1. 神経・筋疾患
  2. 大分類: 難治てんかん脳症
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視床下部過誤腫症候群

ししょうかぶかごしゅしょうこうぐん

Hypothalamic hamartoma syndrome

告示

番号:67

疾病名:視床下部過誤腫症候群

疾患概念

先天性の奇形病変である視床下部過誤腫により引き起こされる病態。笑い発作という特異なてんかん発作と、思春期早発症を特徴とする。視床下部過誤腫によるてんかんでは、笑い発作の他にも様々なてんかん発作を高率に合併し、また半数以上に知的発達障害、攻撃性、易刺激性、多動などを特徴とする行動異常を併発し、特徴的な症候群を呈する。

疫学

海外からの報告では、視床下部過誤腫の有病率は5~10万人に1人、てんかんを生じた視床下部過誤腫は20万人に1人と言われており、これらのデータが一般的に使用されている。国内における疫学調査に基づくデータはない。

病因

視床下部過誤腫は、先天性の奇形病変であり、胎生30~40日くらいには発生すると言われている。いくつかの遺伝子異常(Gli3、OFD1など)が指摘されているが、詳細な発生原因は解明されていない。

病理・病態

視床下部過誤腫そのものにてんかん原性があり、付着する視床下部を介しててんかん性放電が伝播することにより、笑い発作を生じる。その他の発作型は、さらに多様な脳の部位に伝播して生じる(二次性てんかん原性)と言われているが、このメカニズムの詳細は不明である。また、知的発達障害、行動異常の発生メカニズムについても、詳細は解明されていない。

思春期早発症については、視床下部過誤腫内の内分泌ホルモンに係わるニューロンからのホルモン分泌が、血行性に下垂体へ伝わることにより生じるとされているが、不明な点も多い。詳細は、他項(内分泌疾患『思春期早発症』)を参照。

臨床症状

てんかんと思春期早発症を主症状とする。てんかんは、笑い発作という、非常に特徴的なてんかん発作を特徴とする。笑い発作のみならず、その他のさまざまな発作型(焦点起始発作、強直発作、強直間代発作など)も高率に併発する。また、様々な程度の知的発達障害、独特な行動異常(暴力性・攻撃性、易刺激性、多動など)も高率に併発する。思春期早発症については、他項(内分泌疾患『思春期早発症』)を参照。

検査所見

頭部MRI:
視床下部に付着する腫瘤性病変。付着側は、片側、両側ともにありうる。造影効果は認めない。内部の信号強度は均一であることがほとんどだが、まれに不均一な信号を呈することや、内部に嚢胞を伴うこともある。
脳波:
発作時、発作間欠期ともに、てんかん性異常が認められるのは半数にとどまる。認められるてんかん性異常についても、特異的な所見はない。
内分泌ホルモン:
思春期早発症に関することは、他項(内分泌疾患『思春期早発症』)を参照。

診断

特徴的な笑い発作があり、画像所見(特にMRI)により視床下部過誤腫が確認できれば診断可能である。

診断の際の留意点/鑑別診断

  1. 笑い発作の診断において、画像所見が明らかであれば、脳波所見(脳波異常)は必須ではない。
  2. 笑い発作はその他のてんかん(前頭葉てんかん、側頭葉てんかん、頭頂葉てんかんなど)でも生じうるため、本症と鑑別するためには、視床下部の詳細な画像検索が重要である。
  3. 視床下部過誤腫が認められ、笑い発作がない場合、視床下部過誤腫以外にてんかん原性となる病変、てんかん症候群がないかどうかの鑑別が必要となり、その他の原因が除外されれば、本症に該当して良い。ただし、確定診断のためには、発作時SPECTや頭蓋内電極(深部電極を含む)精査等により視床下部過誤腫が原因であると確認することが望ましい。
  4. 視床下部近傍に発生するその他の腫瘍性病変(神経膠腫、頭蓋内咽頭腫)も鑑別診断の対象となりうるが、これらの病変では笑い発作を生じることはなく、鑑別のための造影MRIの必要度は高くない。

合併症

ある種の遺伝子症候群(Pallister-Hall症候群、口・顔・指症候群など)では、多指症、顔面形成異常、泌尿生殖器異常など、様々な身体奇形を合併しうる。

治療

てんかんの治療は、基本的に抗てんかん薬による発作抑制であるが、視床下部過誤腫による笑い発作は、極めて薬剤抵抗性であり、薬物治療の効果はほとんど期待できない。発作頻度が高頻度である場合や笑い発作以外の発作型を有する場合、発作の頻度や程度の緩和は、ある程度得られる事がある。

てんかん発作(特に笑い発作)の根治には、視床下部過誤腫そのものに対する外科的治療を要する。本邦では、定位的焼灼術(定位温熱凝固術)の優れた治療効果、安全性が報告されている。

予後

笑い発作は、外科治療により高率に消失できる。笑い発作以外の発作については、時期が遅れれば、外科治療によって改善できなくなる可能性が高くなる。知的発達障害は、重度が高いほど外科治療による改善に乏しく、生涯にわたり永続する。行動異常は、外科治療により発作抑制効果が高い場合、改善する見込みがある。

研究班

平成26~28年度厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)「希少難治性てんかんのレジストリ構築による総合的研究」
平成29~31年度厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)「稀少てんかんに関する調査研究」
令和2~4年度厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)「稀少てんかんに関する包括的研究」

成人期以降の注意点

その他の発作型、知的障害が残存した場合、成人期以降に改善する見込みはほとんどなく、長期にわたる治療、介護・療育が必要となる。

参考文献

  1. 日本てんかん学会(編)「稀少てんかんの診断指標」(2017年),診断と治療社.P135-138.
  2. 日本てんかん学会(編)「てんかん専門医ガイドブック」改訂第2版(2020年),診断と治療社.P308-309.
  3. Kerrigan J. Hypothalamic Hamartoma, Ed by Elaine Wyllie, WYLLIE’S TREATMTNT OF EPILEPSY PRINCIPLES AND PRACTICE SIXTH EDITION, pp931-942. Wolters Kluwer, 2015.
:第1版
更新日
:2021年11月1日
文責
:日本小児神経学会