年10月1日
- 文責
- :日本小児血液・がん学会
概要
微小血管障害性溶血性貧血(MAHA)は様々な原因疾患を背景に細小血管で微小血栓が形成され赤血球破砕が起こる病態である.血栓性微小血管障害症(thrombotic microangiopathy : TMA)や播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation:DIC)は主たる病因となる.近年,von Willebrand因子(VWF)の特異的切断酵素であるADAMTS13(a disintegrin-like and metalloproteinase with thrombospondin type 1 motifs 13)に関する研究が飛躍的に進歩する中で,血小板血栓主体のTMAとフィブリン血栓主体のDICは明確に区別されるようになってきた.
TMAとは①クームス試験陰性のMAHA(破砕赤血球を伴う貧血,ハプトグロビン低下,LDH上昇,間接ビリルビン上昇などを伴う),②消耗性の血小板減少,③微小循環障害による臓器障害を3主徴とする疾患概念であり,血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura : TTP)と溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome : HUS)が含まれる.両疾患は明確に区分できない場合があり,その代表が造血幹細胞移植後TMA(SCT-TMA)である.
HUSは志賀毒素産生腸管出血性病原大腸菌(Shiga toxin-producing Escherichia coli : STEC)に起因するSTEC-HUSと,下痢症状を伴わない非定型HUS(atypical HUS : aHUS)に大別される.
このようにMAHAは多岐にわたる疾患を含む病態である.以下,STEC-HUS,aHUS,SCT-TMA,DICのそれぞれについて概説する.広汎な疾患概念を包括する非常に複雑な病態であるが,近年,診断や治療に関するガイドラインが整備されつつある.HUSとDICに関しては2014年3月時点で本邦における診断・治療のガイドラインが作成されており,本稿もその内容に従った.SCT-TMAに関しては,造血細胞移植ガイドラインGVHD(日本造血細胞移植学会)の「資料3.Thrombotic microangiopathy(TMA)」の項も一部参照した.詳細は各々のガイドラインを,また,TTPに関しては,別項「血栓性血小板減少性紫斑病」を参照されたい.
定義(DIC)
様々な基礎疾患の存在下に全身性持続性の著しい凝固活性化をきたし,MAHAが多発する重篤な病態である.
病因
原因となる基礎疾患は敗血症,悪性腫瘍,手術や外傷などの組織損傷,動脈瘤や血管炎などの血管性病変,産科疾患,全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome:SIRS)を引き起こす疾患など多岐にわたる.これら基礎疾患により,組織因子の過剰発現や血管内皮細胞障害を原因として発症する.
疫学
1992年に行われた,内科,外科,小児科,産婦人科を対象とした厚生労働省研究班全国調査では,患者123,231例に対してDICの発現は1,286 例(約1%)にみられた.1998年の厚生労働省の調査では,絶対数が多いDICの基礎疾患は敗血症,ショック,非ホジキンリンパ腫などであり,DIC発症頻度の高い基礎疾患は急性前骨髄球性白血病(APL),劇症肝炎,前置胎盤などであった.
臨床症状
凝固系と線溶系のバランスによりDICの病態は大きく異なり,「線溶抑制型DIC」,「線溶亢進型DIC」,「線溶均衡型DIC」の3型に分類される.
「線溶抑制型DIC」の代表例は敗血症に伴うDICで,炎症による臓器障害以外に,plasminogen activator inhibitor‒I(PAI-I)が著増し,虚血性臓器症状が出現しやすい.重症例では多臓器不全が進行し,予後は極めて不良となる.
「線溶均衡型DIC」の代表例は固形癌であり,凝固活性化に見合うバランスのとれた線溶活性化がみられる.代償がとれていれば“一見,無症状”に見えるが,血栓症状が進行すれば,血小板・凝固因子の消費が進み出血傾向を来す.この時期には線溶活性化も出血症状を助長する.
