1. 骨系統疾患
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胸郭不全症候群

きょうかくふぜんしょうこうぐん

Thoracic insufficiency syndrome

告示

番号:1

疾病名:胸郭不全症候群

概念・定義

胸郭不全症候群(Thoracic insufficiency syndrome)は、小児の未成熟な時期に何らかの原因により胸郭(横隔膜、脊柱を含む)の成長障害とそれに伴って生じる形態異常により正常な肺の成長が妨げられ、呼吸機能に障害を引き起こした疾患群の総称である。本症候群の特徴は、診断時全く呼吸機能障害がなくてもそれ以後の成長障害により呼吸機能障害が生じることが予想できる病態には障害発生以前でも診断をつけることができる点である。この点が全く他の疾患群とは異なる点であり、その理由として脊柱・胸郭の変形や成長障害は一旦高度に悪化すると、例え手術をしても機能障害が改善することがほとんど不可能になるからである。本症候群は、未成熟な時期に胸郭を形成する肋骨、脊柱の骨性要素と胸郭機能に関与する横隔膜、肋間筋、体幹筋(起立筋)、そしてそれをコントロールする神経機能のどこに障害が生じても生じる可能性がある。

病因

本症候群はその原因疾患により一次性、二次性、医原性の3つに分類されている(Campbell, 2003)。

1) 一次性は胸郭に先天的な形態異常が生じている病態で、先天性肋骨癒合や欠損、先天性椎骨発生異常による胸郭の長軸方向の成長障害、原因不明の肋骨側方成長障害が含まれる。Jarcho-Levin症候群、Jeune症候群などが代表的な疾患である。

2) 二次性は早期発症の脊柱変形により胸郭が二次的に変形する疾患である。脊柱変形としては側弯、後弯、前弯などが含まれ、これらが単独あるいは合併して幼小児期の未成熟な時期に高度に悪化し胸郭変形を引き起こす。従って、脊柱変形が高度に悪化する病態はすべて含まれる。その代表的疾患である早期発症側弯症は先天性/構築性、乳児期特発性、症候群性、神経筋原性の大きく4群にその原因から分類されている。先天性は生下時にすでに椎骨に形態異常が存在し、それにより脊柱変形が生じる疾患である。症候群性には様々な側弯を症状とする症候群が含まれている。神経筋原性は神経疾患や先天性筋疾患により二次的に側弯や後弯が生じ、そして胸郭変形が引き起こされる疾患群である。

3) 医原性は、たとえば胸壁の腫瘍や感染、多数回手術などのために未成熟な胸郭に何らかの手術的侵襲が加わり、それにより成長期の胸郭の左右対称性の発育が損なわれてしまう病態である。代表例としては、肋骨、椎骨などの悪性腫瘍、多数回にわたる開胸手術による肋骨発育障害などがある。

 このような様々な病態で胸郭形態の病的な状態が生じるため、未だそのすべてが解明されてはいない。現時点では、上記分分類を用いることで本病態を整理することができ、胸郭変形と成長の影響を考慮しながら各原疾患に対応した治療法を心がける必要がある。

疫学

本疾患群は乳幼児期に胸郭発育不全を引き起こす多数の疾患が含まれているため、その発生頻度に関する調査は極めて困難である。2008-2010年において厚労省難治性疾患克服事業の一貫として行った疫学調査では、人口変動の少ない4県を選択して発生率を調べた。その結果、先天性疾患は25名が該当し、4県の3年間の総出生数181468名で除すと、発生率は0.0138%であった。また、側弯症学会で行った2005年度の治療状況に関する全国調査では総手術数789件その7割以上が10才以後での手術であり、調査でもれてしまった可能性を含め、1年間で10才以下の未成熟患者の手術症例は最も多く見積もっても150-200例以下と予想できる。

