診断の手引き

  1. 脈管系疾患
  2. 大分類: 脈管奇形
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クリッペル・トレノネー・ウェーバー(Klippel-Trénaunay-Weber)症候群

くりっぺるとれのねーうぇーばーしょうこうぐん

Klippel-Trénaunay-Weber syndrome

告示

番号:6

疾病名:クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群

状態の程度

疾病による症状がある場合又は治療が必要な場合

診断基準

A 症状

クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群の診断は、(1)脈管奇形診断基準に加えて、後述する(2)細分類診断基準にてクリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群と診断されたものを対象とする。鑑別疾患は除外する。

(1)脈管奇形診断基準
軟部・体表などの血管あるいはリンパ管の異常な拡張・吻合・集簇など、構造の異常から成る病変で、理学的所見、画像診断あるいは病理組織にてこれを認めるもの。本疾患には静脈奇形(海綿状血管腫)、動静脈奇形、リンパ管奇形(リンパ管腫)、リンパ管腫症・ゴーハム病、毛細血管奇形(単純性血管腫・ポートワイン母斑)及び混合型脈管奇形(混合型血管奇形)が含まれる。

鑑別診断
1.血管あるいはリンパ管を構成する細胞等に腫瘍性の増殖がある疾患
例)乳児血管腫(イチゴ状血管腫)、血管肉腫など
2.明らかな後天性病変
例)一次性静脈瘤、二次性リンパ浮腫、外傷性・医原性動静脈瘻、動脈瘤など

(2)細分類 クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群診断基準
四肢のうち少なくとも一肢のほぼ全域にわたる混合型脈管奇形と片側肥大症を合併するもの。
必須所見
1.四肢のうち少なくとも一肢のほぼ全域にわたる混合型脈管奇形。
2.混合型脈管奇形の同肢又は対側肢の骨軟部組織の片側肥大症。
3.皮膚の毛細血管奇形のみが明瞭で、深部の脈管奇形が検査(画像又は病理)上不明であるものは除外。例)先天性血管拡張性大理石様皮斑(CMTC)。大理石様皮膚。
4.深部の脈管奇形により四肢が単純に太くなっているものは対象から除外。
5.明らかな後天性病変(一次性静脈瘤、二次性リンパ浮腫)は対象から除外。

参考事項 
1.毛細血管奇形、静脈の異常(二次性静脈瘤を含む)、一肢の骨・軟部組織の片側肥大が古典的三徴であるが、静脈異常は小児期には明らかでないことが多い。
2.片側肥大はほとんどが脈管奇形と同側に生じるが、まれに対側に生じる。
3.合指(趾)症や巨指(趾)症などの指趾形成異常を合併することがある。
4.混合型脈管奇形とは、静脈奇形、動静脈奇形、リンパ管奇形、毛細血管奇形の2つ以上の脈管奇形が同一部位に混在合併するものをさす。



B 検査所見

軟部・体表などの血管あるいは、リンパ管の異常な拡張・吻合・集簇など構造の異常から成る病変で、病変の脈管成分によって理学的所見や画像所見が異なる。各奇形の診断根拠となる所見を以下に述べる。

(1)毛細血管奇形とは、いわゆる赤あざであり、従来単純性血管腫、ポートワイン母斑などと呼称されている病変であり、皮膚表在における毛細血管の先天性の増加、拡張を認め、自然消褪を認めない病変をさす。

(2)静脈奇形の診断は以下により得られる。
画像検査上病変を確認することは必須である。2の画像検査所見のみでは質的診断困難な場合、1あるいは3を加えて診断される。
1.理学的所見
腫瘤状あるいは静脈瘤状であり、表在性病変であれば青色の色調である。圧迫にて虚脱する。四肢病変は下垂あるいは駆血にて膨満し、拳上あるいは駆血解除により虚脱する。血栓形成の強い症例などでは膨満や虚脱の徴候が乏しい場合がある。
2.画像検査所見
超音波検査、MRI検査、血管造影検査(直接穿刺造影あるいは静脈造影)、造影CTのいずれかで、拡張又は集簇した分葉状、海綿状あるいは静脈瘤状の静脈性血管腔を有する病変を認める。内部に緩徐な血流がみられる。内部に血栓や石灰化を伴うことがある。
3.病理所見
拡張した血管の集簇がみられ、血管の壁には弾性線維が認められる。平滑筋が存在するが壁の一部で確認できないことも多い。成熟した血管内皮が内側を覆う。内部に血栓や石灰化を伴うことがある。