「線溶亢進型DIC」の代表例にはplasminogen activator(PA)を産生する腫瘍(前立腺癌,肺癌など),annexin IIを高発現するAPL,tissue-type plasminogen activator(t-PA)の分泌異常を呈するKasabach-Merritt症候群,その他動脈瘤などがある.出血症状は高度であるものの臓器症状は比較的見られにくいのが特徴であるが,出血症状のコントロールのため線溶活性化の適度な制御が必要な場合もある.
診断
(小児慢性特定疾病の対象疾患ではありません)
治療
DICの原因となる基礎疾患の治療を行うことは当然のことながら必須である.
DICに特化した治療としては抗凝固療法が勧められる.ヘパリン(未分化ヘパリン,低分子ヘパリン,ダナパロイドナトリウム),合成プロテアーゼ阻害剤(メシル酸ガベキサート,メシル酸ナファモスタット),生理的プロテアーゼインヒビター(アンチトロンビン)などが投与される.近年,本邦で新たに開発されたリコンビナントトロンボモジュリン(rTM)が,未分化ヘパリンに対し有意なDICの改善および出血症状の改善を示したことで注目されている.
著明な線溶活性化を伴ったDICに対する抗線溶療法(トラネキサム酸とイプシロンアミノカプロン酸)は全身性血栓症の誘発や突然死のリスクを高めるため,安易に投与してはならない.線溶療法(t-PA,ウロキナーゼ型PA)も,致命的な出血(脳出血など)の副作用が報告されており推奨はされていない.
輸血に関しては,輸血基準を満たす場合に限り新鮮凍結血漿や血小板輸血が考慮されうる.
予後
DICは急性期に適切な対処が必要であり,一旦DICを発症すると厚生労働省の診断基準では42.4%,急性期DIC診断基準では35.6%の死亡率が報告されている.
参考文献
1.朝倉英策.DICの分類.Thrombosis Medicine.2011; 1: 38-44.
2.日本血栓止血学会学術標準化委員会DIC部会.科学的根拠に基づいた感染症に伴うDIC 治療のエキスパートコンセンサス.血栓止血誌.2009; 20: 77-113.
- 版
- :バージョン1.0
- 更新日
- :2014年10月1日
- 文責
- :日本小児血液・がん学会
概要
微小血管障害性溶血性貧血(MAHA)は様々な原因疾患を背景に細小血管で微小血栓が形成され赤血球破砕が起こる病態である.血栓性微小血管障害症(thrombotic microangiopathy : TMA)や播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation:DIC)は主たる病因となる.近年,von Willebrand因子(VWF)の特異的切断酵素であるADAMTS13(a disintegrin-like and metalloproteinase with thrombospondin type 1 motifs 13)に関する研究が飛躍的に進歩する中で,血小板血栓主体のTMAとフィブリン血栓主体のDICは明確に区別されるようになってきた.
TMAとは①クームス試験陰性のMAHA(破砕赤血球を伴う貧血,ハプトグロビン低下,LDH上昇,間接ビリルビン上昇などを伴う),②消耗性の血小板減少,③微小循環障害による臓器障害を3主徴とする疾患概念であり,血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura : TTP)と溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome : HUS)が含まれる.両疾患は明確に区分できない場合があり,その代表が造血幹細胞移植後TMA(SCT-TMA)である.
HUSは志賀毒素産生腸管出血性病原大腸菌(Shiga toxin-producing Escherichia coli : STEC)に起因するSTEC-HUSと,下痢症状を伴わない非定型HUS(atypical HUS : aHUS)に大別される.
このようにMAHAは多岐にわたる疾患を含む病態である.以下,STEC-HUS,aHUS,SCT-TMA,DICのそれぞれについて概説する.広汎な疾患概念を包括する非常に複雑な病態であるが,近年,診断や治療に関するガイドラインが整備されつつある.HUSとDICに関しては2014年3月時点で本邦における診断・治療のガイドラインが作成されており,本稿もその内容に従った.SCT-TMAに関しては,造血細胞移植ガイドラインGVHD(日本造血細胞移植学会)の「資料3.Thrombotic microangiopathy(TMA)」の項も一部参照した.詳細は各々のガイドラインを,また,TTPに関しては,別項「血栓性血小板減少性紫斑病」を参照されたい.
