1. 染色体又は遺伝子に変化を伴う症候群
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ロスムンド・トムソン(Rothmund-Thomson)症候群

ろすむんど・とむそんしょうこうぐん

Rothmund-Thomson syndrome

告示

番号:40

疾病名:ロスムンド・トムソン症候群

疾患概念

ロスムンド・トムソン症候群:Rothmund-Thomson症候群(RTS)は、眼科医ロスムンドが多形皮膚萎縮症、小柄な体型、両側性の若年性白内障を呈する患者を報告したのが最初である。その後、皮膚科医トムソンが多形皮膚萎縮症、小柄な体型、骨格の異常を呈する患者を報告し、後に一つの症候群にまとめられた。RTSはtype1とtype2の2つのタイプが存在する。白内障はtype1に認められtype2では認められないことが多い。type2はRecQヘリカーゼファミリーに属するRECQL4が病因遺伝子であり、type1の一部はANAPC1が病因遺伝子であることが報告されている。RECQL4異常によりRTSの他にBaller-Gerold症候群(バレー・ジェロルド症候群)(BGS)、RAPADILINO症候群(ラパデリノ症候群)の2つのRTS類縁疾患が発症する。BGSとRAPADILINO症候群はRTSと表現型が極めて類似しているためRECQL4遺伝子に病的バリアントが認められた場合はRTSと同様に扱う。

疫学

2010年と2020年に施行された本邦のRTS全国調査では、それぞれ10名、8名が登録された。2010年に施行された本邦のBGS全国調査では3名が登録された。世界中で約300人が登録されている。

病因

RTS type2の病因遺伝子であるRECQL4は、8q24.3の染色体上に位置する。ヒトRECQヘリカーゼは1~5まで知られている。RTS type2はRECQL4の両アレルの病的バリアントにより発症する常染色体潜性(劣性)の遺伝性疾患である。RECQL4はDNA-DNAまたはDNA-RNAの2本鎖をATP依存性に巻き戻すヘリカーゼタンパクであり、遺伝子の複製・修復に関与している。
RTS type1の病因遺伝子であるANAPC1は分裂後期促進複合体(anaphase-promoting complex)/サイクロソーム(cyclosome)(APC/C)のサブユニットの一つであるANAPC1(Anaphase-promoting complex subunit 1)タンパクをコードする。ANAPC1は2q13の染色体上に位置する。RTS type1の一部はANAPC1の両アレルの病的バリアントにより発症する常染色体潜性(劣性)の遺伝性疾患であるが、他にも病因遺伝子が存在すると考えられている。APC/Cは巨大なE3リガーゼであり、細胞周期調節タンパク質のユビキチン依存的タンパク質分解を仲介し、複製と細胞分裂の間に起こるさまざまな事象を制御する。現時点で、RECQL4とANAPC1タンパクの機能的な相互作用については明らかでない。

臨床症状

RTSはtype1とtype2の2つのタイプに分けられ、さらに、2つの類縁疾患(RAPADILINO症候群、BGS)が存在する。

表1. 病因遺伝子と特徴的な所見

病因遺伝子特徴的な臨床所見
Rothmund-Thomson症候群 type2RECQL4骨肉腫
Baller-Gerold症候群RECQL4狭頭症
RAPADILINO症候群RECQL4橈骨欠損
Rothmund-Thomson症候群 type1ANAPC1若年性白内障

RTS type2はおおよそ、60%にRECQL4遺伝子異常が認められる。RTS type1の病因遺伝子はANAPC1である。RTS type1は、多形皮膚萎縮症、外胚葉奇形、若年性白内障を特徴とする。両側の白内障の出現は早く生後2-3か月で出現し、1-2歳のうちに固定する。RTS type2は、多形皮膚萎縮症、先天性骨欠損、幼児期からの骨肉腫の合併、加齢に伴い皮膚癌の合併を特徴とする。RTSの最も特徴的な症状は、生後3か月から6か月ごろから生じる皮疹である。はじめは、紫外線のあたりやすい顔面、特に頬部に紅斑、浮腫、水泡のような皮疹が生じ(急性期)、その後、1-2歳のうちに、四肢に広がり、最後は臀部に広がる。通常体幹には広がらない。次第に、毛細血管拡張、過剰な色素沈着、萎縮性変化を伴い(慢性期)、多形皮膚萎縮症と呼ばれる皮膚像を呈する。他の疾患でも多型皮膚萎縮は認められるため鑑別には、出現の時期、変化の時期を詳細に検討することが重要である。毛髪は疎で薄く、眉毛が認められないこともある。骨格の異常が70%以上に認められる。前頭部の突出、鞍鼻それに長管骨の異常を特徴とする。橈骨の欠損、母指の欠損または低形成が比較的多く認められる。放射線検査では骨格の異常がRTSの80%近くに認められるとの報告もある。

RECQL4の異常により発症する2つのRTSの類縁疾患が知られている。
表2. 臨床所見の頻度13.

