診断の手引き

  1. 神経・筋疾患
  2. 大分類: 遺伝性周期性四肢麻痺
64

遺伝性低カリウム性周期性四肢麻痺

いでんせいていかりうむせいしゅうきせいししまひ

Hereditary hypokalemic periodic paralysis

告示

番号:8

疾病名:遺伝性低カリウム性周期性四肢麻痺

診断方法

<診断基準>

  1. 以下の全ての特徴を持つ麻痺(筋力低下)発作を呈する。
    • 意識減損を伴わない
    • 発作時血清カリウム値が著明な低値を示す
    • 呼吸筋・嚥下筋は障害されない
    • 発作持続は数時間から1日程度
    • 発作は夜間から早朝に出現することが多い
    • 激しい運動後の休息、高炭水化物食あるいはストレスが誘因となる
  2. 通常、発症は5歳から20歳が多い
  3. 発作間欠期には筋力低下を認めないことが多いが、進行性・持続性の筋力低下を示す例が存在する。血清クレアチンキナーゼ(CK)値の上昇は認めないことが多い
  4. 針筋電図でミオトニー放電を認めない
  5. 発作間欠期にProlonged exercise test(長時間運動負荷試験)で振幅の漸減現象を認める注1(麻痺発作時の臨床的観察ができていない場合には有用)
  6. 常染色体性顕性(優性)遺伝の家族歴がある
  7. 骨格筋型カルシウムチャネルあるいはナトリウムチャネルαサブユニットの遺伝子に本疾患特異的な変異を認める注2

除外診断

二次性低カリウム性周期性四肢麻痺の原因となる下記疾患の鑑別、他の筋チャネル病(高カリウム性周期性四肢麻痺、先天性筋無力症候群など)の除外が必須。
  • 甲状腺機能亢進症
  • アルコール多飲
  • カリウム排泄性の利尿剤 カンゾウ(甘草)の服用
  • 原発性アルドステロン症、Bartter症候群、腎尿細管性アシドーシス
  • 慢性下痢・嘔吐

<診断のカテゴリー>

確実例(Definite)
1、2、3に加え6あるいは7を認め、除外診断を除外できること(1の項目を一部しか満たさない場合、4、5を認めること)
疑い例(Probable)
1、2、3、4を認め、除外診断を除外できること(1の項目を一部しか満たさない場合、5を認めること)

注1 Prolonged exercise test について

典型的な麻痺発作が確認出来ない症例では、Prolonged exercise test による麻痺の再現が有用である。長時間運動負荷(15~45 秒ごとに3~4秒の短い休息を入れながら、2~5分間の負荷)後に最初は1~2分毎、その後は5分毎に、30~45 分にわたってCMAP を記録する。一般に40%以上のCMAP 振幅・面積の低下がある場合異常と判定されるが、人種差が指摘されており注意を要する(臨床神経生理学 2001; 29: 221-7、Ann Neurol 2004; 56: 650-661 など参照)。

注2 本疾患特異的な変異

骨格筋型ナトリウムチャネルαサブユニットの遺伝子(SCN4A)の変異によっては、低カリウム性周期性四肢麻痺のみならず高カリウム性周期性四肢麻痺、先天性筋無力症候群などの原因ともなる。低カリウム性周期性四肢麻痺を呈するSCN4A 遺伝子の代表的変異として、p.Arg669His やp.Arg672Cys/Gly/His/Ser などがある。

参考文献

当該事業における対象基準

運動障害、知的障害、意識障害、自閉傾向、行動障害(自傷行為又は多動)、けいれん発作、皮膚所見(疾病に特徴的で、治療を要するものをいう。)、呼吸異常、体温調節異常、温痛覚低下、骨折又は脱臼のうち一つ以上の症状が続く場合

:第1版
更新日
:2025年4月1日
文責
:日本小児神経学会