定義(STEC-HUS)
志賀毒素(Shiga toxin: STX,ベロ毒素 Vero toxin: VTとも呼ばれる)を産生する腸管出血性大腸菌( enterohemorrhagic Escherichia coli: EHEC)による腸炎に引き続き,TMAの3主徴(標的障害臓器は腎)がみられるものがSTEC-HUSと定義される.
病因
EHECの産生するSTXにはアミノ酸配列が異なるSTX1(VT1)とSTX2(VT2)の2種類があり, EHECはSTX1またはSTX2のどちらか,あるいは両方を産生する.STXの一部が細胞内に取り込まれると,リボソームに結合しタンパク合成が阻害され,細胞毒性や細胞死を起こす.STXの受容体は赤血球膜,白血球,血管内皮(特に腎臓,脳,消化管),尿細管に多く発現しているため腎臓が障害されやすい.
疫学
HUSの約90%がSTEC-HUSであるとされる.国立感染症研究所感染症情報センターが発表した2008年~2011年の本邦での発症状況によると,STEC-HUS患者数は242(HUS総数は371)であった.起因菌が分離されたHUS患者では血清型O157が主たる起因菌である.本邦ではその他にO121,O111,O26,O145等が検出されている.
臨床症状
EHECを経口摂取すると一般に3~7日の潜伏期を経て,腹痛,水様性下痢を発症し,次第に血便を排せつする.血便は7~14日間続く.下痢の出現後に溶血性貧血,血小板減少,急性腎傷害(急性腎不全)を3主徴とするHUSを引き起こす.急性脳症(けいれん,意識障害)を合併することがある.
診断
(小児慢性特定疾病の対象疾患ではありません)
治療
小児のEHEC感染患者に対する治療は保存的治療が中心である.
EHEC感染に対する抗菌薬投与でHUS発症を予防できるとはいう結論はでていない.止痢薬はHUS発症の危険因子であるため投与しないことが推奨される.
HUS発症前のEHEC感染症患者に対して,等張性輸液製剤を積極的に投与する事は,急性腎傷害(乏・無尿)発症の予防効果と透析療法の回避につながるため,勧められる.ただし,HUS発症後の乏・無尿期の過剰な輸液による高血圧,肺水腫,電解質異常を回避するため,尿量+不感蒸泄量+便等による水分喪失を補充する最低限の輸液のみを基本とする.
輸血に関しては,Hb 6.0 g/dL以下の貧血時に濃厚赤血球投与が推奨される.なお,HUS発症早期からのエリスロポエチンの投与は赤血球輸血を減らしうるとされ,赤血球輸血を減らす目的でHUS発症早期からのエリスロポエチンの投与を検討する.HUS患者に対する血小板の投与は微小血栓の形成を促進させる可能性があるため,原則として勧められない.ただし,出血傾向(血便を除く)や大量出血時にはその限りではない.
HUSでは急性期に高血圧を高頻度に合併するため,速やかに血圧の適正化を図る.急性期高血圧に対する第一選択薬として,カルシウム拮抗薬を用いる.
また,HUS発症時から,血清Cr値が年齢性別毎の中央値の2倍以上となった患者は早期に透析療法を考慮する必要がある.なお,HUSの急性腎傷害の増悪を阻止する上で,血漿交換療法の有効性は認められない.
明らかなDICを合併していないHUSにおいて,血栓形成阻止を目的とした抗血栓療法の有効性は明らかでないため,基本的には勧められない.DICを合併する場合の治療に関しては「(4)DIC」の項を参照されたい.
EHECによる脳症の治療の基本は,支持療法である.脳浮腫とけいれんの治療を目的とした,全身管理と中枢神経症状の治療(痙攣治療,頭蓋内圧降下療法)を行う.
