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非特異性多発性小腸潰瘍症

ひとくいせいたはつせいしょうちょうかいようしょう

Chronic nonspecific multiple ulcers of the small intestine; Chronic enteropathy associated with SLCO2A1(CEAS)

告示

番号:33

疾病名:非特異性多発性小腸潰瘍症

概念・定義

非特異性多発性小腸潰瘍症は、小児期から発症しうる原因不明の小腸潰瘍症である。常染色体劣性遺伝の形式で発症する症例が存在することから、遺伝性疾患である可能性が示唆される。
本症では、非特異的な組織像を呈する浅い潰瘍が終末回腸以外の回腸に多発する。小腸病変の肉眼所見は極めて特徴的であり、輪走ないし斜走する帯状の潰瘍が枝分かれ、あるいは融合しながら多発する。
臨床像としては、慢性の鉄欠乏性貧血と低蛋白血症を主徴とし、炎症所見はないか軽微にとどまる。しかし。難治性・再発性の経過をたどり、内科的治療としては対症療法しかなく、重症例では入院、絶食、完全静脈栄養が必要となる。腸管狭窄に対し手術が必要になることもあり複数回の小腸切除により、短腸症をきたしうる。小児例では、栄養障害などで成長発達にも悪影響をきたし、食事制限、入院治療などで、日常生活、学校生活、社会生活も障害され、患児のQOLは著しく障害される。

病因

原因は不明であったが、血族結婚例と家族性発症例があり遺伝子疾患が疑われていた。近年のWhole exome analysisによって、プロスタグランジン輸送タンパクのひとつであるSLCO2A1遺伝子の変異による機能喪失による常染色体劣性遺伝病であることが示唆されている。

疫学

国内65例をまとめた報告(J Gastroenterol. 2018;53:907-915)では、発症は1-69歳で(中央値は16.5歳)であった。全患者数は約400人のように推計されており、約半数以上は0-19歳の発症と思われる。

臨床症状

小児期から十二指腸・小腸の難治性潰瘍を形成するため、主に、鉄欠乏性貧血、腹痛、低蛋白血症による手足のむくみで発症する。難治性・再発性の経過をたどり、内科的治療としては対症療法しかなく、腸管狭窄が進行すると腸閉塞症状を発する。小児例では、栄養障害などで成長発達にも悪影響をきたす。
指定難病での基準では、腸管狭窄による腸閉塞症状を呈する例は重症とされる。

検査所見

貧血、低アルブミン血症、便潜血陽性が認められる。
炎症所見の上昇は通常認められない。

指定難病での基準では、ヘモグロビン10.0g/dL以下の貧血、あるいはアルブミン3.0g/dL以下の低アルブミン血症を呈する例は重症とされる。

診断の際の留意点

主要所見


  1. 臨床的事項

    1. 複数回の便潜血陽性
    2. 長期にわたる小球性低色素性貧血と低蛋白血症
  2. X線・内視鏡所見

    1. 近接、多発する非対称性狭窄、変形(X線所見)
    2. 近接多発し、境界鮮鋭で浅く斜走、横走する地図状、テープ状潰瘍(内視鏡所見)
  3. 切除標本上の特徴的所見

    1. 回腸に近接多発する境界鮮鋭で平坦な潰瘍又はその瘢痕。
    2. 潰瘍は地図状ないしテープ状で、横走、斜走する。
    3. 全てUL-Ⅱまでにとどまる非特異性潰瘍。

鑑別疾患


  1. 腸結核(疑診例を含む)
  2. クローン病
  3. 腸管ベーチェット病/単純性潰瘍
  4. 薬剤性腸炎

診断のカテゴリー>

確実例:

  1. 主要所見のA2項目に加え、Bの1あるいは2又はCが認められるもの。
  2. 十分に検索された標本上Cの1~3全てを満足するもの。
疑い例:主要所見Aが認められるが、B又はCの所見が明確でないもの。
注)確実例、疑い例、いずれも鑑別疾患の除外が必須である。

