概要・定義
乳糖は乳製品に含まれる主要な糖であり、新生児、乳児期における主要なエネルギー源である。乳糖は小腸上皮でグルコースとガラクトースに分解され吸収されるが、この吸収されたガラクトースは肝細胞にてガラクトキナーゼ(GALK)によりガラクトース-1-リン酸となったのち、ガラクトース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼ(GALT)の触媒で、UDP-グルコースとの転移反応によりUDP-ガラクトースとグルコース-1-リン酸へと代謝される。ガラクトース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼ欠損症ではこの経路に先天的な酵素欠損、活性低下が生じており、ガラクトース、ガラクトース‐1‐リン酸の蓄積が生じ種々の障害をきたす1)。
疫学
日本での発生頻度は約1/90万出生2)。
病因
常染色体劣性遺伝形式を示す先天代謝異常症の一種である。
症状
ガラクトース‐1-リン酸の肝毒性などから、新生児早期から不機嫌、食欲不振、下痢、嘔吐などの消化器症状、体重増加不良、採血後の止血困難などがみられる。低血糖、尿細管障害、白内障、肝障害(黄疸、肝脾腫、肝逸脱酵素上昇など)をきたし、凝固系異常、溶血性貧血等を示すこともある。ガラクトース高値が大腸菌発育を促進するため敗血症、髄膜炎などの感染症を併発しやすい。乳糖除去を行わなければ致死的疾患である1)。早期診断され治療開始されても慢性期に知能障害などの精神症状、筋緊張低下、震戦、失調性歩行などの神経症状、卵巣機能不全等を呈することが知られており2)、定期的な経過観察が必要である。
診断
『診断の手引き』参照
治療
ガラクトース、ガラクトース‐1-リン酸の上昇とともにボイトラー法によるGALT酵素活性低下を確認した場合、直ちにガラクトース摂取制限を開始する。母乳、通常の人工乳は禁とし、乳糖除去乳か大豆乳を摂取する。すでに症状を呈している場合は並行して対症療法を行う。離乳期以降、成人に至るまで、乳製品、乳糖の除去は必要である3)。合併症に対しては対症療法を行う。
予後
慢性期合併症による。
成人期以降
ガラクトース摂取制限は年齢にかかわらず必要である。慢性期合併症に対するフォローを継続する。
参考文献
1)Holton JB et al. Galactosemia, In: Scriber CR, et al(eds), The metabolic &molecular bases of inherited disease, McGraw-Hill, New York, 2001; 1807-1820
2)青木菊麿:新生児マススクリーニングで発見された疾患の追跡調査 小児内科1991;23:1887-1891
3)Waggoneret DD et al.:Long-term prognosis in galactosemia: Result of a survey of 350 cases. J. Inher. Mtab. Dis.1990;13:802-818、
4) 岡野善行 ガラクトース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼ欠損症 別冊日本臨床新領域別症候群シリーズ19 先天代謝異常症候群(第2版)上2012:20-25
- 版
- :バージョン2.0
- 更新日
- :2015年5月25日
- 文責
- :日本先天代謝異常学会