疾患概念
重度の発達遅滞または知的障害、言語発達遅滞、摂食障害を特徴とする先天異常症候群である。他に筋緊張低下や関節の屈曲拘縮、成長障害、特徴的な顔貌、斜視、けいれん、睡眠障害、歯の異常を認める。ASXL3 遺伝子におけるヘテロ接合性の病的バリアントを原因とする。
疫学
未診断の重度精神発達遅滞例のなかに認めることがしばしばある。国内でも約10例が確認されている。
病因
ASXL3 遺伝子の機能喪失変異によって発症する。その遺伝子産物は転写調節を行っている。臨床症状が重なるBoring-Opitz症候群はASXL1 遺伝子の機能喪失変異を原因としている。
臨床症状
重度の言語発達の遅れ、筋緊張低下、てんかん、精神発達遅滞、知的障害を呈する。アーチ状の眉、円筒状の鼻、下に伸びた鼻中隔、厚い下口唇などからなる特徴的な顔貌を認める。自閉スペクトラム障害、自傷行動も認める。骨格はマルファン症候群様の体型や側弯を認める。睡眠障害は比較的多く、睡眠時無呼吸などを伴うことがある。斜視や屈折異常、歯列や咬合の異常も認める。
診断
臨床症状の組み合わせから本症を疑い、ASXL3 遺伝子に病的バリアントをヘテロ接合として認めれば診断が確定する。
診断の際の留意点/鑑別診断
重度の精神発達遅滞を呈する疾患を鑑別する。同じASXL遺伝子ファミリーであるASXL1、ASXL2 の異常を原因とするBoring-Opitz症候群やShashi-Pena症候群とも症状が共通するので、鑑別を要する。
治療
対症療法が中心となる。早期からのリハビリテーションや療育の参加は重要。摂食障害や哺乳障害などには経管栄養や摂食指導も考慮する。また、逆流や誤嚥性肺炎などを繰り返す場合には胃ろう造設も考慮する。てんかんに対しては抗てんかん薬を用いる。無呼吸や換気障害では、呼吸モニターを行う。整形外科的、眼科的、歯科などの各領域の合併症に対しての評価、管理を考慮する。
予後
予後は、合併するてんかんなどの神経症状および無呼吸発作や低換気などの呼吸障害、気道感染などによる。
研究班
厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業「先天異常症候群のライフステージ全体の自然歴と合併症の把握:Reverse phenotypingを包含したアプローチ」
成人期以降の注意点
栄養管理や側弯の進行、てんかん発作、睡眠時無呼吸、気道感染に注意する。
参考文献
- Balasubramanian M, Schirwani S. ASXL3-Related Disorder. In: Adam MP, Ardinger HH, Pagon RA, et al., eds. GeneReviews®. Seattle (WA): University of Washington, Seattle; November 5, 2020.
- 版
- :第1版
- 更新日
- :2021年11月1日
- 文責
- :日本小児遺伝学会
疾患概念
多毛、低身長、知的障害、特徴的な顔貌を特徴とする先天異常症候群である。他に、筋緊張低下、睡眠障害、経口摂取不良、成長ホルモン分泌不全、けいれんを認める。主にKMT2A 遺伝子のヘテロ接合性の病的バリアントが原因である。症状は小児期以降も軽快せず、成人期以降も持続する。
疫学
300例以上が報告されている。国内でも20例以上が確認されている。
病因
KMT2A 遺伝子のヘテロ接合性の機能喪失変異が原因である。KMT2A 遺伝子はヒストンタンパクのメチル化を介して、遺伝子発現調節を行っている。そのために、症状も多臓器に渡ると考えられている。
臨床症状
精神発達遅滞および知的障害は、軽度から重度まで幅広い。筋緊張低下、乳児期の哺乳不良や便秘、自閉スペクトラム障害も認める。多毛は特徴の一つ。低身長、椎骨異常、先天性心疾患、特徴的な顔貌を認める。
検査所見
椎骨レントゲン撮影による椎骨異常の評価や内分泌的評価は適応となる。
診断
臨床症状の組み合わせから本症を疑い、KMT2A 遺伝子に病的バリアントをヘテロ接合として認めれば診断が確定する。
診断の際の留意点/鑑別診断
精神発達遅滞を呈する先天異常症候群が鑑別に上がる。特に、身体所見は同じくヒストン修飾に関連した遺伝子の病的バリアントを原因とするCoffin-Siris症候群やRubinstein-Taybi症候群などと重なる点もあり、鑑別を要する。
治療
対症療法が中心となる。早期からのリハビリテーションや療育の参加は重要。摂食障害や哺乳障害などには経管栄養や摂食指導も考慮する。自閉スペクトラム障害では、児童精神の専門家の関わりも重要。整形外科、眼科などの各領域の合併症に対しての評価、管理を考慮する。
予後
予後は、合併する神経症状や先天性心疾患の程度などによる。
研究班
厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業「先天異常症候群のライフステージ全体の自然歴と合併症の把握:Reverse phenotypingを包含したアプローチ」
成人期以降の注意点
てんかん発作、気道感染に注意する。
参考文献
- Baer S, Afenjar A, Smol T, et al. Wiedemann-Steiner syndrome as a major cause of syndromic intellectual disability: A study of 33 French cases. Clin Genet. 2018;94(1):141-152.
