1. 膠原病
  2. 大分類: 自己炎症性疾患
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乳児発症STING関連血管炎

にゅうじはっしょう すてぃんぐ かんれんけっかんえん

STING (stimulator of interferon genes)-associated vasculopathy with onset in infancy

告示

番号:20

疾病名:乳児発症STING関連血管炎

疾患概念

自己炎症疾患は、自然免疫の制御異常による過剰な炎症性サイトカインの産生を特徴とする疾患で、様々な組織や臓器病変を呈する。2011年に遺伝性自己炎症疾患として、Ⅰ型インターフェロノパチーの概念が提唱された(1)。乳児発症STING関連血管炎(Stimulator of interferon genes(STING)-associated vasculopathy with onset in infancy: SAVI)はⅠ型インターフェロノパチーに分類され、発症年齢は新生児期から成人期まで様々だが、通常乳児期早期から発症する。2014年にSTINGをコードするSTING1遺伝子の機能獲得変異が原因であることが明らかになった(2)。本疾患は、乳児期早期からの症状に対して治療介入が求められるが、従来の免疫抑制薬やステロイドによる治療効果は限定的であり、呼吸器合併症に関連して致命的な経過をとることが多い。

疫学

乳児発症STING関連血管炎は、2021年までに海外で87名、国内で2名(3, 4)の合計89名が文献報告された。Primary Immunodeficiency Database in Japan(PIDJ)をもとに、2023年時点の国内における生存者数は6名と推測される。発症月齢の中央値は生後8.5か月で、患者の70%が1歳未満で発症する(5)。一部、成人発症例の報告がある(6)

病因

 インターフェロン(IFN)遺伝子刺激因子(Stimulator of interferon genes:STING)は、STING1遺伝子によってコードされるタンパクで、Ⅰ型IFNシグナルの活性化に介在する。STINGは通常、ウイルスや細菌由来の二本鎖DNAを細胞質内で感知するセンサーの補助因子として作用する。細胞がウイルスの侵入やサイトカインの刺激を受けると、STINGを介してⅠ型IFNが産生され、周辺の細胞ではIFN誘導性遺伝子(IFN-stimulated genes:ISGs)の転写が促進され、抗ウイルス活性が誘導される。乳児発症STING関連血管炎では、STINGの機能獲得変異によってI型インターフェロン産生が亢進する。STINGの恒常的な活性化によって血清インターフェロンαが上昇すると、T細胞ではSTAT1のリン酸化が亢進しISGsの転写が誘導される。乳児発症STING関連血管炎の大半はSTING1のヘテロ接合性機能獲得変異が原因となるが(2)、ホモ接合性変異によって、慢性的にSTINGが活性化する症例も存在するため(7)、遺伝子型と表現型についてさらなる検討を要する。

臨床症状

乳児発症STING関連血管炎では、一般的に乳児期早期から全身性の炎症が遷延し、様々な臓器が障害される。
  1. 間質性肺疾患
    乳児期から間質性肺疾患を発症し、肺線維症や肺気腫を合併することがある。間質性肺疾患は本疾患の約85%にみられ、生命予後に影響する重篤な合併症である。
  2. 皮疹
    皮疹は約80%に合併し、手指や足指など指趾先端に紅斑や紫斑がみられ、潰瘍や指趾壊疽、爪欠損を伴うことがある。また、耳や鼻、頬部など顔面に紅斑や紫斑が現れ、中央部が潰瘍化することもある。
  3. 発熱
    Ⅰ型IFNの持続的な過剰産生のため微熱を繰り返し、高熱を伴うこともある。約半数の症例でみられるが、症状は多様であり、発熱のトリガーや熱型などの詳細はわかっていない。
  4. 関節炎
    約35%の症例で関節炎がみられ、5歳あるいはそれ以前の早い時期に発症する
  5. その他の症状
    肺炎や皮膚感染症などの感染症は約26%の頻度で報告されており、臓器障害あるいは全身性の免疫異常、ステロイドや免疫抑制薬による医原性など複数の原因が疑われるが、詳細な機序は不明である。
自己免疫との関連が示唆される症状として、それぞれ10%未満の頻度で自己免疫性甲状腺炎、腎炎、筋炎がみられる。また、肝炎や胆管炎などの肝胆管異常が約4%で報告されている。

検査所見

  1. 血液検査
    CRPや赤血球沈降反応などの炎症反応が慢性的に亢進する。また、末梢血で、IgG高値、自己抗体(抗核抗体、抗リン脂質抗体)陽性、Ⅰ型IFN高値などがみられることがある。
    間質性肺炎の評価として、KL-6や肺サーファクタントプロテインA(SP-A)、肺サーファクタントプロテインD(SP-D)は有用である。
  2. 呼吸器検査
    間質性肺疾患は両側性に認められ、蜂巣肺や傍気管リンパ節の腫脹を伴うこともある。本疾患に合併する間質性肺疾患に特徴的なCT所見はないが、膠原病に関連する間質性肺疾患や既知の遺伝性間質性肺疾患(サーファクタント代謝異常やマクロファージ機能異常に伴う間質性肺疾患、肺胞蛋白症)を除く。
  3. 皮膚病理検査
    皮膚の病理組織では血管周囲にリンパ球や好中球が浸潤しフィブリンが析出することもある。
  4. 遺伝子検査
    STING1の遺伝子検査は、保険診療として実施できる。