臨床症状

自覚的所見:
10才以下の小児の場合、ほとんどの症例で疼痛や外見的な訴えはなく、両親からの体幹変形に対する訴えが主訴となる。特に、幼弱で未成熟な時期では脊柱変形や胸郭変形の程度も軽度なことが少なくなく、体幹の変形以外には全く症状がないことも多い。また、脊柱・胸郭変形が悪化するにつれ体幹のプロポーションに乱れが生じる。高度に悪化すると幼小児期でも脊柱変形に関与する外見的な問題に対する訴えのみならず背部痛や呼吸困難などの症状が認められるようになる。胸郭変形がさらに高度に悪化すると体動時の息切れ、睡眠時低呼吸/無呼吸状態、安静時における呼吸数の増加、吸気のたびに上半身を持ち上げて胸郭内容量を増やそうとするマリオネットサインと呼ばれる努力性呼吸などが認められるようになる。努力性呼吸の病態に陥ると呼吸にエネルギーが消費されるため体重増加が認められなくなることが多い。体型的には原疾患により、極度な痩せ、肥満など症例ごとで差があり、低身長を呈するものから正常範囲のものまで様々である。

他覚的所見:
外見的な異常としては左右非対称な胸郭や体幹、体幹短縮や冠状面バランスの不良、肩や腰のラインの不均衡、などが認められる。側弯が高度になると”windswept thorax”と呼ばれる、あたかも胸郭が脊柱周囲で一側から強風で吹き飛ばされたような胸郭変形を呈する。特殊な病態としては、Jeune症候群のような側方への成長が生じないクリスマスツリー状の狭胸郭や、Jarcho-Levin症候群の中のspondylothoracic dysostosisで見られるように長軸方向の胸郭成長が抑制され、短縮し前後方向に広がった樽状胸郭も含まれる。神経症状は原疾患のタイプにより差があり、二分脊椎・脊髄髄膜瘤などの脊柱変形で先天性に脊髄に異常をきたした病態や脊柱変形が高度になり脊髄が圧迫された場合に生じる。筋力低下も原疾患自体に大きく影響を受け、特に先天性筋疾患による胸郭不全症候群では立位歩行が困難/不可となる症例もある。このような疾患では呼吸機能の障害はそのベースに筋力低下があるため、脊柱変形や胸郭変形の悪化により早期から生じることが少なくない。

検査所見

・脊柱や胸部の単純X線撮影画像:未成熟な状態(10才未満など)で胸郭変形や脊柱変形を確認する。典型的な病態では診断は容易である。しかし、胸郭変形の程度は様々であり、軽度なものは診断に迷うこともある。

1) 一次性:肋骨の先天性異常が少なくとも一側でおよそ1/3以上の範囲で認められるもの。明らかに進行性の先天性側弯がある場合は一側で1/3以下の肋骨異常がある場合でも個別に検討する。
2) 二次性:進行性脊柱変形(側弯、後弯、前弯など)が胸郭変形を引き起こしているもの。具体的には早期発症側弯症(C-EOS)の分類に準じ、側弯が50度以上、悪化が年10度以上認められる症例は本症候群と診断できる。SAL (Space Available of the Lung)は片側罹患症例で評価する基準であり、進行性の側弯でSALがおよそ85%以下であれば本症と診断する。
3) 医原性:胸郭の1/3以上の部分欠損、またはそれ以下でも進行性の脊柱変形の存在が確認できれば本症と診断

・(オプション)上記画像2ともなって呼吸機能検査、6分間歩行検査で正常範囲を極度に逸脱して低値を示す場合など。

診断の際の留意点

10才未満(第二次性徴前)の患児ではかなり診断に悩む症例があり得る。その理由としては、本症候群が他の疾患と異なり、時間軸の関与を含めて診断するためである。本症候群の診断は一次性では主にX線撮影画像所見、二次性では原則的には早期発症側弯症の分類における分類で側弯が50度、あるいは後弯が胸椎で50度以上、胸腰椎/腰椎で20°以上あることを目安とするが、その悪化状態も考慮し無治療状態で年10度以上の悪化を目安として参考とする。10才以上では第二次性徴の時期に配慮しなければならないが、側弯90°以上、SALが70%以下、胸椎高(T1-T12長)が18cm以下を目安として診断をする。呼吸機能の低下ではFVCで50%以下を目安にし、胸郭変形による呼吸機能障害により在宅酸素治療や補助呼吸の必要性がある場合は上記の基準値に達していなくても診断可能である。この場合、肺疾患や先天性心疾患がある症例では、それらの疾患の呼吸機能への影響を考慮して診断を下す。