臨床所見Baller-Gerold症候群Rothmund-Thomson症候群RAPADILINO症候群
低身長症ほぼ認められる66%ほぼ認められる(93%)
狭頭症認められる無い無い
乳児突然死1歳までに25%無い無い
肛門の奇形前方位不定無い
耳鼻奇形後方に回転無い無い
多形皮膚萎縮症珍しい認められる不定
疎な頭髪無い50%無い
疎な睫毛・眉毛無い75%無い
白内障無い60%無い
下痢/摂食障害無い20%未満ほぼ認められる(90%)
正常範囲内の知能50%が発達遅滞ほぼ認められる(95%)85%(?)
膝蓋骨の低形成または無形成無い無い認められる
橈骨欠損両側かつ対称性25%100%
母指の変形認められる存在する不定
骨肉腫低頻度30%リスクが増大
BGSは、冠状縫合の早期癒合による短頭、前頭の突出、眼球の突出、耳介低位、橈骨欠損、母指の欠損、多形皮膚萎縮症、骨肉腫、皮膚癌、悪性リンパ腫の合併を特徴とする。
RAPADILINO症候群は、以下の特徴を有し、その頭文字をとった疾患名である。橈骨欠損・低形成(radial hypoplasia/aplasia)、膝蓋骨低形成(patella hypoplasia)、口蓋の低形成、口蓋裂(cleft palate)、慢性の下痢(diarrhea)、関節の脱臼(dislocated joints)、小柄な体型(little size)、四肢の奇形(limb malformation)、細長い鼻(nose slender)、正常な知能(normal intelligence)。多形皮膚萎縮症は含まれていない。

検査所見

特徴的な検査所見はない。確定診断には、RECQL4遺伝子変異またはANAPC1遺伝子変異の同定が必要である。

診断

特徴的な皮疹(多形皮膚萎縮症)、骨格の異常があれば本症を疑う。最終的にRECQL4, ANAPC1遺伝子の病的バリアントが確認できれば確定診断となる。

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診断の際の留意点/鑑別診断

以下の疾患を鑑別する。
ブルーム症候群、コケイン症候群、ウェルナー症候群、ファンコニ貧血、毛細血管拡張性運動失調症、色素性乾皮症、先天性角化不全症、アクロゲリア、好中球減少を伴う多形皮膚萎縮症

合併症

悪性腫瘍の発生に常に留意する必要がある。骨肉腫(約30%の症例に合併)、皮膚がんが多いため、骨の異常、皮膚の異常に注意し、異常がある場合は画像検査を実施する。

治療

過度な日光は皮膚病変を悪化させ、また、皮膚がん発症のリスクを増すため避けるべきである。多形皮膚萎縮症などの皮膚病変について、レーザー治療が行われる場合もある。白内障、骨格の異常には、対症療法が主体となる。発癌、特に、骨肉腫の発症について定期的にフォローする必要がある。X線、UVへの感受性は、それほど高くはないが、X線を用いたスクリーニング検査はルーチンに行うべきでない。抗がん剤への感受性も他の遺伝子修復異常症である毛細血管拡張性運動失調症などと比較して高くなく、通常は、プロトコールに沿った化学療法が試みられている。しかし、抗がん剤投与後は通常以上にモニタリングを頻回に行うことが求められる。発癌がない場合、生命予後は悪くないとされている。RTSに合併した骨肉腫と、そうでない骨肉腫の5年生存率は、どちらも60-70%とかわりない。患者およびその家族には、遺伝的なカウンセリングを行う必要がある。

予後

2020年度に実施された本邦における集計では、骨肉腫のため8症例中2例が、それぞれ14歳、18歳で死亡していた。予後は、合併症(主に骨肉腫)の有無に左右される。定期的な検診により早期に悪性腫瘍の発症を診断し治療を行う。

患者会

ロスムンド・トムソン症候群 家族会

研究班

早老症のエビデンス集積を通じて診療の質と患者 QOLを向上する全国研究

成人期以降の注意点

RTSは多くの診療科が連携して診療していくことが必要な疾患である。1年に1回は皮膚科医により皮膚の観察を行う。眼科医により白内障のスクリーニング治療を行う。歯科医による定期的な診察が必要である。RTSでは過度の紫外線、放射線照射を避けなければならない。RECQL4遺伝子の病的バリアントを有するRTSでは5歳までに骨病変が無いか明らかにするため、全身の骨の画像評価を行うべきである。骨肉腫発症の危険性についてカウンセリングを行い、患者がその症状について知識を有するように患者教育を行うことが必要である。症状が出現したら速やかに医療機関を受診していただき、検査・治療を開始すべきである。

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:第1版
更新日
:2025年4月1日
文責
:日本小児遺伝学会