1. 脈管系疾患
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巨大静脈奇形

きょだいじょうみゃくきけい

Gigantic venous malformation

告示

番号:4

疾病名:巨大静脈奇形

概念・定義

巨大静脈奇形は、頭頚部、四肢、体幹などの全領域に発症する巨大腫瘤性の静脈形成異常である。静脈奇形は胎生期における脈管形成の異常であり、静脈類似の血管腔が増生する低流速の血液貯留性病変である。先天異常の一種と考えられるが、学童期や成人後の後天的な発症も少なくない。従来「海綿状血管腫」「筋肉内血管腫」「静脈性血管腫」等と呼ばれてきたが、血管腫・脈管奇形の国際学会であるISSVA(International Society for the Study of Vascular Anomalies)が提唱するISSVA分類では、「静脈奇形」とされている。単一組織内で辺縁明瞭に限局するものから、辺縁不明瞭で複数臓器にびまん性に分布するものまで様々な病変があるが、巨大静脈奇形は難治で多種の障害をひきおこす。病状は加齢、妊娠、外傷などの要因により進行し、巨大なものでは血液凝固異常や心不全に至る。 静脈奇形の治療法としては主に外科的切除と硬化療法が選択されるが、巨大静脈奇形では完全切除は重要機能の喪失につながりうるため困難で、部分切除は致死的大量出血につながり、硬化療法は治療効果が限定的かつ一時的で悪化につながる場合もある。巨大静脈奇形は、高度難治性に進行し、大量出血や心不全による致死的な病態もあるため、対症療法も含めて生涯にわたる長期療養を必要とする。

病因

静脈奇形は先天性病変であり、胎生期における脈管形成の異常とされている。発生原因は不明である。散発性が殆どだが、病変部血管にTie2 受容体の変異が指摘されており、遺伝性を認める家族皮膚粘膜静脈奇形やグロムス静脈奇形には、TIE2 遺伝子やGlomulin 遺伝子の異常が同定されている。

疫学

静脈奇形発症率の男女比は1:1~2である。その殆どが孤発性又は散発性で9割以上をしめるが、家族性が見られる遺伝性のものや症候群を呈するものも1%程度存在するとされる。海外の文献では静脈奇形は1/5,000-10,000の発症率と推定されている。本邦における静脈奇形の患者数は2万人程度と推定され、そのうち巨大静脈奇形は3000人程度と推測される。

臨床症状

静脈奇形の主な症状は疼痛、腫脹、機能障害などである。先天性病変であることから発症は出生時から認めることが多いが、乳児期では奇形血管の拡張度が少なく、小児期での症状初発も稀ではない。女性では月経や妊娠により症状増悪を見る。自然消退はなく、男女とも成長や外的刺激などに伴って症状が進行・悪化する。巨大静脈奇形では、進行に伴い症状が増悪し、感染、血液凝固異常、出血、心不全をきたせば致死的となりうる。頭頚部病変では、気道狭窄、呼吸困難、閉塞性睡眠時無呼吸、摂食・嚥下困難、顎骨の変形・吸収・破壊、骨格性咬合不全、構音機能障害などを来す。皮膚や粘膜に病変が及ぶ場合は軽度の刺激で出血・感染を繰り返す。四肢、頭頚部巨大病変では、腫瘤形成・変色・変形が四肢、頭頚部の広範囲にわたることにより高度の醜状を呈し、就学・就職・結婚など社会生活への適応を生涯にわたり制限される。

検査所見

血液検査所見では凝固線溶系産物であるD-Dimer の上昇をしばしば認める。病変体積の大きい症例や複数の静脈石を有する例では、特にその傾向が強いとされるが、一肢全体に及ぶ様な巨大静脈奇形では全身性の血液凝固障害を伴いD-Dimer の上昇に加え、フィブリノーゲンや血小板数の低下、FDP の上昇などを示すことがある。これは慢性的な血液貯留による病変内での凝固因子大量消費によって生じる凝固異常によるもので,localized intravascular coagulopathy(LIC)と呼ばれ、カポジ肉腫様血管内皮腫や房状血管腫に合併するカサバッハ・メリット現象とは区別する必要がある。 静脈奇形の診断で主に重要となるのは超音波検査とMRIであり、超音波では病変内の血流や内腔の大きさといった性状を簡便に確認できるのに対し、MRIでは病変全体の形態や拡がりを確認するのに優れている。 超音波検査の画像所見は、蜂巣状から多嚢胞状の低エコー領域を示し、エコープローブの圧迫により貯留する血液の動きを観察できることが多い。また、容易に虚脱することも特徴的だが、静脈石を内部に伴う場合には、音響反射を伴う高エコー構造を伴い、診断とともに治療方針の決定にも有用な所見となる。 MRIでは、T1強調像では等~低信号、T2強調像では高信号となる。脂肪組織もT2強調像高信号になるため、皮下脂肪内病変では脂肪抑制法を併用すると病変部の拡がりが確認しやすくなる。造影T1強調像ではゆっくりと全体的に濃染されることが多く、リンパ管腫との鑑別に有用である。 単純X線撮影では、血管病変自体の診断は難しいが、静脈石の確認が診断確定に有用であったり、骨変形などの骨病変の有無の確認が可能である。CT検査も骨病変が疑われる場合には有用となる。全体像の把握に造影CTが有用な場合もある。多発病変を疑う場合は全身RI 血液プールシンチグラフィーにてスクリーニングを行うことも可能である。