診断

間質性肺疾患、皮膚症状、発熱、関節炎などの臨床症状と血液炎症反応の上昇から本疾患を疑う。遺伝子検査によってSTING1遺伝子の機能獲得変異を確認し、診断を確定する。

診断の際の留意点/鑑別診断

間質性肺疾患は致死的経過をとることあり、臨床像は多彩であり、乳児期以降に症状が出現することもある。

鑑別診断:
他のⅠ型インターフェロノパチー、若年性特発性関節炎、特発性間質性肺炎、全身性強皮症、若年性皮膚筋炎、混合性結合組織病、全身性エリテマトーデス、サルコイドーシス、サイトメガロウイルス肺炎、ランゲルハンス細胞組織球症、リンパ脈管筋腫症など

合併症

関節炎、甲状腺炎、糸球体腎炎、脳血管障害を伴うこともある。

治療

乳児発症STING関連血管炎に対する有効な治療法は確立されていない。副腎皮質ステロイドや免疫調節薬、免疫グロブリン療法、アスピリンなどによる治療は、無効あるいは部分的な改善にとどまる。JAK阻害薬は、細胞内でSTAT1のリン酸化を抑制し、ISGsの転写を低下させる分子標的薬である。本薬剤によって、発熱発作の軽減、皮膚所見の著明な改善、間質性肺疾患の疾患活動性の低下が報告されている。これまで肺移植が行われた症例も報告されているが、重篤な感染症など肺疾患の急性増悪によって死亡しているため、本疾患の間質性肺疾患に対する肺移植は、慎重な判断を要する。

管理・ケア

間質性肺疾患による呼吸障害を合併した場合は、在宅酸素療法など呼吸器管理が必要になることがある。

予後

希少疾病のため限定的ではあるが、これまでの報告によると、死亡年齢の中央値は16歳(範囲0.42~36歳)であり、ほとんどが呼吸器合併症によるものとされる(8)

予後不良症例の対応

免疫調整薬、ステロイド、JAK阻害薬などの治療に伴い免疫力低下が生じることもあり、感染症にも注意する。

介護

呼吸器管理を要する患者には家族の看護以外に、介護支援が必要になることがある。

患者会

自己炎症疾患友の会 が存在する。

研究班

厚生労働省 自己炎症性疾患とその類縁疾患における、移行期医療を含めた診療体制整備、患者登録推進、全国疫学調査に基づく診療ガイドライン構築に関する研究班

成人期以降の注意点

小児期に致死的な経過をとることが多いが、軽症例や成人期発症例は成人期においても継続した治療が必要となる。小児期と同様に呼吸器管理を中心とした治療を要するが、成人期のその他注意点については、更なる検討が待たれる。

文献

  1. Crow YJ. Type I interferonopathies: a novel set of inborn errors of immunity. Ann N Y Acad Sci. 2011;1238:91-8.
  2. Liu Y, Jesus AA, Marrero B, et al. Activated STING in a vascular and pulmonary syndrome. N Engl J Med. 2014;371(6):507-18.
  3. Nishida T, Nakano K, Inoue Y, et al. Stimulator of Interferon Genes-associated Vasculopathy with an Onset in Infancy Diagnosed after the Development of Atypical Pulmonary Lesions During Treatment as Juvenile Idiopathic Arthritis. Intern Med. 2021;60(7):1109-14.
  4. Ishikawa T, Tamura E, Kasahara M, et al. Severe Liver Disorder Following Liver Transplantation in STING-Associated Vasculopathy with Onset in Infancy. J Clin Immunol. 2021;41(5):967-74.
  5. Fremond ML, Hadchouel A, Berteloot L, et al. Overview of STING-Associated Vasculopathy with Onset in Infancy (SAVI) Among 21 Patients. J Allergy Clin Immunol Pract. 2021;9(2):803-18 e11.
  6. Staels F, Betrains A, Doubel P, et al Adult-onset ANCA-associated vasculitis in SAVI: Extension of the phenotypic spectrum, case report and review of the literature. Front Immunol. 2020;11:575219.
  7. Lin B, Berard R, Al Rasheed A, et al. A novel STING1 variant causes a recessive form of STING-associated vasculopathy with onset in infancy (SAVI). J Allergy Clin Immunol. 2020;146(5):1204-8.
  8. Fremond ML, Crow YJ: STING-Mediated lung inflammation and beyond. J Clin Immunol. 2021;41:501-514.
:第1版
更新日
:2025年4月1日
文責
:日本免疫不全・自己炎症学会