1. 先天性代謝異常
  2. 大分類: アミノ酸代謝異常症
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シトリン欠損症

しとりんけっそんしょう

Citrin deficiency

告示

番号:14

疾病名:シトリン欠損症

概要・定義

シトリン欠損症には新生児期から乳児期に発症するシトリン欠損による新生児肝内胆汁うっ滞症(neonatal intrahepatic cholestasis caused by citin deficiency: NICCD)と思春期以降に発症する成人発症Ⅱ型シトルリン血症(adult-onset type 2 citrullinemia: CTLN2)の2つの年齢依存性の臨床型が存在する1)2)。この間に「見かけ上健康」な適応・代償期がある。この時期の病態・病型をFTTDCD (Failure to thrive and dyslipidemia caused by citrin deficiency)と呼ぶ場合もある3)。

疫学

シトリン欠損症は東アジアから東南アジアで頻度が高く、少数ながら欧米からの報告もある。本邦での保因者頻度は1/65であり、理論上の有病率は1/17,000となる4)。CTLN2の発症頻度は1/10万であり、シトリン欠損症の約20%の患者がCTLN2を発症することになる。CTLN2を顕在化させる原因については、遺伝的要因とともに食事などの環境的要因の関与が推定されているが、未だ明確ではない。

病因

シトリンは肝ミトコンドリア膜に存在するアスパラギン酸・グルタミン酸キャリアであり、リンゴ酸・アスパラギン酸シャトルの一員として細胞質で生じたNADH還元当量のミトコンドリアへの輸送に関与する。常染色体劣性遺伝性疾患で責任遺伝子はSLC25A13である。シトリンの機能低下による細胞質内NADHの蓄積がシトリン欠損症の病態の根底にあると考えられている1)。

症状

(1) NICCD:生後6か月以内に肝障害、胆汁うっ滞など新生児肝炎の症状で発症する。一過性高ガラクトース血症、シトルリン、メチオニンなどの上昇や脂肪肝を伴うのが特徴である。新生児スクリーニング陽性もしくは遷延性黄疸を契機に診断されることが多い5)。 (2) 適応・代償期:幼児期以降は「見かけ上健康」とされるが、慢性肝障害、肝腫大、成長障害、易疲労感、ケトン性低血糖、胃腸障害、けいれん、膵炎などの非特異的な症状に加え、特異な食癖(糖質を嫌い、高蛋白・高脂肪食を好む)を呈する6)。 (3) CTLN2:思春期以降に発症し、繰り返す意識障害(傾眠、せん妄、昏睡)、異常行動、けいれんなどの脳症様発作を認め、高アンモニア血症、シトルリン血症が特徴である1)。

診断

治療

(1) NICCD 中鎖脂肪酸含有ミルクの使用と乳糖制限、脂溶性ビタミン投与が基本である。薬物療法は新生児肝炎の治療に準じて行う。ビタミンK欠乏による血液凝固障害を呈する症例に対しては、ビタミンK製剤(ビタミンK1注)の静注を行う。大部分の症例は1歳までに軽快するが、肝移植が必要であった重症例も報告されている。離乳期以降に見られる特異な食癖は自己防衛反応と考えられ、矯正してはならない8)。 (2) CTLN2 低炭水化物食(蛋白質:脂質:糖質の摂取カロリー比を15~25:40~50:30~40とする)を行う6)。薬物療法はアルギニン(アルギU®配合顆粒)および高アンモニア血症に対してラクツロース(ラクツロース末・P)、非吸収性経口抗生剤を投与する。またピルビン酸ナトリウムや中鎖脂肪酸の投与が試みられている9)10)。内科的治療でも意識障害発作を繰り返す場合は肝移植も考慮する。

予後

NICCDは早期治療が行われれば良好である。内科的治療で改善しないCTLN2症例は、肝移植が行われなければ予後不良である。

成人期以降

シトリン欠損症と診断された小児例においては、CTLN2の発症予防が重要である。低炭水化物食を励行し、アルコールや過剰の糖質摂取を禁止する。また、高カロリー輸液、グリセオール®は状態を悪化するので使用してはならない9)。

参考文献

1) Saheki T, et al.: Mitochondrial aspartate glutamate carrier (citrin) deficiency as the cause of adult-onset type II citrullinemia (CTLN2) and idiopathic neonatal hepatitis (NICCD). J Hum Genet. 2002; 47:333-341 2) Kobayashi K, et al.: Citrin Deficiency. GeneReviews: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK1181/ 3) Song YZ, et al.: SLC25A13 Gene Analysis in Citrin Deficiency: Sixteen Novel Mutations in East Asian Patients, and the Mutation Distribution in a Large Pediatric Cohort in China. PLoS One 2013; 8; e74544 4) Tabata A, et al.: Identification of 13 novel mutations including a retrotransposal insertion in SLC25A13 gene and frequency of 30 mutations found in patients with citrin deficiency. J Hum Genet 2008; 53:534-45 5) Ohura T, et al.: Clinical pictures of 75 patients with neonatal intrahepatic cholestasis caused by citrin deficiency (NICCD). J Inherit Metab Dis 2007; 30:139-144 6) Saheki T, et al.: Reduced carbohydrate intake in citrin-deficient subjects. J Inherit Metab Dis 2008; 31:386-394 7) Kikuchi A, et al.: Simple and rapid genetic testing for citrin deficiency by screening 11 prevalent mutations in SLC25A13. Mol Genet Metab 2012; 105:553-558 8) 大浦敏博.尿素回路障害2:シトリン欠損症(NICCD, CTLN2).小児科診療(増刊号小児の治療指針)2014;77: 519-521 9) Saheki T, et al.: Citrin deficiency and current treatment concepts. Mol Genet Metab 2010; 100 Suppl 1:S59-64 10) Hayasaka K, et al.: Treatment with lactose (galactose)-restricted and medium-chain triglyceride-supplemented formula for neonatal intrahepatic cholestasis caused by citrin deficiency. JIMD Rep 2012; 2:37-44
:バージョン2.0
更新日
:2015年5月25日
文責
:日本先天代謝異常学会