疾患概念
運動時や暑熱環境等において汗をかくことができない疾患を無汗症と呼ぶ。無汗症は先天性と後天性に分けられる。特発性後天性全身性無汗症は、後天的に明らかな原因無く体の広範囲の無汗を生じ、自律神経異常および神経学的異常を伴わない疾患と定義されている。患者は体温調節に必要な汗をかくことができなくなるため、熱中症をきたしやすい。
疫学
令和2年度末の特定医療費(指定難病)受給者証所持者数は全国で443名と非常にまれな病気であるものの、患者数は年々増加している。熱中症を繰り返す患者で本疾患を鑑別されていないこともあり、未受療は多い可能性がある。
病因
原因は未だ不明である。エクリン汗腺とそれを取り巻く微小環境の異常が原因ではないかと推察されている。
臨床症状
発汗の欠如のため、皮膚は常時乾燥し、時には痛みを伴いコリン性蕁麻疹を発症することもある。無汗症の最も大きな問題点は無汗のため、高温の環境下において容易に熱中症を発症し発熱、脱力感、疲労感、めまい、動悸さらには意識障害など重篤な症状が出現することである。そのような患者では夏には外出できなくなるなどの生活の制限がありQOLが著しく損なわれる。
診断
診断の際の留意点/鑑別診断
神経学的な異常を認めない。先天性無痛無汗症、Fabry病、無(低)汗を呈する外胚葉形成不全(無汗性外胚葉形成不全症、Rapp-Hodgkin症候群など)、続発性無汗症の鑑別が必要。
治療
確立された治療はない。主に思春期以降の重症例や日常生活の支障の大きい例ではステロイドパルス療法が適用されることがある。その他、試行的治療が行われることもある。
予後
初期にはステロイドパルス療法で軽快することもあるが、発症後期間が経過している症例では無効のこともある。ステロイドパルス療法で軽快した後も再発の可能性がある。
研究班
厚生労働科学研究費難治性疾患政策研究事業 発汗異常を伴う稀少難治療性疾患の治療指針作成、疫学調査の研究(代表:長崎大学皮膚病態学 室田浩之)
成人期以降の注意点
熱中症をきたしやすいため、職種の選択制限、労働能率の低下、暑熱環境での作業に注意する必要がある。
参考文献
- 「特発性後天性全身性無汗症診療ガイドライン」作成委員会:自律神経. 2015;52(4):352-9.
- 版
- :バージョン1.0
- 更新日
- :2025年4月1日
- 文責
- :日本小児皮膚科学会