1. 染色体又は遺伝子に変化を伴う症候群
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MECP2重複症候群

えむいーしーぴーつーちょうふくしょうこうぐん

MECP2 duplication syndrome

告示

番号:10

疾病名:MECP2重複症候群

概念・定義

乳児期早期からの筋緊張低下、重度の精神運動発達遅滞、進行性痙性障害、反復性感染症(呼吸器や尿路など)および難治性てんかんを特徴とする疾患である。現在、有効な治療法がないため、対症療法と療育に頼らざるを得ない。てんかんの合併が神経学的予後に影響を及ぼし、抗てんかん薬治療が行われるが、難治に経過する。乳児期から起こる呼吸器感染症をはじめとしたさまざまな感染症は日常生活を著しく制限する。これら感染症や消化器症状に対する対症療法などが行われる。繰り返す感染症が生命予後に関連する。

病因

病因は、X染色体上にあるMECP2遺伝子の重複による。X染色体上のタンデムな重複と常染色体の挿入、転座によるMECP2遺伝子領域の重複が報告されている。MECP2遺伝子の重複による発症機序はまだ解明されていない。

疫学

2017年度日本医療研究開発機構難治性疾患実用化研究事業「レット症候群とMECP2 重複症候群の診療支援のための臨床研究」における全国疫学調査の結果、当該疾患の本邦の患者数は約50例である。
海外の報告では、出生10万人対0.65人(出生男児10万人対1人)の報告がある(J Paediatr Child Health. 2019 Feb 12. doi: 10.1111/jpc.14399.)

臨床症状

本疾患は、最重度知的障害、筋緊張低下、運動発達遅滞、進行性の下肢優位の痙性麻痺、頻回の呼吸器感染、便秘・嘔吐、難治てんかんが主な症状であり、本人・家族の生活の質に大きな影響を及ぼす。以下の症状を高頻度に認める。

症状

  1. 重度の知的障害。
  2. 乳児期からの筋緊張低下。
  3. 繰り返す感染症(特に、呼吸器感染症および尿路感染症を反復する)。
  4. 幼児期以降の難治性てんかん。
  5. 消化器症状(重度の便秘、嘔吐、胃食道逆流)。
  6. 特徴的な顔貌(落ちくぼんだ目、眼間開離、広い鼻梁、小さな口、テント状の口、大きな耳)と身体(細長い指と細長い爪)。

副症状

  1. 男児(男性)。
  2. アデノイド肥大。
  3. 手・腕の常同運動。
  4. 進行性の痙性麻痺。

検査所見


  1. 遺伝子診断:Xq28にあるMECP2遺伝子の数的異常の証明のため、定量PCR、MLPA、アレイCGH、FISHを組み合わせた検査が必要である。
  2. 参考所見として、以下の検査所見を認めることがある。
    血液・生化学的検査所見:低IgA血症、低IgG2血症

診断の際の留意点

MECP2重複症候群の確定には、MECP2遺伝子の重複を確認することが必要である。

治療

根治療法はなく、対症療法による。
感染症に対する治療は、長期化し入退院を繰り返すことが多い。呼吸器感染症を繰り返すことによる呼吸障害は、気管切開や酸素療法を必要とする。
難治性てんかんに対して、複数の抗てんかん薬や外科的治療を行っても、完全なてんかん発作抑制は困難なことが多い。

合併症

進行する痙性麻痺に対する整形外科的選択的痙性コントロール手術、消化管症状のための胃瘻造設術や噴門形成術、頻回で重症化する呼吸器感染症や進行する誤嚥性肺炎に対応するための気管切開術や喉頭気管離断術など、病状に応じた外科的治療を必要とすることがある。

予後

生命予後は感染症による。特に、繰り返す呼吸器感染症は呼吸管理を要する。このため、25歳までに半数が死亡するという報告がある。早期からの呼吸管理と栄養管理は生命予後を改善するが、難治性てんかんと重度知的障害と筋緊張および運動障害のため日常生活動作の制限が余儀なくされる。
てんかんは約50%に出現し、難治に経過する。難治性てんかんは認知や知能、運動機能に影響し、退行することがある。

成人期以降の注意点


  1. 繰り返す感染症:生命予後に関わるため、気管切開や酸素療法などの呼吸管理を要する。
  2. 難治性てんかん:成人期においても薬物療法を中心に継続した治療が必要である。
  3. 筋緊張と運動障害:ジストニアや痙性障害のため移動運動に制約が生じる。そのため、長期にわたる介護を必要とする。
  4. 栄養障害:便秘等の消化器症状に加えて、経口摂取が困難になるため、非経口摂取のための処置と看護が必要である。

参考文献


  1. Giudice-Nairn P, et al. The incidence, prevalence and clinical features of MECP2 duplication syndrome in Australian children. J Paediatr Child Health 2019 Feb 12. doi: 10.1111/jpc.14399.
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:バージョン1.0
更新日
:2019年7月1日
文責
:日本小児遺伝学会