概要・定義
分枝鎖アミノ酸であるロイシン、イソロイシン、バリンの代謝に由来するα-ケト酸の酸化的脱炭酸反応を行う、分枝鎖α-ケト酸脱水素酵素(BCKDH)の欠損によって発症する常染色体劣性の遺伝性疾患である。新生児マススクリーニングの対象疾患であり、わが国における発生頻度は約50万人に1人である。臨床症状として中枢神経障害とケトアシドーシスを認める。生後1-2週間で発症する古典型と、臨床症状がやや軽度な中間型、通常は無症状で急性増悪を起こす間欠型などの病型がある。
病因
メープルシロップ尿症では、分枝鎖ケト酸脱水素酵素の異常により、分枝鎖アミノ酸 (BCAA) であるバリン、ロイシン、イソロイシン由来の分枝鎖ケト酸(BCKA)の代謝が障害される(1)。この酵素はE1α, E1β, E2, E3の4つの遺伝子によってコードされる複合体であり、いずれの異常も常染色体劣性の遺伝形式を示す。E3はピルビン酸脱水素酵素複合体、αケトグルタル酸脱水素酵素複合体とも共通のサブユニットであるため、その異常では高乳酸血症、αケトグルタル酸の上昇も認める。
症状
血中ロイシン値と臨床症状がほぼ一致する。血中ロイシン値が10-20 mg/dl (760-1,500μmol/L)では哺乳力が低下し嘔吐が出現する。ロイシン値が20 mg/dl (1,500μmol/L)以上では意識障害、筋緊張低下、痙攣、呼吸困難、後弓反張などが出現する。分枝鎖アミノ酸および分枝鎖ケト酸の血中濃度が上昇するとミエリン合成の障害をきたし不可逆的な中枢神経の障害により、精神運動発達の遅れを認める。尿の甘いにおいが特徴的であるが、新生児期は明らかではないこともある。
古典型では生後1週間程度で嘔吐、痙攣、昏睡などの症状をきたす。間欠型や中間型では新生児期には無症状であり、感染などをきっかけとして、嘔吐や昏睡、発達の遅れなどを認める。
診断
『診断の手引き』参照
治療
急性期の治療はBCAAおよびBCKAの蓄積と体蛋白の異化を押さえながら、同化を促進することを目標にする。急性増悪が疑われれば、特殊ミルク(BCAA除去ミルク)の投与や、脂肪投与、高カロリー輸液、アシドーシスの補正を行う。
慢性期の治療の目標は急性増悪の発症を防止しながら十分な発育、発達を得ることである。特に血液中のロイシン濃度を指標として、乳児期はBCAA除去ミルク(雪印新ロイシン・イソロイシン・バリン除去ミルク)に普通ミルクを混合して使用する。一般的に新生児、乳幼児期の古典型であれば、BCAA摂取量はロイシン60−90mg/day、イソロイシン、バリンは40−50mg/dayが目安となる。また、他の必須アミノ酸の濃度も発育発達に重要であり、低ければミルクあるいはアミノ酸製剤で補充する。
成人期以降の注意点
BCAA除去ミルクやアミノ酸製剤を基本とした食事療法を生涯続ける必要がある。間欠型の発作は成人期以降も発症することがあり、神経学的な予後についても注意が必要である。
参考文献
1.三渕 浩ほか:メープルシロップ尿症の予後とマス・スクリーニング.小児内科36:1881-1886, 2004.
2.三渕 浩:メープルシロップ尿症 別冊 日本臨牀 新領域別症候群シリーズNo19 先天代謝異常症候群(第2版)上 日本臨牀社、p257-261 2012
- 版
- :バージョン2.0
- 更新日
- :2015年5月25日
- 文責
- :日本先天代謝異常学会