1. 脈管系疾患
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巨大動静脈奇形

きょだいどうじょうみゃくきけい

Gigantic arteriovenous malformation

告示

番号:5

疾病名:巨大動静脈奇形

概念・定義

静脈奇形は、胎生期の脈管形成過程の異常の一つである。 病変内に動静脈短絡(シャント)を有し、拡張・蛇行した異常血管の増生を伴う。近年国際的に普及しつつあるISSVA分類では、高流速型の脈管奇形に位置付けられている。動静脈奇形において流入動脈と流出静脈の異常吻合部が複雑に網状に絡む様子は、しばしばナイダス(nidus, 「巣」の意)と表現される。先天性と考えられているが、乳幼児期にはほぼ無症候で、学童期以降に気付かれることも少なくない。頭頸部、四肢、体幹部など全身どの部位にも発生しうるが、病変の局在は、一ヶ所に限局するもの、広範囲にびまん性に分布するもの、複数の部位に多発するものなど様々である。小児において巨大とする目安は、本人の手掌大以上の広がりを示すものである。動静脈奇形は成長とともに増大、増悪する傾向があり、病変の進行につれて、疼痛、潰瘍、感染、機能障害など症状だけでなく、大量出血やシャント量増加による心不全など生命の危機を及ぼし得る。積極的治療は、外科手術(切除、再建、切断)や血管内治療(血管塞栓術、硬化療法)などがあるが、巨大動静脈奇形はしばしば根治困難で、生涯にわたる医学的管理を必要とする。

病因

脈管形成・成熟過程の遺伝子や情報伝達経路の異常が考えられているが、機序の解明にはいたっていない。

疫学

基本的に孤発性であるが、稀に家族性の動静脈奇形の報告がある。発生頻度の詳細は不明であるが、男女比はほぼ同等と考えられている。平成24-25年度厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等克服研究事業(難治性疾患克服研究事業)「難治性血管腫・血管奇形についての調査研究班 患者実態調査および治療法の研究」による全国調査では、巨大動静脈奇形は約700名と推測されている。

臨床症状

動静脈奇形の発生部位は様々である。頭頸部・体幹部・四肢など全身のあらゆる部位に発生し得る。病変の大きさも、限局性病変から広範囲に浸潤するびまん性病変まで様々で、稀に多発する場合もある。年齢とともに進行・増大する傾向があり、Schöbinger分類の第I期(静止期)では、紅斑や皮膚温上昇を認め、腫脹や拍動はあまり目立たたず、臨床的に毛細血管奇形との鑑別が困難な場合がある。第II期(拡張期)では、次第に病変の腫脹・増大、血管の拡張や蛇行が見られ、拍動やスリルを触知し、血管雑音を聴取するようになる。一般に動静脈奇形と明確に診断され、治療を要するのはこの病期以降である。第III期(破壊期)では、持続性疼痛、皮膚潰瘍、出血、感染、壊死など病状の悪化を認める。さらに、第IV期(代償不全期)では、シャント量の増大による高拍出性心不全を呈する。病変の増悪因子として、思春期や妊娠、出産などによるホルモン変化、外傷などの物理的要因が挙げられる。

検査所見

血液検査所見は一般に正常であるが、巨大動静脈奇形では、静脈奇形同様、フィブリノーゲンや血小板数の低下、D-ダイマー、FDPの上昇など凝固線溶系異常を示すことがある。さらに、高拍出性心不全を合併すればBNPの異常高値も見られることがある。

診断の際の留意点

動脈血流が豊富な動静脈奇形では、乳児血管腫に代表される血管性腫瘍や、多血性軟部腫瘍との鑑別が重要である。その他、明らかな後天性病変である動脈瘤や静脈瘤、外傷性・医原性動静脈瘻なども区別が必要である。

治療

 保存療法として、弾性ストッキングや包帯・サポーターなどを用いた圧迫療法はシャント量増加や病変進行を抑制する可能性がある。疼痛や感染などの症状には、鎮痛剤や抗菌薬による一般的な対症療法が行われる。
 積極的治療には、外科手術(切除、再建、切断)や血管内治療(血管塞栓術、硬化療法)がある。巨大動静脈奇形は、病変が広範囲で深部組織に浸潤することが多く、外科手術は大量出血や神経損傷による機能障害を残す恐れがある。制御困難な重症感染症、大量出血や心不全の救済手段として、四肢では患肢切断術を余儀なくされることがある。血管内治療は、カテーテルや経皮穿刺によりナイダスに塞栓物質や硬化剤を注入しシャント閉塞を図るものである。但し、血管塞栓術の治療手技は保険診療が認められている(K615 血管塞栓術 頭部、胸腔、腹腔内血管等)。ただし、動静脈奇形の治療にしばしば必要な液状塞栓物質(無水エタノール、n-butyl cyanoacrylate, NBCA, Onyxなど)や硬化剤(ポリドカノール、エタノラミンオレイン酸など)は、現時点では適応外使用となる。
 いずれの治療も無効な重症・難治例には、海外においてmTOR阻害薬を含む血管新生阻害薬の効果に関心が持たれているが、現時点では確立されていない。

合併症

進行例では、難治性潰瘍、感染、大量出血や高拍出性心不全を合併する。

予後

病変の進行・増大の速度は個人差が大きく予測が困難である。大量出血や心不全の増悪は生命に危機を及ぼし得るが、長期的な予後や、本疾患による死亡率は不明である。

成人期以降の注意点

動静脈奇形は、成長とともに病変は増大し、経年的に病変が増大あるいは症状が進行する傾向がある。特に成長ホルモンの影響が大きい思春期に病状が悪化しやすいため、十代後半から成人への移行期、あるいは成人以降に医療的管理や治療介入が必要となることも多い。女性における妊娠・出産や外傷を契機に病変が増悪することもあり、注意を要する。巨大動静脈奇形では根治的治療が行えるケースは少なく、治療後の再発や再増大も多いため、成人以降も、症状の進行、病変の拡大や再発、及び心機能の評価を継続的にモニタリングする必要がある。

参考文献


  • 血管腫・血管奇形・リンパ管奇形診療ガイドライン2017. 平成26-28年度厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業「難治性血管腫・血管奇形・リンパ管腫・リンパ管腫症及び関連疾患についての調査研究」班
  • 難病情報センター.巨大動静脈奇形(頸部顔面または四肢病変) 概要・診断基準等
  • Kohout MP, et al. Arteriovenous malformations of the head and neck: natural history and management. Plast. Reconstr. Surg. 1998;102:643-654.
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  • Colletti G, et al. Adjuvant role of anti-angiogenic drugs in the management of head and neck arteriovenous malformations. Med Hypotheses. 2015;85:298-302.
:バージョン1.0
更新日
:2018年1月31日