(3)動脈奇形の診断は以下により得られる。
1.理学的所見
血管の拡張や蛇行がみられ、拍動やスリル(シャントによる振動)を触知し、血管雑音を聴取する。
2.画像検査
所見超音波検査、MRI検査、CT検査、動脈造影検査のいずれかにて動静脈の異常な拡張や吻合を認め、病変内に動脈血流を有する。
3.病理所見
明らかな動脈、静脈のほかに、動脈と静脈の中間的な構造を示す種々の径の血管が不規則に集簇している。中間的な構造を示す血管の壁では弾性板や平滑筋層の乱れがみられ、同一の血管のなかでも壁の厚さはしばしば不均一である。また、毛細血管の介在を伴うこともある。

(4)リンパ管奇形の診断は以下により得られる。
生下時から存在し、以下の1、2、3、4の全ての所見を認め、かつ5の(a)、(b)又は(c)を満たす病変。
1.理学的所見 
圧迫により変形するが縮小しない腫瘤性病変を認める。
2.画像所見
超音波検査、CT、MRI等で、病変内に大小様々な1つ以上の嚢胞様成分が集簇性もしくは散在性に存在する腫瘤性病変として認められる。嚢胞内部の血流は認めない。
3.嚢胞内容液所見
リンパ(液)として矛盾がない。
4.除外事項 
奇形腫、静脈奇形(海綿状血管腫)、被角血管腫、他の水疱性・嚢胞性疾患等が否定されること
5.補助所見
(a)理学的所見
・深部にあり外観上明らかでないことがある。
・皮膚や粘膜では丘疹・結節となり、集簇しカエルの卵状を呈することがあり、ダーモスコピーにより嚢胞性病変を認める。
・経過中病変の膨らみや硬度は増減することがある。
・感染や内出血により急激な腫脹や疼痛を来すことがある。
・病変内に毛細血管や静脈の異常拡張を認めることがある。
(b)病理学的所見
肉眼的には、水様ないし乳汁様内容液を有し、多嚢胞状又は海綿状割面を呈する病変。組織学的には、リンパ管内皮によって裏打ちされた大小さまざまな嚢胞状もしくは不規則に拡張したリンパ管組織よりなる。腫瘍性の増殖を示す細胞を認めない。
(c)嚢胞内容液所見
嚢胞内に血液を混じることがある。


C 遺伝学的検査等

脈管奇形は先天性であり、胎生期における脈管形成異常により生じた病変と考えられている。原因は明らかでないが、その一部として遺伝子変異(RASA1)が発見され、遺伝子治療や分子標的創薬の可能性が模索されている。


D 鑑別診断

1.皮膚の毛細血管奇形のみが明瞭で、深部の脈管奇形が検査(画像又は病理)上不明である疾患。例)先天性血管拡張性大理石様皮斑(CMTC)。大理石様皮膚。
2.血管あるいはリンパ管を構成する細胞等に腫瘍性の増殖がある疾患 例)乳児血管腫(イチゴ状血管腫)、血管肉腫など。
3.明らかな後天性病変 例)一次性静脈瘤、二次性リンパ浮腫、外傷性・医原性動静脈瘻、動脈瘤など
4.深部の単一の脈管奇形により四肢が単純に太くなっている疾患。


E-1 確実例

症状及び検査所見のうち、2つ以上の脈管奇形(毛細血管奇形、静脈の異常(二次性静脈瘤を含む)、動脈の異常)と一肢の骨・軟部組織の片側肥大を伴うもの。


E-2 疑い例

一肢の広範囲に広がる地図状の毛細血管奇形(ポートワインステイン)を持つ症例。
上肢下肢の大きさやプロポーションに左右差が生じる片側肥大の症例。

参考文献

  • 血管腫・血管奇形・リンパ管奇形診療ガイドライン2017. 平成26-28年度厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業「難治性血管腫・血管奇形・リンパ管腫・リンパ管腫症及び関連疾患についての調査研究」班 http://www.marianna-u.ac.jp/va/guidline.html
  • 国際血管腫・血管奇形学会(ISSVA) http://www.issva.org/
:バージョン1.0
更新日
:2018年1月31日