予後
HUSの急性期死亡率は欧米では2~6%,わが国では1.5%である.死亡の88%は急性期に生じる.
HUS患者の腎後遺症は,アルブミン尿,蛋白尿,腎機能低下,高血圧である.HUS患者の約20~40%が慢性腎臓病(CKD)に移行する.CKDは末期腎不全や心血管合併症の危険因子である.
HUS患者では,消化管後遺症(胆石,慢性膵炎,大腸狭窄等),糖尿病,神経学的後遺症,認知行動障害,循環器系後遺症等の腎機能障害以外の障害が残ることがある.
参考文献
- 溶血性尿毒症症候群の診断・治療ガイドライン こちらをご参照ください。
- Karmali MA, et al. The association between idiopathic hemolytic uremic syndrome and infection by verotoxin-producing Escherichia coli. J Infect Dis. 1985; 151: 775-782.
- 版
- :バージョン1.0
- 更新日
- :2014年10月1日
- 文責
- :日本小児血液・がん学会
概要
微小血管障害性溶血性貧血(MAHA)は様々な原因疾患を背景に細小血管で微小血栓が形成され赤血球破砕が起こる病態である.血栓性微小血管障害症(thrombotic microangiopathy : TMA)や播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation:DIC)は主たる病因となる.近年,von Willebrand因子(VWF)の特異的切断酵素であるADAMTS13(a disintegrin-like and metalloproteinase with thrombospondin type 1 motifs 13)に関する研究が飛躍的に進歩する中で,血小板血栓主体のTMAとフィブリン血栓主体のDICは明確に区別されるようになってきた.
TMAとは①クームス試験陰性のMAHA(破砕赤血球を伴う貧血,ハプトグロビン低下,LDH上昇,間接ビリルビン上昇などを伴う),②消耗性の血小板減少,③微小循環障害による臓器障害を3主徴とする疾患概念であり,血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura : TTP)と溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome : HUS)が含まれる.両疾患は明確に区分できない場合があり,その代表が造血幹細胞移植後TMA(SCT-TMA)である.
HUSは志賀毒素産生腸管出血性病原大腸菌(Shiga toxin-producing Escherichia coli : STEC)に起因するSTEC-HUSと,下痢症状を伴わない非定型HUS(atypical HUS : aHUS)に大別される.
このようにMAHAは多岐にわたる疾患を含む病態である.以下,STEC-HUS,aHUS,SCT-TMA,DICのそれぞれについて概説する.広汎な疾患概念を包括する非常に複雑な病態であるが,近年,診断や治療に関するガイドラインが整備されつつある.HUSとDICに関しては2014年3月時点で本邦における診断・治療のガイドラインが作成されており,本稿もその内容に従った.SCT-TMAに関しては,造血細胞移植ガイドラインGVHD(日本造血細胞移植学会)の「資料3.Thrombotic microangiopathy(TMA)」の項も一部参照した.詳細は各々のガイドラインを,また,TTPに関しては,別項「血栓性血小板減少性紫斑病」を参照されたい.
定義(SCT-TMA)
造血幹細胞移植後に,微小血管に血管内皮細胞障害,血管壁の硝子様変性を伴う肥厚からなる微小血管障害(microangiopathy)をきたし,虚血性臓器障害を呈する疾患である.
病因
移植前処置の大量化学療法や放射線照射,カルシニューリン阻害剤をはじめとした免疫抑制剤,血管親和性の高いサイトメガロウイルス(CMV)などの感染症や移植片対宿主病(GVHD)の関与など,様々な要因により微小血管の内皮細胞障害が惹起されることが病因として考えられている.
疫学
2005年以前は診断基準があいまいで,発症頻度は造血幹細胞移植後の0.5~75%と報告により非常に大きなばらつきを認める.
