1. 染色体又は遺伝子に変化を伴う症候群
  2. 大分類: 染色体又は遺伝子に変化を伴う症候群
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トリーチャーコリンズ(Treacher Collins)症候群

とりーちゃーこりんずしょうこうぐん

Treacher Collins syndrome

告示

番号:29

疾病名:トリーチャーコリンズ症候群

疾患概念

トリーチャーコリンズ(Treacher Collins)症候群は、外耳道閉鎖あるいは中耳の耳小骨の形態異常、頬骨弓低形成による眼瞼裂斜下、下眼瞼外側の部分欠損、顔面骨低形成による小下顎などを特徴とする。頬骨や下顎の低形成は摂食障害や呼吸障害を引き起こすことがある。また、耳小骨の形態異常や中耳腔の低形成により伝音性難聴をきたす。ほかに、口蓋裂や後鼻腔閉鎖・狭窄を伴うこともある。多くの場合、常染色体顕性遺伝形式(TCOF1POLR1BPOLR1D)をとるが、常染色体潜性遺伝形式(POLR1CPOLR1Dの一部)のこともある。顎顔面多領域にわたる症状は小児期以降も軽快せず、成人期以降も持続する。

疫学

国内外での正式な疫学調査は無いが、海外では5万出生から10万出生に1例と推定されている。発生頻度に人種差はない。

病因

単一遺伝子疾患で、常染色体顕性遺伝形式を呈する原因遺伝子としてTCOF1POLR1BPOLR1Dがあり、常染色体潜性遺伝形式を呈する原因遺伝子としてPOLR1CPOLR1Dの一部が上がる。トリーチャーコリンズ症候群全体に占める割合としては、TCOF1が86%、POLR1Bが1.3%、POLR1Cが1.2%、POLR1Dが6%。臨床症状の差(表現度の幅)が大きく、同一家系内でも症状が極めて軽微で未診断とされる症例と、重篤な呼吸管理を要する症例とが混在することもある。頭蓋顔面複合体を形成する骨・軟骨細胞は神経堤細胞に由来する。トリーチャーコリンズ症候群では、上述の遺伝子が発現している神経堤細胞の初期発生段階における異常が原因と考えられている。

臨床症状

1)頭蓋顔面
耳介の形態異常に加えて、外耳道閉鎖、中耳腔異常、耳小骨の異常による伝音性難聴が約9割で認められる。頬骨の低形成による眼瞼裂斜下を呈している。下眼瞼では、外側に部分的欠損ないしは小さなくぼみ、睫毛の部分的欠損を認め、涙管欠損を伴うこともある。顔面骨、特に頬骨と下顎骨の低形成が顔面正中を相対的に目立たせている。口蓋裂は20%に、後鼻腔閉鎖・狭窄は10%に合併する。
2)呼吸障害
下顎低形成、後鼻腔閉鎖・狭窄による呼吸障害をきたすことがある。特に新生児乳児期には、呼吸モニターを要することもある。
外科手術時の麻酔導入管理では、下顎低形成による挿管困難に注意する。
3)哺乳障害、摂食障害
下顎低形成が重症の場合には、哺乳障害や摂食障害を伴う。
4)その他
先天性心疾患を約1割で合併する。基本的に知的発達は正常である。発語の不明瞭さも目立つ。

検査所見

1.耳鼻咽喉科学的画像診断

  1. CTによる耳小骨の異形成、中耳腔の形成異常の確認
  2. 聴力検査
  3. 言語発達評価

2.遺伝学的検査

原因遺伝子TCOF1POLR1BPOLR1CPOLR1D、いずれかに病的変異を認める。

診断

主要症状よりトリーチャーコリンズ症候群が疑われ、原因遺伝子(TCOF1POLR1BPOLR1CPOLR1D)に病的変異を認めればトリーチャーコリンズ症候群と診断が確定する。変異を認めない場合もあり、乳幼児期から下記の症状を全て満たせば臨床診断される。

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診断の際の留意点/鑑別診断

1.留意点

同一家系内でも、臨床症状に大きな差(表現度の差)があるので、遺伝カウンセリングにおける次子再発の可能性の評価では注意が必要。

2.鑑別診断

下顎骨低形成を特徴とする下記の疾患が鑑別に上がる。

1)小頭症を伴う下顎顔面異骨症
小頭症、知的障害、顔面非対称、食道閉鎖、拇指異常を特徴とし、原因遺伝子はEFTUD2
2)ネイジャー(Nager)症候群
四肢、特に軸前性の異常(低形成拇指、拇指骨数過多など)が特徴。原因遺伝子はSF3B4
3)ミラー(Miller)症候群
四肢、特に軸後性異常が特徴。原因遺伝子はDHODH
4)眼・耳介・椎骨スペクトラム(Oculoauriculovertebral spectrum)ないしは鰓弓症候群
顔面非対称、副耳、眼球デルモイド、椎骨異形成、などが特徴。
5)ピエールロバンシーケンス(Pierre Robin sequence)
下顎低形成、舌の低形成、口蓋裂などが特徴。遺伝的異質性が高い。

治療

  1. 呼吸管理:出生前から下顎低形成が明らかな場合には、分娩後の気道確保や呼吸管理を計画しておく。新生児期の呼吸障害に対しては、気管切開や人工呼吸管理も必要とされることがある。また、下顎低形成の程度により睡眠時無呼吸のモニターが必要となる。
  2. 下顎低形成による哺乳困難や摂食障害に対しては、経管栄養や胃ろうも考慮する。
  3. 形成外科的修復術:口蓋裂に対しては口蓋形成術を要する。手術時の麻酔導入による挿管管理では、下顎低形成による挿管困難も念頭におく。
  4. 難聴や不明瞭な発語に対しては、骨伝導補聴器装着や言語療法が適応となる。
  5. 下眼瞼コロボーマや涙の減少に対しては、眼科検診が必要になる。
  6. 顎顔面の修復術については、介入する時期・年齢も考慮する。
  7. カウンセリングによる心理社会的な支援は需要である。

管理・ケア

顎顔面の形態異常は、児の成長において心理社会的発達に影響を及ぼすこともあり、年長児では外科的介入に合わせて心理的サポートも必要となる。

予後

下顎低形成が重度の場合には、出生後の蘇生が困難な例もある。
呼吸への影響がない場合には、長期的生命予後は比較的良好である。また、基本的に知的障害はない。

研究班

「患者との双方向的協調に基づく先天異常症候群の自然歴の収集とrecontact可能なシステムの構築」(23FC1052)

成人期以降の注意点

心理社会的発達過程での心理的影響はときに成人期にまで影響を及ぼすこともある。
次世代での再発の可能性については、遺伝カウンセリングが適応となる。

参考文献

  1. GeneReviews(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK1532/
  2. Jones MC. Treacher Collins syndrome and related disorders. In Cassidy and Allanson’s Management of Genetic Syndromes, 4th edition, Wiley Blackwell, 2021;927-935.
  3. Vincent M, Geneviève D, Ostertag A, et al. Treacher Collins syndrome: a clinical and molecular study based on a large series of patients. Genet Med. 2016;18:49–56
:第1版
更新日
:2025年4月1日
文責
:日本小児遺伝学会