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遺伝性低カリウム性周期性四肢麻痺

いでんせいていかりうむせいしゅうきせいししまひ

Hereditary hypokalemic periodic paralysis

告示

番号:8

疾病名:遺伝性低カリウム性周期性四肢麻痺

疾患概念

発作性の骨格筋の脱力・麻痺をきたす遺伝性疾患で、発作時の血清カリウム値が著明に低下する特徴がある。

疫学

本邦での正確なデータはないが、海外では10万人当たり0.13~1人と報告されている。

病因

骨格筋型カルシウムチャネルαサブユニット(Cav1.1)をコードするCACNA1S遺伝子や、骨格筋型ナトリウムチャネルαサブユニット(Nav1.4)をコードするSCN4A遺伝子などの異常が原因となる。周期性四肢麻痺に不整脈(QT(QU)延長)と骨格の異常を伴うAndersen-Tawil症候群では、内向き整流カリウムチャネル(Kir2.1、Kir3.4)をコードするKCNJ2KCNJ5遺伝子の異常が原因となる。変異が見出せない例もあることから他にも原因遺伝子が存在すると考えられる。

非ジストロフィー性ミオトニー症候群 高カリウム性周期性四肢麻痺 低カリウム性周期性四肢麻痺
先天性ミオトニー カリウム惹起性ミオトニー(ナトリウムチャネルミオトニー) 先天性パラミオトニー
トムゼン(Tomsen)病 ベッカー(Becker)病
原因遺伝子 CLCN1 SCN4A CACNA1S
SCN4A
遺伝様式 常染色体顕性 常染色体潜性 常染色体顕性 常染色体顕性
麻痺発作 有無 なし ± なし あり あり あり
発作時間 一過性 数十分~数時間 数十分~数時間 数時間~数日
臨床的ミオトニー 程度 軽度~中等度 中等度~重度 動揺性~重度までさまざま 軽度~中等度 中等度 なし
眼瞼 あり あり あり あり~± なし
麻痺又はミオトニーの誘因 安静 運動、カリウム摂取 運動、寒冷 運動、寒冷、カリウム摂取 炭水化物、運動後の安静、ストレス
ミオトニー対する影響 くりかえし運動 改善(warm-up現象) なし 悪化(paramyotonia)
寒冷 なし はっきりしない 増悪 増悪
筋肥大 軽度 中等度 軽度~中等度 ± ± なし

臨床症状

脱力発作の持続は1時間から数日まで、程度も下肢のみといった限局性筋力低下から完全四肢麻痺まである。症状は両側対称性のことが多いが、非常に稀に単麻痺や片麻痺の報告もある。発作頻度も毎日から生涯に数回までとかなり幅がある。顔面・嚥下・呼吸筋の麻痺はあまり見られず、感覚や膀胱直腸障害はない。初回発作は思春期頃であることが多く、発作の誘発因子として、高炭水化物食、運動後の安静などある。

慢性的な症状として、発作間欠期においても進行性・持続性の筋力低下を示す例が比較的多く存在する。

診断

診断の際の留意点/鑑別診断

参考事項

  • 女性は男性に比べ症状が軽いことが多く、遺伝歴が見逃されることがある。
  • 発作時に血清カリウム値が著明な低値を示すが、発作からの回復期にはむしろ血清カリウム値が一時的に高値を示すことがある。
  • 高カリウム性周期性四肢麻痺に比べ麻痺発作の程度は重く、持続も長い。
  • 発作間欠期には筋力低下を認めないことが多いが、一部に進行性に軽度の筋力低下を示すことがある。
  • 筋生検は診断のために必要ではないが、空胞、管状凝集体(tubular aggregate)を認めることがある。
  • 特殊なタイプとして、内向き整流カリウムチャネル(Kir2.1、Kir3.4)をコードするKCNJ2KCNJ5遺伝子の異常によって生じる、低カリウム性周期性四肢麻痺に不整脈(QT延長症候群)、骨格変形を合併するAndersen-Tawil症候群がある。

鑑別診断

二次性低カリウム性周期性四肢麻痺の原因となる下記疾患の鑑別、他の筋チャネル病(高カリウム性周期性四肢麻痺、先天性筋無力症候群など)の除外が必須。

  • 甲状腺機能亢進症
  • アルコール多飲
  • カリウム排泄性の利尿剤 カンゾウ(甘草)の服用
  • 原発性アルドステロン症、Bartter症候群、腎尿細管性アシドーシス
  • 慢性下痢・嘔吐

治療

根本治療はなく、麻痺発作急性期の対症療法、間欠期の麻痺予防治療に分けられるが、十分な効果が得られないこともしばしばである。

麻痺発作時の急性期治療としては、カリウムの経口あるいは経静脈投与が中心となる。重度の麻痺発作では投与にもかかわらず、カリウム値の上昇が投与開始直後はなかなか見られないことが多い。麻痺の予防としてアセタゾラミドが有効な例があるが、逆に無効や増悪例もある。その他に、徐放性のカリウム製剤、カリウム保持性利尿薬なども用いられる。

管理・ケア

運動後にはクールダウンを行い、徐々に運動を中止することが有効である。

食事・栄養

運動後や夜遅くの過食(とくに高炭水化物食)は発作の誘因となるため、バランスの良い食事を心がける。

予後

小児期から中年期まで麻痺発作を繰り返すが、初老期以降、麻痺発作の頻度が減ることが多い。進行性・持続性の筋力低下を示す症例が少なからずあり、約1/4に認められるとされる。

研究班

厚生労働省 難治性疾患政策研究班 希少難治性筋疾患に関する調査研究班

成人期以降の注意点

初老期以降麻痺の回数が減ることが多い。進行性・持続性の筋力低下を示す症例が少なからずあり、約1/4に認められるとされる。

参考文献

:第1版
更新日
:2025年4月1日
文責
:日本小児神経学会