疾患概念
疫学
病因
臨床症状
- ① 鰓原性奇形
- 鰓原性奇形のうち鰓溝性瘻孔は胸鎖乳突筋の前方で、通常は頸部の下方1/3の部位の微小な開口である。鰓溝性嚢胞は胸鎖乳突筋の奥で、通常は舌骨の上方に触知する腫瘤である。本邦のBOR症候群の調査研究におけるこれらの合併頻度は50%程度であった。その他の鰓原性奇形としては耳前瘻孔(53%)、耳介奇形(38%)、副耳(12%)、外耳道閉鎖(12%)、中耳奇形(耳小骨変形・位置異常・固着)、内耳奇形(蝸牛低形成・前庭水管拡大症・外側半規管低形成)がみられる。
- ② 難聴
- 難聴は90%以上の患者で認められ、小児高度難聴の約2%を占めるとされる。難聴の程度は軽度から高度まで様々である。内耳、中耳、外耳奇形がみられることがあり、難聴の種類も伝音性、感音性、混合性のいずれもあり得る。本邦での調査研究では両側性が約70%、片側性が約26%であり、また伝音性が約19%、感音性約30%、混合性が約40%程度であった。BOR症候群の難聴はほとんどが先天性で非進行性だが、進行性の場合もある。
- ③ 腎尿路奇形(CAKUT)
- 本邦の調査研究におけるCAKUTの合併頻度は40%であり、中でも低形成腎を最も高頻度で認めた(29%)。その他水腎症(14%)や無形成腎(9%)、多嚢胞性異形成腎、水尿管症、尿道狭窄、膀胱尿管逆流症なども見られた。また一部の患者においては左右で異なるCAKUTを有していた。30%弱の患者が末期腎不全に至り腎移植をうけていた。
- ④ その他の症状
- 本邦の調査研究では下顎後退、顔面神経麻痺、口蓋裂、先天性心疾患、鎖肛、虹彩萎縮、涙管無形成、甲状腺腫(甲状腺機能正常)などの合併も認めた(いずれも1~3%程度)。知的障害や精神運動発達遅滞の合併頻度は典型的なBOR症候群患者では多くはない。知的障害や精神運動発達遅滞を合併している場合は他の疾患や、EYA1を含む領域の染色体微細欠失による隣接遺伝子の異常による症候群の存在を示唆している可能性がある。
診断
表1. 指定難病におけるBOR症候群の診断基準
- ①
- 第2鰓弓奇形鰓溝性瘻孔あるいは鰓溝性嚢胞
- ②
- 難聴
- ③
- 耳小窩、耳介奇形、外耳、中耳、内耳の奇形(参考所見参照)、副耳のうち1つ以上
- ④
- 腎奇形
- 外耳道奇形:
- 外耳道閉鎖、狭窄
- 中耳奇形:
- 耳小骨奇形、変位、脱臼、固着。中耳腔の狭小化、奇形
- 内耳奇形:
- 蝸牛低形成、蝸牛小管拡大、前庭水管拡大、外側半規管低形成
- (1)
- 家族歴のない患者では、主症状を3つ以上、または、主症状を2つ以上でかつ遺伝子診断されたもの
- (2)
- 一親等に家族歴のある患者では、主症状を1つ以上でかつ遺伝子診断されたもの
診断の際の留意点/鑑別診断
BOR症候群と同様に鰓原性奇形、難聴をきたす疾患は多く、そのすべてが鑑別疾患となる。BOR症候群では原則3主徴以外の重篤な症状は認めないため、知的障害、運動発達遅滞や先天性心奇形を認める場合などは他疾患も考慮すべきである。
BOR症候群の類縁疾患として代表的なものの一つにTownes-Brocks症候群がある。Townes-Brocks症候群は鰓原性奇形と難聴、CAKUTの他に鎖肛、先天性奇形、母指の異常を認める症候群である。SALL1 遺伝子変異によって発症するが、Engelsらは鎖肛や母指の異常を伴わないSALL1 遺伝子変異によるBOR症候群を報告しており、EYA1 や SIX1 遺伝子変異が見られないBOR症候群においては、SALL1 遺伝子変異の検索も考慮すべきである。
Branchio-oculo-facial症候群(BOFS)は、TFAP2A 遺伝子変異による、まれな常染色体優性遺伝性疾患であるが、BOR症候群と表現型がオーバーラップする一方で、より独特な顔面的特徴を示す。BOFSでは鰓原性奇形や難聴、腎の異常の他に頭蓋・顔面や眼球異常を有する他、知的障害の合併の頻度がBOR症候群よりも高い。その他、Oto-facio-cervical症候群やCHARGE症候群、HDR症候群なども鑑別疾患に上がる。
聴覚障害(難聴)は多くの遺伝性疾患で認められる症状であり、聴覚障害のみに基づいて確定診断に至る事は非常に困難であると考えられる。そのためBOR症候群と他の疾患を鑑別するためには詳細な診察と家族歴の聴取が不可欠である。また、遺伝子学的検査が確定診断に非常に有用である。
治療
BOR症候群に対する治療は対症療法が中心となる。多くのBOR症候群患者は難聴と腎尿路奇形に対する管理が適切に行われれば良好な社会生活を送る事が可能であり、小児科医、小児外科医、耳鼻咽喉科医、臨床遺伝専門医の適切な連携が重要である。
- ① 鰓原性奇形と耳前瘻孔
- 鰓原性奇形に対しては、耳前瘻孔、頸瘻孔などが感染した場合にはまず抗菌薬による治療が行われるが、再発を繰り返す場合には外科的切除が行われる。耳介奇形や副耳に対しては審美的な理由により形成外科手術が考慮される。
- ② 難聴
- BOR症候群における聴力障害の多くは先天性であり新生児聴覚スクリーニング検査により発見される場合が多い。聴力障害に対しては言語発達への影響を考慮し、できるだけ早期の医療的介入がのぞましい。BOR症候群に伴う難聴は伝音性、感音性、混合性のいずれの場合もあり、また難聴の程度も軽度から重度まで様々である。伝音難聴に対しては、鼓室形成術などの外科手術が行われるが、複数回手術を行っても十分な聴力の改善が得られないことも多い。こうした患者に対しては、骨導補聴器、人工中耳、骨固定型骨導補聴システムによる治療が行われる。また、感音難聴や混合性難聴に対しては難聴の程度に応じて補聴器・人工内耳による治療が行われる。一般的に人工内耳の効果は良好であり有効な治療法であるが、内耳奇形がある場合には効果が限定的となる場合がある。
- ③ 腎尿路奇形(CAKUT)
- CAKUTに対しても対処療法が基本となる。腎盂尿管移行部狭窄などによる水腎症や膀胱尿管逆流症に対しては外科的手術が必要になる場合がある。腎機能は個人差があり正常な場合もあれば、特に腎の低形成や異形成を伴う場合には末期腎不全に進展して腎代替療法が必要になる事もある。BOR症候群の予後はCAKUTに依存すると考えられており、腎症状の早期の発見と治療介入がのぞまれる。難聴や耳介奇形・頸瘻孔などによりBOR症候群が疑われる場合にはCAKUTの可能性を考え超音波検査を含む精査を行う必要がある。
予後
成人期以降の注意点
参考文献
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- Ideura M, Nishio SY, et al. Comprehensive analysis of syndromic hearing loss patients in Japan. Sci Rep. 9: 11976, 2019
- 版
- :第1版
- 更新日
- :2021年11月1日
- 文責
- :日本小児腎臓病学会