概要・定義
ミトコンドリア酵素であるイソバレリルCoA脱水素酵素の欠損症であり、IVD遺伝子の変異により生じる。この酵素欠損によりロイシンに由来するイソ吉草酸、イソバレリルグリシン、イソバレリルカルニチンが体内に蓄積し、特に飢餓時に高度の酸血症を呈する。新生児期には、高アンモニア血症や汎血球減少を呈し死亡したり中枢神経系後遺症を残したりするが、早期に診断し適切に治療されれば、その後の生命予後や神経学的予後も良好である。
疫学
新生児タンデムマス・スクリーニングのデータから、日本での罹患頻度は約50万出生に1人と推定されている。
病因
IVD遺伝子変異の型により残存酵素活性の程度や臨床症状の重症度が変わる。重症型は新生児期に高アンモニア血症等の重篤な症状を呈する。晩発型は幼児期に嘔吐発作を繰り返す。生涯無症状の軽症型もある。重症型でも幼児期以降は晩発型の症状を示すようになるとされている。
症状
新生児期発症では、酸血症による哺乳不良や嘔吐、高アンモニア血症による意識障害、無呼吸、血小板減少による脳内出血、ケイレンなどがみられる。嘔吐発作時に「足の蒸れた」とか「汗臭い」と形容される特異な体臭がある。しばしば高タンパク食品を嫌う食癖がみられる。急性膵炎や不整脈の報告がある。
診断
『診断の手引き』参照
治療
1.食事療法
乳幼児期には母乳や一般粉乳にロイシン除去フォーミュラ(明治8003)を併用してロイシンを制限し、イソ吉草酸(イソバレリルCoA)の蓄積を防ぐ。
2.薬物療法
L-カルニチン(100-150mg/kg/日)やグリシン(150-250mg/kg/日)服用により、体内に蓄積したイソバレリルCoAの排泄を促進する。グリシンは新生児期から乳児期では髄液中グリシン濃度が上昇する可能性があり、使用しない方が良いとされている。
3.急性期の対処
異化亢進改善のため10%濃度以上のブドウ糖を含む電解質輸液輸注、代謝性アシドーシスの補正、高アンモニア血症には血液浄化療法などを行う。
予後
新生児期発症例で対応が遅れると、死亡したり重度の発達遅滞などの後遺症を残すことがある。診断後、薬物療法や食事療法によるコントロールが良好であれば、正常な発達が見込まれる。晩発型患者の出産例が知られている。周産期の嘔吐発作から本症と診断された女性患者も報告されている。
参考文献
1) 畑 郁江, 重松 陽介, 西島 節子.ほか. タンデムマス・スクリーニングで発見されたイソ吉草酸血症の1例.特殊ミルク情報.2010;46:10-13.
2) 大浦 敏博. イソ吉草酸血症.日本臨床別冊先天代謝異常症候群(上) .2012:365-368.
- 版
- :バージョン2.0
- 更新日
- :2015年5月25日
- 文責
- :日本先天代謝異常学会