1. 先天性代謝異常
  2. 大分類: 神経伝達物質異常症
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GABAアミノ基転移酵素欠損症

ぎゃばあみのきてんいこうそけっそんしょう

Gamma-amino butyrate aminotransferase deficiency

告示

番号:50

疾病名:GABAアミノ基転移酵素欠損症

概要・定義

脳内の重要な神経伝達物質であるγ-アミノ酪酸(GABA)の代謝にかかわるGABAトランスアミナーゼ(GABAT)の欠損症は、重症の筋緊張低下と発達遅延を認め、常染色体劣性遺伝形式をとるきわめてまれな先天代謝異常症で、わが国の1例を含む世界で3家系4例しか報告されていない。

疫学

1984年にJaeken ら1)が報告した兄弟例が最初であるが、その後、2010年にTsujiら2)が発見した本邦初例が世界で第3例目というきわめて希な疾患である。

病因

GABAT欠損症は16番染色体(16p13.3)に位置するGABAT(別名:4-Aminobutyrate Aminotransferase; ABAT)遺伝子(ABAT)の変異に基づく先天代謝異常症で、このドパミンを水酸化してノルアドレナリンを産生する酵素の欠損はドパミンの増加とノルアドレナリンとさらにノルアドレナリンから産生されるアドレナリンの両者が欠乏するため中枢神経障害や自律神経障害を引き起こす。

症状

GABAT欠損症は、精神遅滞、筋緊張低下、反射亢進、嗜眠、難治性のてんかん発作や脳波異常が認められる。また成長ホルモンの増加と成長の加速が認められ2)、本邦の症例でも著明な神経学的な退行を認め2歳で体重と頭囲は−1SDであるが、身長は+3SDであったことが報告されている3)。

診断

画像検査ではMRIとプロトンMRスペクトロスコピー(1H-MRS)が有用である。髄液の生化学分析ではGABA の上昇を認める。またhomocarnosine(GABAとヒスチジンの次ペプチド)、ß-alanine(GABATの別の基質)の上昇を認めるという報告もある。酵素診断は培養リンパ芽球を用いて、GABAT活性の低下により診断する。遺伝子解析は、ダイレクトシークエンス法やMLPA法によりABAT遺伝子の解析を行う。

治療

治療は確立していない。GABATの阻害剤で抗けいれん剤のビガバトリン(ビニル-GABA)は、一部の患者で運動失調と精神状態をある程度改善する。

予後

最初の兄弟例は1歳と2歳に、第2例目は5ヶ月で死亡し、第3例の本邦の症例も2歳で神経学的な退行と全身のジストニアの進行を認めたと報告されている。

参考文献

1) Jakobs, C., Bojasch, M., Monch, E., Rating, D., Siemes, H., Hanefeld, F. Urinary excretion of gamma-hydroxybutyric acid in a patient with neurological abnormalities: the probability of a new inborn error of metabolism. Clin. Chim. Acta 1981;111: 169-178. 2) Jaeken, J., Casaer, P., de Cock, P., Corbeel, L., Eeckels, R., Eggermont, E., Schechter, P. J., Brucher, J.-M. Gamma-aminobutyric acid-transaminase deficiency: a newly recognized inborn error of neurotransmitter metabolism. Neuropediatrics 1984;15: 165-169. 3) Tsuji M, Aida N, Obata T, Tomiyasu M, Furuya N, Kurosawa K, Errami A, Gibson KM, Salomons GS, Jakobs C, Osaka H. A new case of GABA transaminase deficiency facilitated by proton MR spectroscopy. J Inherit Metab Dis. 2010;33(1):85-90.
:バージョン2.0
更新日
:2015年5月25日
文責
:日本先天代謝異常学会