疾患概念
特徴的な顔貌と胸郭異常を呈し、出生直後から始まる呼吸障害、哺乳障害、発達の遅れ示す先天奇形症候群である。ときに臍帯ヘルニアのような重度腹壁異常を認める。胎児期の羊水過多や胎盤過形成も認められる。
疫学
全国集計でこれまでに約70名確認されている。
病因
14番染色体長腕遠位部(14q32.2)に存在する14番染色体インプリンティング遺伝子の発現異常(父性遺伝子の過剰発現および母性発現遺伝子の発現消失)により生じる。その原因は、14番染色体がともに父親に由来する14番染色体父性片親性ダイソミー、メチル化可変領域(DMR)あるいはRTL1asを含む母由来14番染色体の微細染色体欠失、14番染色体インプリンティング遺伝子の発現調節を担うメチル化可変領域のエピ変異(過剰メチル化)に大別される。
病理・病態
14q32.2インプリンティング領域内には複数のインプリンティング遺伝子が存在するが、本疾患の欠失例の欠失領域の比較検討から、母性発現遺伝子RTL1asの発現消失とそれに伴う父性発現遺伝子RTL1の過剰発現が鏡―緒方症候群の臨床像に最も寄与することが判明している。
臨床症状
疾患特異的な症状として、ベル型・コートハンガー型と形容される特徴的な小胸郭、ならびに豊かな頬、突出した人中、平坦な鼻梁、前額の突出といった特徴的な顔貌を呈する。疾患に特徴的な症状として、羊水過多、胎盤過形成、出生直後からの呼吸障害、嚥下困難による哺乳不良を呈する。呼吸障害に対し人工呼吸管理、哺乳不良に対し経管栄養を必要とする。様々な程度の発達の遅れをほぼ全例に見られる。肝芽腫の合併を約8%に認め、定期的なフォローを必要とする。
検査所見
胎児期では特徴的な胸郭異常、羊水過多などから超音波検査で胎児診断される場合がある。出生後では、胸部X線撮影によるベル型・コートハンガー型小胸郭が診断に有用であるが、確定診断は14番染色体インプリンティング領域内のメチル化可変領域(IG-DMR、MEG3-DMR)に対するメチル化テストあるいはmethylation-specific
multiplex ligation-dependent probe amplification
(MS-MLPA)でDMRに異常高メチル化が同定されることでなされる。稀な例外として、DMRのメチル化異常を示さず、RTL1asを含む微細欠失をもつ症例が報告されている。
診断
新生児期からの下記に記す特徴的な症状を示し、第14番染色体父親性ダイソミー症候群(鏡・緒方症候群)が疑われる場合、14番染色体インプリンティング領域内のメチル化可変領域(IG-DMR、MEG3-DMR)に対するメチル化テストあるいはMS-MLPAで異常高メチル化が同定されることでなされる。なお、MS-MLPAは、DMRのメチル化異常を示さず、RTL1asを含む微細欠失も検出可能である。本疾患の遺伝子検査は保険収載されており、国立成育医療研究センター衛生検査センターは臨床検査として遺伝子検査を受託している。
診断の際の留意点/鑑別診断
疾患特異的なベル型・コートハンガー型小胸郭および顔貌、疾患に特徴的な羊水過多、胎盤過形成、腹壁異常、嚥下困難による哺乳不良から臨床診断は可能であるが、確定診断は遺伝子診断によりなされる。
合併症
肝芽腫の合併を複数例で報告されている。年長児の側弯や胸郭変形の合併も報告されている。
治療
対症療法が中心となる。ほぼ全例で出生直後より人工呼吸管理を必要とし、平均1か月程度の人工呼吸管理を必要とする。出生後より嚥下困難による哺乳不良を認める場合が多く、ほぼ全例が数日から数か月の経管栄養を必要とする。出生後から平均7か月程度で経管栄養が不要となるが、経口摂取が進まず長期間の経管栄養や胃ろうを要する患者もいる。巨大な臍帯ヘルニアに対しては外科的治療が選択される。
管理・ケア
新生児期から認められる呼吸障害に対して、人工呼吸管理を必要とすることが多いが、成長とともに離脱可能である。また、嚥下困難による哺乳不良、摂食障害に対しては、経管栄養、摂食リハビリが必要となる。臍帯ヘルニア、腹直筋離開を認めることから、臍帯ヘルニアに対する外科的治療、便秘に対する緩下剤や浣腸の使用を必要とする。精神運動発達遅滞はほぼ全例に認められることから、通常発達支援および特殊支援級・養護学校への通学を必要とする。関節拘縮や側弯を呈することも多く、整形外科による定期的なフォローが必要となる。
食事・栄養
嚥下困難による哺乳不良をほぼ全例で認め、経管栄養を新生児期、乳児期と必要とする患児が多い。経管栄養と摂食リハビリを進めるなかで、徐々に経口摂取が可能となる児が多いが、幼児期、学童期になっても普通食を食べることのできない患者もいる。
予後
ごく少数の呼吸障害遷延、肝芽腫合併例を認める症例以外では生命予後は良好である。摂食障害や精神運動発達遅滞に対する摂食リハビリや発達支援を必要とする。
予後不良症例の対応
呼吸障害遷延や肝芽腫合併など問題となる症状に対する治療を進める。
介護
幼児期までに歩行は可能であり、支援級、養護学校への通学も可能であるが、身辺自立に関しては、個人差を認めるものの、通常困難である。
最近のトピックス
マウスモデルの解析から、胸郭変形の原因がRTL1の過剰発現であることが判明した。
患者会
なし(患者間の交流はあり、研究者も参加している)
研究班
患者との双方向的協調に基づく先天異常症候群の自然歴の収集とrecontact可能なシステムの構築班
成人期以降の注意点
成人症例はまだ数名であり不明な点が多い。聴覚過敏が一部の症例で報告されている。
参考文献
- Ogata T, Kagami M. Kagami-Ogata syndrome: a clinically recognizable upd(14)pat and related disorder affecting the chromosome 14q32.2 imprinted region. J Hum Genet. 2016 Feb;61(2):87-94.
- Kagami M, Kurosawa K, Miyazaki O, Ishino F, Matsuoka K, Ogata T. Comprehensive clinical studies in 34 patients with molecularly defined UPD(14)pat and related conditions (Kagami-Ogata syndrome). Eur J Hum Genet. 2015 Nov;23(11):1488-98.
- 版
- :第1版
- 更新日
- :2025年4月1日
- 文責
- :日本小児遺伝学会