疾患概念
疫学
病因
臨床症状
- 1)頭蓋顔面
- 耳介の形態異常に加えて、外耳道閉鎖、中耳腔異常、耳小骨の異常による伝音性難聴が約9割で認められる。頬骨の低形成による眼瞼裂斜下を呈している。下眼瞼では、外側に部分的欠損ないしは小さなくぼみ、睫毛の部分的欠損を認め、涙管欠損を伴うこともある。顔面骨、特に頬骨と下顎骨の低形成が顔面正中を相対的に目立たせている。口蓋裂は20%に、後鼻腔閉鎖・狭窄は10%に合併する。
- 2)呼吸障害
-
下顎低形成、後鼻腔閉鎖・狭窄による呼吸障害をきたすことがある。特に新生児乳児期には、呼吸モニターを要することもある。
外科手術時の麻酔導入管理では、下顎低形成による挿管困難に注意する。 - 3)哺乳障害、摂食障害
- 下顎低形成が重症の場合には、哺乳障害や摂食障害を伴う。
- 4)その他
- 先天性心疾患を約1割で合併する。基本的に知的発達は正常である。発語の不明瞭さも目立つ。
検査所見
1.耳鼻咽喉科学的画像診断
- CTによる耳小骨の異形成、中耳腔の形成異常の確認
- 聴力検査
- 言語発達評価
2.遺伝学的検査
原因遺伝子TCOF1、POLR1B、POLR1C、POLR1D、いずれかに病的変異を認める。
診断
主要症状よりトリーチャーコリンズ症候群が疑われ、原因遺伝子(TCOF1、POLR1B、POLR1C、POLR1D)に病的変異を認めればトリーチャーコリンズ症候群と診断が確定する。変異を認めない場合もあり、乳幼児期から下記の症状を全て満たせば臨床診断される。
診断の際の留意点/鑑別診断
1.留意点
同一家系内でも、臨床症状に大きな差(表現度の差)があるので、遺伝カウンセリングにおける次子再発の可能性の評価では注意が必要。
2.鑑別診断
下顎骨低形成を特徴とする下記の疾患が鑑別に上がる。
- 1)小頭症を伴う下顎顔面異骨症
- 小頭症、知的障害、顔面非対称、食道閉鎖、拇指異常を特徴とし、原因遺伝子はEFTUD2。
- 2)ネイジャー(Nager)症候群
- 四肢、特に軸前性の異常(低形成拇指、拇指骨数過多など)が特徴。原因遺伝子はSF3B4。
- 3)ミラー(Miller)症候群
- 四肢、特に軸後性異常が特徴。原因遺伝子はDHODH。
- 4)眼・耳介・椎骨スペクトラム(Oculoauriculovertebral spectrum)ないしは鰓弓症候群
- 顔面非対称、副耳、眼球デルモイド、椎骨異形成、などが特徴。
- 5)ピエールロバンシーケンス(Pierre Robin sequence)
- 下顎低形成、舌の低形成、口蓋裂などが特徴。遺伝的異質性が高い。
治療
- 呼吸管理:出生前から下顎低形成が明らかな場合には、分娩後の気道確保や呼吸管理を計画しておく。新生児期の呼吸障害に対しては、気管切開や人工呼吸管理も必要とされることがある。また、下顎低形成の程度により睡眠時無呼吸のモニターが必要となる。
- 下顎低形成による哺乳困難や摂食障害に対しては、経管栄養や胃ろうも考慮する。
- 形成外科的修復術:口蓋裂に対しては口蓋形成術を要する。手術時の麻酔導入による挿管管理では、下顎低形成による挿管困難も念頭におく。
- 難聴や不明瞭な発語に対しては、骨伝導補聴器装着や言語療法が適応となる。
- 下眼瞼コロボーマや涙の減少に対しては、眼科検診が必要になる。
- 顎顔面の修復術については、介入する時期・年齢も考慮する。
- カウンセリングによる心理社会的な支援は需要である。
管理・ケア
予後
下顎低形成が重度の場合には、出生後の蘇生が困難な例もある。
呼吸への影響がない場合には、長期的生命予後は比較的良好である。また、基本的に知的障害はない。
研究班
成人期以降の注意点
心理社会的発達過程での心理的影響はときに成人期にまで影響を及ぼすこともある。
次世代での再発の可能性については、遺伝カウンセリングが適応となる。
参考文献
- GeneReviews(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK1532/)
- Jones MC. Treacher Collins syndrome and related disorders. In Cassidy and Allanson’s Management of Genetic Syndromes, 4th edition, Wiley Blackwell, 2021;927-935.
- Vincent M, Geneviève D, Ostertag A, et al. Treacher Collins syndrome: a clinical and molecular study based on a large series of patients. Genet Med. 2016;18:49–56
- 版
- :第1版
- 更新日
- :2025年4月1日
- 文責
- :日本小児遺伝学会