指定難病での重症例:

  • ヘモグロビン10.0g/dL以下の貧血、あるいはアルブミン値3.0g/dL以下の低アルブミン血症
  • 合併症として、腸管狭窄による腸閉塞症状を呈する場合

治療

根治療法はなく、鉄剤投与などの対処療法と栄養状態改善のための経腸栄養療法のみである。十二指腸潰瘍がみられる症例に対しては、抗潰瘍薬、粘膜保護剤などが使用される。腸管狭窄による症状がある場合は、外科手術も行われる。

合併症

成長障害、腸閉塞、短腸症
SLCO2A1は太鼓ばち状指、長管骨の骨膜性肥厚、脳回転状頭皮を含む皮膚肥厚症を3主徴とする指定難病の肥厚性皮膚骨膜症の原因遺伝子としても注目されており、腸管外病変として肥厚性皮膚骨膜症の症状を合併する患者も存在する。

予後

慢性に続く貧血・低蛋白血症のため著しいQOLの低下、低栄養に伴う易感染性のリスクがある。また、腸管切除例では小腸機能不全症に至るリスクがある。従って、重症例となると生命の危険性は生涯にわたる。

成人期以降の注意点

国内65例をまとめた報告(J Gastroenterol. 2018;53:907-915)では、貧血は鉄剤投与で改善するものの、慢性腹痛は39%の患者に継続し、63%の症例は外科治療を必要とするが、根治術とはならず、生涯にわたりQOLを低下させる。

参考文献


  1. Hosoe N, Ohmiya N, Hirai F, Umeno J, Esaki M, Yamagami H, Onodera K, Bamba S, Imaeda H, Yanai S, Hisamatsu T, Ogata H, Matsumoto T; CEAS Atlas Group. Chronic Enteropathy Associated With SLCO2A1 Gene [CEAS]-Characterisation of an Enteric Disorder to be Considered in the Differential Diagnosis of Crohn's Disease. J Crohns Colitis. 2017;11:1277-1281.
  2. Umeno J, Esaki M, Hirano A, Fuyuno Y, Ohmiya N, Yasukawa S, Hirai F, Kochi S, Kurahara K, Yanai S, Uchida K, Hosomi S, Watanabe K, Hosoe N, Ogata H, Hisamatsu T, Nagayama M, Yamamoto H, Abukawa D, Kakuta F, Onodera K, Matsui T, Hibi T, Yao T, Kitazono T, Matsumoto T; CEAS study group. Clinical features of chronic enteropathy associated with SLCO2A1 gene: a new entity clinically distinct from Crohn's disease. J Gastroenterol. 2018;53:907-915.
  3. Umeno J, Hisamatsu T, Esaki M, Hirano A, Kubokura N, Asano K, Kochi S, Yanai S, Fuyuno Y, Shimamura K, Hosoe N, Ogata H, Watanabe T, Aoyagi K, Ooi H, Watanabe K, Yasukawa S, Hirai F, Matsui T, Iida M, Yao T, Hibi T, Kosaki K, Kanai T, Kitazono T, Matsumoto T. A Hereditary Enteropathy Caused by Mutations in the SLCO2A1 Gene, Encoding a Prostaglandin Transporter. PLoS Genet. 2015;11:e1005581.
  4. Uchida K, Nakajima A, Ushijima K, Ida S, Seki Y, Kakuta F, Abukawa D, Tsukahara H, Maisawa SI, Inoue M, Araki T, Umeno J, Matsumoto T, Taguchi T. Pediatric-onset Chronic Nonspecific Multiple Ulcers of Small Intestine: A Nationwide Survey and Genetic Study in Japan. J Pediatr Gastroenterol Nutr. 2017;64:565-568.
:バージョン1.0
更新日
:2019年7月1日
文責
:日本小児外科学会