臨床症状
MAHA,輸血不応の血小板減少に加え,中枢神経障害,腎障害,虚血性腸炎などの臓器障害による臨床症状を呈する(TMAの3主徴).下痢,発熱,黄疸,中枢神経症状,下血などが主要症状であり,急性GVHDとの鑑別が問題となる.急性GVHD対策としてカルシニューリン阻害剤を主体とした免疫抑制療法を強化すると,TMA症状は逆に増悪する負のサイクルに陥るので注意を要する.TTPと異なりADAMTS13は著減せず,病理学的にはaHUSに類似するが,補体に関してはC3,C4,CH50は正常であることが報告されている(一部でH因子抗体が検出された報告例もあり).
診断
治療
確立された治療法はない.一般的な治療は,増悪因子であるカルシニューリン阻害薬の減量,中止である.古典的TTPと異なり,SCT-TMAでは血漿交換の有効性は示されていない.新鮮凍結血漿輸注,抗血小板剤,蛋白分解酵素阻害剤,ステロイドなどさまざまな治療法は,明らかな有効性が示されていない.
予後
いったん病態が完成すると予後不良で,死亡率は60~90%と報告されている.いかに早期にSCT-TMAを診断し,免疫抑制剤の減量などの治療介入に踏み切れるかが重要である.
参考文献
1.松本雅則.移植後TMAの病態と治療.臨床血液.2013; 54: 1958-1965.
2.造血細胞移植ガイドラインGVHD.http://www.jshct.com/guideline/pdf/2009gvhd.pdf
3.Ho VT, et al. Blood and marrow transplant clinical trials network toxicity committee consensus summary: thrombotic microangiopathy after hematopoietic stem cell transplantation. Biol Blood Marrow Transplant. 2005; 11: 571-575.
4.Ruutu T, et al. European Group for Blood and Marrow Transplantation; European LeukemiaNet. Diagnostic criteria for hematopoietic stem cell transplant-associated microangiopathy: results of a consensus process by an Inernational Working Group. Haematologica. 2007; 92: 95-100.
5.Stavrou E, Lazarus HM. Thrombotic microangiopathy in haematopoietic cell transplantation: an update. Mediterr J Hematol Infect Dis. 2010; 2(3): e2010033.
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- 更新日
- :2014年10月1日
- 文責
- :日本小児血液・がん学会
概要
微小血管障害性溶血性貧血(MAHA)は様々な原因疾患を背景に細小血管で微小血栓が形成され赤血球破砕が起こる病態である.血栓性微小血管障害症(thrombotic microangiopathy : TMA)や播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation:DIC)は主たる病因となる.近年,von Willebrand因子(VWF)の特異的切断酵素であるADAMTS13(a disintegrin-like and metalloproteinase with thrombospondin type 1 motifs 13)に関する研究が飛躍的に進歩する中で,血小板血栓主体のTMAとフィブリン血栓主体のDICは明確に区別されるようになってきた.
TMAとは①クームス試験陰性のMAHA(破砕赤血球を伴う貧血,ハプトグロビン低下,LDH上昇,間接ビリルビン上昇などを伴う),②消耗性の血小板減少,③微小循環障害による臓器障害を3主徴とする疾患概念であり,血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura : TTP)と溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome : HUS)が含まれる.両疾患は明確に区分できない場合があり,その代表が造血幹細胞移植後TMA(SCT-TMA)である.
HUSは志賀毒素産生腸管出血性病原大腸菌(Shiga toxin-producing Escherichia coli : STEC)に起因するSTEC-HUSと,下痢症状を伴わない非定型HUS(atypical HUS : aHUS)に大別される.
このようにMAHAは多岐にわたる疾患を含む病態である.以下,STEC-HUS,aHUS,SCT-TMA,DICのそれぞれについて概説する.広汎な疾患概念を包括する非常に複雑な病態であるが,近年,診断や治療に関するガイドラインが整備されつつある.HUSとDICに関しては2014年3月時点で本邦における診断・治療のガイドラインが作成されており,本稿もその内容に従った.SCT-TMAに関しては,造血細胞移植ガイドラインGVHD(日本造血細胞移植学会)の「資料3.Thrombotic microangiopathy(TMA)」の項も一部参照した.詳細は各々のガイドラインを,また,TTPに関しては,別項「血栓性血小板減少性紫斑病」を参照されたい.
