概要・定義
マルチプルスルファターゼ欠損症は、ホルミルグリシン生成酵素(formyglycine-generating enzyme; FGE)をコードするsulfatase modifying factor 1(SUMF1)遺伝子の異常により、FGE蛋白質の不安定化、基質との干渉、複数のスルファターゼ酵素の活性低下を引き起こし、異染性白質ジストロフィーやムコ多糖症に類似した様々な組織障害を生じる。
疫学
非常に稀であり、欧米では約140万出生に1人とされている
病因
本疾患の病因は、ホルミルグリシン生成酵素(formylglycyne-generating enzyme: FGE)の異常である。FGEの異常により、折りたたみ障害による蛋白質構造の不安定化、基質干渉、スルファターゼ酵素の触媒部位の活性化障害を引き起こす。そのため、全てのスルファターゼが影響を受け、アリルスルファターゼA、アリルスルファターゼB、ステロイドスルファターゼやムコ多糖スルファターゼなどの酵素活性が低下する。FGEの異常は、sulfatase modifying factor 1(SUMF1)の遺伝子変異によると報告されている。全てのスルファターゼ活性が障害されることから、スルファチドの蓄積、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸などのムコ多糖が蓄積し、ライソゾームの機能障害からオートファゴソームの分解機構の障害を来たし、ミトコンドリアの機能障害を呈し、細胞障害やアポトーシスが誘導されると考えられている。
症状
マルチプルスルファターゼ欠損症の症状は、その発症機序からも推測されるように、異染性白質ジストロフィー(MLD)やムコ多糖症(MPS)などの症状を併せ持つ。発症時期から3つの病型に分類される。
① 重症新生児型:胎児水腫、顔貌異常、魚鱗、骨変形、筋緊張低下を認め、乳児期早期に進行性の水頭症を認める。
② 乳幼児型は、1〜2歳頃までに発症し、筋緊張低下、歩行障害を認め、その後、MLD様の神経変性による四肢硬直、痙攣を認め、寝たきりとなる。この他、MPS様の肝脾腫、低身長、粗な顔貌、心臓弁膜症、角膜混濁、精神発達遅滞、骨変形ステロイドスルファターゼ欠損様の魚鱗癬、点状軟骨異形成症1型様の骨変形を認める。
③ 若年型:乳幼児期までは正常で、それ以降で歩行障害、視力障害、構音障害で発症する。神経変性による症状が進行し、20歳頃に寝たきりとなる。その他、粗な顔貌、軽度の骨変形、魚鱗癬、肝腫大を認め、30歳以上の例も存在する。
診断
『診断の手引き』参照
治療
対症療法
予後
新生児型は、早期に死亡する。乳幼児型は、2歳頃までに発症し、徐々に神経症状が進行し、5歳頃までに寝たきりとなり、10〜20歳前後で死亡する。若年型は、20歳頃に寝たきりとなり、30歳以上の例も存在する。
成人期以降
成人期以降は、寝たきりとなっている例も多く、気管切開、胃瘻造設術など外科的対症療法が必要になる。また、気切カニューレでは、ムコ多糖症のように肉芽ができやすい可能性があり、それによる気道狭窄、換気不良に注意する必要がある
参考文献
- 版
- :バージョン2.0
- 更新日
- :2015年5月25日
- 文責
- :日本先天代謝異常学会