概要・定義
高比重リポタンパク(HDL)が欠損または低下している疾患。ここでは、原発性(遺伝性)のものを対象とする。HDLコレステロール(HDL-C)の低下には、HDLの産生が低下する場合、成熟が障害される場合、異化が更新する場合がある。現在、以下の疾患が主要なものである。いずれも頻度は希である1、2)。
1.lecithin-cholesterol acyltransferase(LCAT)欠損症3)
コレステロールのエステル化に重要なLCATの遺伝子異常による。家族性LCAT欠損症と魚眼病の異なる表現型を呈する(LCAT活性の差による)。幼少児より出現する角膜混濁と低HDL-C血症は共通する。後者はこれのみであるが、前者は赤血球の形態異常(溶血性貧血)・蛋白尿(腎障害)も認められる。HDL-Cは正常の1/10程度とされる。コレステロールエステル比が低下する。確定診断には、LCAT活性(蛋白)の測定や遺伝子変異を同定する。有効な治療法はない。
2.タンジール(Tangier)病4)
アポA-Ⅰによる細胞からのコレステロール引き抜きに重要なATP-binding cassette transporter 1 (ABCA1)の遺伝子異常による。コレステロールエステルの過剰蓄積によるオレンジ色の扁桃肥大、角膜混濁、肝脾腫、リンパ節腫脹、知覚障害を示す。HDL-C、アポA-Ⅰの低下、プロアポA-Ⅰの増加、コレステロールエステル比は正常。遺伝子解析で確定診断する。治療法は確立していない。
3.アポリポタンパクA-Ⅰ欠損症・異常症5)
アポ A-ⅠはHDLの構成アポタンパクである。アポA-ⅠとともにC-Ⅲ、A-Ⅴを欠損する場合もある。タンパクの完全な欠損症と変異体として検出される異常症とがある。早期に冠動脈疾患を合併する危険性がある。HDL-C、アポAが低下する。オレンジ色の扁桃肥大やコレステロールエステル比の低下や腎障害はない。動脈硬化性疾患の予防とチェックが必要となる。アポA-1の変異の一部にアミロイドーシスの合併が報告されている。
診断
『診断の手引き』参照
予後
タンジール病、アポリポタンパクA-Ⅰ欠損症・異常症では冠動脈疾患や糖尿病、高血圧などに注意する。LCAT欠損症では腎機能障害が問題となる。
成人期以降
いずれも根本的な治療法はまだないので、成人期以降も小児期同様の対処(療法)が必要である。
参考文献
1.高橋貞夫. 家族性レシチン-コレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)欠損症. 日本臨床 2012; 141-144
2.酒井尚彦. 低HDLコレステロール血症・高HDLコレステロール血症と動脈硬化性疾患. 山下静也(編), 最新医学 別冊 新しい診断と治療のABC 13脂質異常症(高脂血症), 改訂第2版. 最新医学社, 2008; 47-57
3.原 眞純, ほか. 魚眼病. 日本臨床 2012; 145-148
4.松永 彰, ほか. タンジール病. 日本臨床 2012; 126-132
5.蔵野 信, ほか. アポリポタンパクA-Ⅰ欠損症・異常症. 日本臨床2012; 121-125
- 版
- :バージョン2.0
- 更新日
- :2015年5月25日
- 文責
- :日本先天代謝異常学会