定義(aHUS)
aHUSは,STEC-HUSとADAMTS13の活性著減によるTTP以外の血栓性微小血管障害で,MAHA,血小板減少,急性腎傷害(AKI)を3主徴とする疾患である.
病因
H因子をはじめとした補体系副経路の制御異常(遺伝子変異を伴う先天性と,H因子に対する抗体産生の後天性),コバラミン代謝異常症(特に生後6か月未満発症で考慮),DGKE (diacylglycerol kinase ε)異常症,感染症(肺炎球菌,HIV,百日咳,インフルエンザ,水痘など),薬剤性,HELLP症候群などの妊娠関連,自己免疫疾患,骨髄移植・臓器移植関連など多岐にわたる.補体系の制御異常により,補体副経路が活性化されると,C5a や膜侵襲複合体と呼ばれるC5b-9などが過剰に形成され,血小板や血管内皮細胞の活性化などによって血栓が産生される.
疫学
全HUS患者の約10%をaHUSが占める.
臨床症状
STEC-HUSと違い下痢を伴わずHUSの3主徴(溶血性貧血,血小板減少,急性腎不全)を呈するが,aHUSであっても発症時に腹痛,下痢等の腹部症状を呈する症例があるので注意を要する.ただし,1) 6か月以下の発症例,2)再発例,3) 発症時期が明確でない症例,4) 食中毒事例以外の家族内発症例がある場合には,下痢の有無にかかわらずaHUSを考慮する.
診断
※ 小児慢性特定疾病では、慢性腎疾患群「非典型溶血性尿毒症症候群」として対象疾患となっている
診断手引きはこちら(慢性腎疾患群)
治療
aHUSの治療は,支持療法を中心とする全身管理と基礎疾患に対する治療である.
ビタミンB12補充療法が確立しているコバラミンC代謝異常症以外の補体制御因子異常症に関連するaHUS患者には,血漿交換療法,血漿輸注等の血漿治療を速やかに導入する.補体C5に対するヒト化モノクローナル抗体であるエクリズマブの投与も考慮されるが髄膜炎菌,肺炎球菌,インフルエンザ菌b型への感染リスクの上昇には留意する必要がある.なお,侵襲的肺炎球菌感染症に関連するaHUS患者には,新鮮凍結血漿中に菌体抗原に対する抗Thomsen-Friedenreich IgM抗体が存在し輸注により赤血球凝集・溶血など病状が進行する可能性があるため,血漿交換療法や血漿治療や非洗浄血液製剤の投与は行わない.
予後
侵襲的肺炎球菌感染症に関連して発症するaHUSは,STEC-HUSに比し年少児に多く,症状は重篤であり,死亡率は12.5~26%,末期腎不全率も8~10.1%と,STEC-HUSに比し2~3倍の発症率と報告されている.
補体制御異常に関連するaHUSでは,遺伝子異常を有する補体制御因子の種類によっては血漿治療の効果(短期予後)は同一ではなく,H因子異常の予後が最も不良である.一方,membrane cofactor protein (MCP, CD46)異常症の短期予後は非常に良好で血漿治療の有無にかかわらず90%以上が寛解し,血漿治療の有無で分けた両群間に有意な差がなかった.
参考文献
- 香美祥二,他.非典型溶血性尿毒症症候群 診断基準.日腎会誌.2013; 55: 91-93.
- Noris M, Remuzzi G. Atypical hemolytic-uremic syndrome. N Engl J Med. 2009; 361: 1676-1687.
- 溶血性尿毒症症候群の診断・治療ガイドライン こちらをご参照ください。
- 版
- :バージョン1.0
- 更新日
- :2014年10月1日
- 文責
- :日本小児血液・がん学会