概要・定義
チロシンは食事に含まれるアミノ酸の一つとして、 またフェニルアラニンの代謝産物として得られる。生体内でフェニルアラニンはフェニルアラニン水酸化酵素によってチロシンへと変換される。チロシンはチロ シンアミノ基転移酵素によって4-ヒドロキシフェニルピルビン酸、続いて4-ヒドロキシフェニルピルビン酸酸化酵素によってホモゲンチジン酸、ホモゲンチ ジン酸酸化酵素によってマレイルアセト酢酸、マレイルアセト酢酸イソメラーゼによってフマル酸とアセト酢酸に分解される。高チロシン血症は、I型、II 型、III型の3つの病型に分類されている。これらの疾患は、遺伝的・酵素学的に別の疾患であり、臨床症状出現の機序も異なる。遺伝形式はいずれも常染色 体劣性である。高チロシン血症I型はフマリルアセト酢酸ヒドラーゼが欠損によって、高チロシン血症II型は細胞質チロシンアミノ基転移酵素の欠損によっ て、高チロシン血症III型は4-ヒドロキシフェニルピルビン酸酸化酵素の欠損によって発症する。
病因
細胞質チロシンアミノ基転移酵素(TAT: EC2.6.1.5)の欠損症である。体液中の高いチロシン濃度によって臨床症状を呈する。この症状の一部はチロシンの溶解度が低いことと関連している。 皮膚や角膜では他の部位よりも温度が低下しやすく、チロシン結晶が析出しやすいことによって細胞障害を生じると考えられる。一方、精神発達の遅延も多くの 患者で観察されている。これは血中チロシン値の上昇と関連して出現している。
症状
皮膚病変はチロシンの針状結晶が析出することによって出現し、手掌・足底に限局した過剰角化、びらんを生じる。また角膜においても チロシンの結晶が析出し、角膜のびらん・潰瘍が生じる。角膜の変化は皮膚症状より早く出現し、生後数ヶ月から見られるが、思春期以降に明らかになる症例も ある。
合併症として、血中チロシン濃度が特に高い一部の症例では精神発達の遅れを認めることがある。
診断
『診断の手引き』参照
治療
血液中のチロシン値を低下させることを治療の目標とする。チロシン値の低下に伴って皮膚および眼の症状は改善する。そのため、低フェニルアラニン・低チロシン食、特殊ミルクによる治療をおこない、血中チロシン値を10mg/dl以下に保つ。
成人期以降
低フェニルアラニン・低チロシン食や特殊ミルクによる治療を生涯続ける必要がある。低フェニルアラニン・低チロシンミルクは特殊ミルクの登録品目に分類されており、20歳以降の患者への供給は不確定である。
参考文献
1. 遺伝性高チロシン血症 中村公俊、遠藤文夫 小児疾患診療のための病態生理2 小児内科41増刊号 (2009)
2. 高チロシン血症(2)遺伝性高チロシン血症II型 中村公俊 遠藤文夫 先天代謝異常症候群 別冊日本臨床 新領域別症候群19 (第2版) 162-163日本臨床社 (2012)
- 版
- :バージョン2.0
- 更新日
- :2015年5月25日
- 文責
- :日本先天代謝異常学会