- Sheppard SE, Campbell IM, Harr MH, et al. Expanding the genotypic and phenotypic spectrum in a diverse cohort of 104 individuals with Wiedemann-Steiner syndrome. Am J Med Genet A. 2021;185(6):1649-1665.
- 版
- :第1版
- 更新日
- :2021年11月1日
- 文責
- :日本小児遺伝学会
疾患概念
乳幼児期からの筋緊張低下、知的障害、特異顔貌、体幹部肥満、脈絡網膜ジストロフィーなどの眼異常、間欠的好中球減少症を主要症状とする先天異常症候群である。1973年にCohenらが最初に兄妹例を報告した。常染色体潜性遺伝性疾患である。責任遺伝子はVPS13B (Vacuolar protein Sorting 13B)である。
疫学
フィンランドや米国の一部に患者の集積がみられる。10万人に1人ほどの罹患率と考えられている。
病因
VPS13B 遺伝子変異のホモ接合ないし複合型ヘテロ接合がみられる。
病理・病態
VPS13B は細胞内小器官である小胞体を介した蛋白質の輸送に関係する遺伝子である。本症候群では特有の糖鎖合成異常がみられる。
臨床症状
精神発達遅滞および知的障害は、軽度から重度まで幅広い。筋緊張低下、乳児期の哺乳不良や便秘、自閉スペクトラム障害も認める。体幹部肥満と細い手足が特徴的である。小頭症と特徴的顔貌を認め、眉毛の外側が太い、眼瞼裂斜下、波状上眼瞼、長く濃い睫毛、高い鼻梁、頬骨低形成、短く低形成の人中、突出した上顎骨前部、短い上口唇、少し開いた口、目立つ門歯、小下顎、毛髪線低位,高口蓋あるいは狭口蓋を認める。人中が短いために、上口唇から上顎の門歯が見えやすい。脈絡網膜ジストロフィー、高度近視など特徴的所見を認める。眼瞼下垂、斜視、眼振、虹彩萎縮、小眼球、小角膜など各種眼科異常を認める。おだやかで親しみやすい性格である。
検査所見
間欠性好中球減少症は特徴的な所見である。眼底検査、網膜電位図など眼科検査が重要である。
診断
臨床症状の組み合わせから本症を疑い、VPS13B 遺伝子に病的バリアントをホモ接合ないし複合型ヘテロ接合として認めれば診断が確定する。
診断の際の留意点/鑑別診断
精神発達遅滞を呈する先天異常症候群が鑑別に上がる。症候性肥満を呈する先天異常症候群としてPrader-Willi症候群、Bardet-Biedl症候群、Alstrom症候群などを鑑別する。1p36欠失症候群も肥満の例があり、臨床的に類似の所見を呈することがある。歯の形状から、KBG症候群も鑑別が必要である。
合併症
肥満に伴う生活習慣病に配慮する。夜盲症が進行する場合がある。
治療
根本的な治療方法は存在せず、対症療法が中心となる。知的障害に対して、適切な療育を行う。理学療法、作業療法、言語療法が必要である。関節過伸展に対しては、日常の運動療法が有効である。好中球減少に伴って、感染症の合併が見られる場合があり、抗生剤治療を行う。G-CSF治療が行われた例もある。
管理・ケア
視力低下、視野狭窄に注意する。生活面の自立にむけた継続的管理が必要である。
食事・栄養
肥満に対する栄養指導が重要である。
予後
予後は、合併する神経症状や生活習慣病の程度などによる。
予後不良症例の対応
生命予後は良好である。
介護
視力低下、視野狭窄があり、移動支援が必要な場合がある。
患者会
研究班
厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業「先天異常症候群のライフステージ全体の自然歴と合併症の把握:Reverse phenotypingを包含したアプローチ」
成人期以降の注意点
肥満に進行、視力低下、感染症に注意する。
参考文献
- 倉石 佳織, 北村 千章, 西條 竜也. Cohen症候群の特徴を踏まえたヘルスケアモデル構築のための文献レビュー. 日本遺伝看護学会誌19;66-75、2021.