診断の際の留意点

直接穿刺にて静脈血の吸引、造影にて分葉状あるいは静脈瘤状の集族した静脈類似の血管腔の描出があれば確実である。直接穿刺の所見がなくても典型的な身体所見、超音波検査、MRI検査、静脈造影、造影CT検査所見があれば診断可能である。ただし、身体所見、画像検査では典型像を呈さない静脈奇形も多く、腫瘍との鑑別が必要である場合は生検を行う事もある。

治療

巨大静脈奇形一般の保存的治療として、血栓・静脈石予防としてアスピリンなどの投与が行われることがある(保険適用)。四肢病変に対しては、血管拡張抑制のために弾性ストッキングなどを用いた圧迫療法がある(保険適用外)。弾性ストッキングは巨大病変において主たる治療となることが多く保険適用が望まれる。血液凝固異常に対しては抗腫瘍剤投与や放射線照射(共に保険適用外)は無効とされ、低分子ヘパリンなどの投与が行われる(播種性血管内凝固症候群[DIC])として保険適用)。日常的な疼痛や感染などの症状には、鎮痛剤・抗菌薬などによる一般的な対症療法が行なわれる(保険適用)。 侵襲的治療の主なものは硬化療法(保険適用外)と切除手術(保険適用)である。静脈奇形の硬化療法は多くの文献で有効性が認められており、第一選択となる治療であるが、硬化剤が保険適用でないために保険診療が認められていない。欧米でも公的保険の適用外であるが、米国では塞栓術として一般的な医療保険の範囲内で施行されている。ただし、巨大病変の硬化療法は多数回の治療を要し、全体を治療することは困難である。巨大病変の完全切除は顔面・頚部・口腔・咽頭・四肢・体幹の重要機能の喪失につながりうるため困難で、部分切除は術中止血困難でかつ慢性的血液凝固障害が播種性血管内凝固症候群(DIC)に移行するため、術中術後出血ともに致死的となることがある。

合併症

骨・軟部組織の肥大、血液凝固異常(Localized Intravascular Coagulopathy:LIC)、感染症、心不全、閉塞性睡眠時無呼吸など。

予後

巨大静脈奇形は成長と共に病変が増大し、時間経過に伴い成人後も進行する。呼吸・嚥下・摂食・構音・疼痛・醜状などの重大な機能障害が進行し、高度の感染、出血、心不全は致死的となることなどから、社会的自立が困難となる。硬化療法、切除術などのあらゆる治療を単独もしくは複合的に用いても完治は望めず、病状の一時的制御にとどまる。進行性かつ難治性で、生命の危険に晒されうる疾患であり、対症療法も含めて生涯にわたる長期永続的な病状コントロールを必要とする。

成人期以降の注意点

成人期以降の超長期予後についてはデータ集積がなく明らかではない。一般的に述べられていることとして、成人後、静脈奇形は成長期ほどではないが、増大傾向がみられる。女性では妊娠、出産により悪化する傾向にある。成人前に巨大病変となった場合、成人期以降も硬化療法や切除術などの治療法は効果が低く、上記症状により、長期にわたりQOLを損なう。

参考文献

  • 血管腫・血管奇形・リンパ管奇形診療ガイドライン2017. 平成26-28年度厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業「難治性血管腫・血管奇形・リンパ管腫・リンパ管腫症及び関連疾患についての調査研究」班 http://www.marianna-u.ac.jp/va/guidline.html
  • Vikkula M, Boon LM, Mulliken JB. Molecular genetics of vascular malformations. Matrix Biol. 2001;20:327-35.
:バージョン1.0
更新日
:2018年1月31日