概念・定義
疫学
本疾患は白人に多いが、日本人ではきわめて稀な疾患である。全国疫学調査によると、1999年の調査では15名、2004年の調査では13名の患者が確認され、日本人における発症頻度は、1人/1870000人と推計されている
病因
嚢胞性線維症の原因であるCFTR遺伝子は、第7染色体上(7q31)に局在し、現在まで1500種を超える異常が登録されている。欧米の患者で最も頻度が高い変異は、508番目のフェニルアラニン残基1個が欠落するΔF508変異であり、全CF患者の約70%がこの変異によるものである。日本人ではΔF508変異は通常認められず、その他のCFTR遺伝子異常が散発性に認められる
症状
嚢胞性線維症は、(1)出生時もしくは数日以内に発症する腹部膨満(50%以上)または胎便性イレウス(約15%)、(2)乳幼児期、特に離乳期より進行する大量、頻回、悪臭を伴う脂肪便(膵外分泌不全)、(3)発育障害(身長は正常範囲であるが、体重が増えない)、(4)呼吸器の感染症(生後1年以内に約50%が発症し、重症の感染にもかかわらず痰の喀出困難)、が古典的症状とされる。その他、非定型的症状として、慢性膵炎、びまん性汎細気管支炎、先天性両側精管欠損症が知られている
診断
嚢胞性線維症の診断基準は、次のように定められている。 嚢胞性線維症 (cystic fibrosis)は、全身の外分泌不全に基づく疾患であり、 その特徴は、 ① 膵と気道の粘液分泌腺に極めて粘稠な分泌液が産出され、膵管や気道を閉塞する、 ② 汗中への過剰の電解質が失われる、ことにある。 以下の a発汗試験の異常に加え、残り(b,c,d)の3項目中2項目以上をみたすものを嚢胞性線維症と診断する。 a. 発汗試験の異常 ピロカルピンイオン導入法による発汗試験で、60mEq/L以上の汗中Cl濃度高値が持続する。 b. 膵外分泌不全 大量頻回の悪臭を伴う脂肪便を伴うか、またはPFD試験(BT-PABA試験)における尿中PABA排泄率や便中キモトリプシンの活性低下がある。 c. 呼吸器症状 気道外分泌異常のため、肺炎、気管支炎、無気肺を繰り返し、気管支拡張症、肺性心、趾端末端の肥大や樽状胸郭などが出現する。 d. その他 生後まもなく胎便性イレウスを起こすか、または嚢胞性線維症の家族歴がある。 発汗試験は、ピロカルピンイオン導入法が基本であるが、日本では現在のところ、実施されている医療機関がない。したがって、指先クロール試験や、Wescor社のSweat-Chek Analyzerによるコンダクティビティ測定法などで代用する。 遺伝子診断については、日本人におけるCFTR遺伝子変異が集積されつつあり、軽症例についても最終的な診断根拠となる
治療
膵外分泌不全に対しては、膵酵素製剤および脂溶性ビタミン(A,D,E,K)の補充療法が行われる。脂肪便が改善すると、便中脂肪の減少とともに、頻回の便意および疝痛も消失する。 呼吸器症状に対しては、粘稠な喀痰を喀出するために肺理学療法を行う。rh-DNAse吸入は喀痰の粘度を低下させ喀出しやすくする効果があり欧米で広く用いられているが、我が国ではほとんど使用されていない。気道感染症、特に緑膿菌感染に対してはアミノグリコシド抗菌薬の投与が行われ、また抗菌作用と抗炎症作用を期待してマクロライド抗菌薬の長期投与が行われる。
予後
栄養障害に対しては、膵酵素製剤の補充や栄養指導によって改善が期待できるが、呼吸器感染を反復することによって気管支拡張症、肺気腫が進行し、慢性呼吸不全による不良な予後をとる。現在では成人に達する症例も多いが、死亡年齢は15~20歳が典型的であるとされる
文献
膵嚢胞線維症の診療の手引き(厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業難治性膵疾患に関する調査研究班 編)アークメディア(2008)
- 版
- :バージョン1.0
- 更新日
- :2014年10月1日