- 岡本伸彦.【免疫症候群(第2版)-その他の免疫疾患を含めて-】原発性免疫不全症候群 先天性食細胞機能不全症及び欠損症 先天性好中球減少症 Cohen症候群(解説/特集)日本臨床別冊免疫症候群III :597-599,2016.
- 版
- :第1版
- 更新日
- :2021年11月1日
- 文責
- :日本小児遺伝学会
疾患概念
重度の知的障害、成長障害、筋緊張低下、特徴的な顔貌を特徴とする先天異常症候群である。ほとんどの例で自立歩行や言語獲得が困難である。他に、斜視、便秘、胃食道逆流症、無呼吸なども特徴にあげられる。痙攣を40-50%で合併する。TCF4 遺伝子のハプロ不全やヘテロ接合性の機能喪失変異、またはTCF4を含む18q21.2の欠失でも発症する。症状は、小児期以降も軽快せず、成人期以降も持続する。
疫学
正確な頻度は不明。18q21.2欠失を原因とする例が約4万出生に1例とされている。国内でも30例以上が確認されている。
病因
18q21.2に座位するTCF4 遺伝子の機能喪失変異ないしは18q21.2領域の微細欠失によるハプロ不全を原因とする。
臨床症状
重度の精神発達遅滞、自閉スペクトラム障害、自傷などの行動異常を呈する。出生後の成長障害、小頭症も認める。覚醒時の息詰め・無呼吸に続く過換気は3~7歳ころから認める特徴の一つ。てんかんは40~50%で認め、そのパターンと重症度は様々である。斜視や乱視も認める。胃食道逆流、便秘など消化器症状もある。骨格系では、小さな手と先細りの指は特徴。
診断
臨床症状の組み合わせから本症を疑い、TCF4 遺伝子に病的バリアントをヘテロ接合として認める、または、TCF4を含む18q21.2の微細欠失を認めた場合に診断が確定する。
診断の際の留意点/鑑別診断
同様の知的障害、行動異常、身体特徴をきたす先天異常症候群とは鑑別を要する。
治療
対症療法が中心となる。早期からのリハビリテーションや療育の参加は重要。摂食障害や哺乳障害などには経管栄養や摂食指導も考慮する。また、逆流や誤嚥性肺炎などを繰り返す場合には胃ろう造設も考慮する。てんかんに対しては抗てんかん薬を用いる。無呼吸や換気障害では、呼吸モニターを行う。整形外科的、眼科的、歯科などの各領域の合併症に対しての評価、管理を考慮する。
予後
予後は、合併するてんかんなどの神経症状および無呼吸発作や低換気などの呼吸障害、気道感染などによる。
研究班
厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業「先天異常症候群のライフステージ全体の自然歴と合併症の把握:Reverse phenotypingを包含したアプローチ」
成人期以降の注意点
てんかん発作、呼吸障害、気道感染に注意する。
参考文献
- Sweetser DA, Elsharkawi I, Yonker L, Steeves M, Parkin K, Thibert R. Pitt-Hopkins Syndrome. In: Adam MP, Ardinger HH, Pagon RA, et al., eds. GeneReviews®. Seattle (WA): University of Washington, Seattle; August 30, 2012.
- 版
- :第1版
- 更新日
- :2021年11月1日
- 文責
- :日本小児遺伝学会