治療

小児科的管理:
治療は胸郭不全症候群を来した原疾患の治療が原則である。呼吸機能障害がすでに生じている症例には呼吸補助のためにリハビリでの呼吸訓練、在宅酸素療法、BIPAPなどの補助呼吸、重篤な症例には気管切開をした後人工呼吸器管理などを病態に応じて選択する。 

保存的治療:
10才未満の症例には成長温存を原則として手術治療を計画するが、5才以下では早期の手術の問題点もあり、可能な限り経過観察をベースとして矯正ギプス治療や装具治療も検討する。

外科的治療:
進行性で保存的治療に抵抗する症例には手術治療を行う。
先天性の肋骨癒合/欠損があり胸郭変形を来した症例では拡張性胸郭形成術を行う。脊柱変形症例にはその原疾患、弯曲部位や大きさにより小範囲の矯正固定、成長温存手術が適応となる。前者は前後合併、あるいは後方からの矯正固定を原則6椎以下の範囲で行う脊柱矯正固定術である。後者には下記の如く、
1) Distraction-based: 肋骨ベース(VEPTR)、脊椎ベース(Growing rod)
2) Growth-guidance:Shilla法、Luque-trolly法
3) Compression-based:前方椎骨tether(人工靱帯、ステープル)
の3種類のタイプがある。 3)は現在未だ試験的に行われている段階で、米国や本法では公的に認可されていない。1)では初回治療後に6-8ヶ月ごとの延長術が必要となる。
10才以上、あるいは成長量がある程度に達した時点で、通常矯正固定術を行われる。

合併症

保存的治療の問題は呼吸機能障害を改善しることができない点である。ギプス治療では褥瘡、上腸間膜症候群(ギプス症候群)、呼吸機能障害の悪化、胸郭変形の増悪などがあり、適応やその手技には注意が必要である。時間稼ぎとして臨床的な意義は大きい。
手術治療においてはインプラントを使用した矯正(非固定、あるいは固定)が原則であり、脊椎インストゥルメンテーション手術に伴う合併症としての神経障害、感染、呼吸機能障害の悪化、予期せぬインプラント周囲の骨化による成長障害、術後の変形悪化(クランクシャフト、上位/下位固定隣接障害、大量出血などがある。

予後

未治療、あるいは高度に悪化してしまってからの症例に対する手術治療では、その予後の改善は期待できない。統計的には乳幼児期に発生する早期発症側弯症では、その死亡率は40代で一般人口の3倍も高いとするスウェーデンの報告がある。特にJarcho-Levin症候群、Jeune症候群など高度に胸郭変形を引き起こす疾患群では成長終了以前に呼吸不全で死亡してしまう症例も報告されている。成長温存手術の効果については長期経過から検討した報告が未だなく、手術治療の治療効果についての結果から、いつ、どの胸郭変形に対して、どのような手術治療を行うべきか、の明確なガイドラインがない。

成人期以降の注意点

未治療における自然経過では高度な脊柱変形、胸郭変形が患者の日常生活に大きな支障をきたし、腰背部痛や呼吸機能障害には対症療法で経過をみるしか方法がない。成人になってからの治療は困難を極め、手術治療には多大なリスクが伴うし、治療成績も悪い。一方、小児期に適切な治療を施したとしても、現在の治療は根治療法ではなく、あくまで胸郭の成長を妨げず呼吸機能を可能な限り温存することを目標にした治療である。従って、たとえ治療を十分に行ったとしても、手術治療の長期成績が未だない現時点においては、成人以後も定期的な経過観察が必要で、加齢変化をベースにした病態悪化について念頭にしながら経過観察するべきである。胸郭のコンプライアンスの低下は成人期にさらに悪化することが予想されるため、注意深い観察と病態に対する適切な対応が必要となる。

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