1. 皮膚疾患群
  2. 大分類: 肥厚性皮膚骨膜症
12

肥厚性皮膚骨膜症

ひこうせいひふこつまくしょう

pachydermoperiostosis

告示

番号:11

疾病名:肥厚性皮膚骨膜症

概念・定義

肥厚性皮膚骨膜症(pachydermoperiostosis, PDP)は太鼓ばち指、長管骨を主とする骨膜性骨肥厚、皮膚肥厚(脳回転状頭皮を含む)を3主徴とする遺伝性疾患である。2次性(続発性)として肺がんなどの胸腔内疾患によるものが知られている。特発性肥大性骨関節症(primary hypertrophic osteoarthropathy, PHO)も現在では原因遺伝子が同一の疾患であるが、骨・関節症状に着目した病名で皮膚症状の有無を問わない。
1868年、Friedreichが、3徴を有する症例を最初に記載した。本症では多彩な合併症が知られており、多汗症、眼瞼下垂、脱毛、下腿潰瘍に加え、消化器症状として10代からの胃・十二指腸潰瘍や胃粘膜巨大襞壁や非特異性多発性小腸潰瘍症が報告されている。特に後者は最近原因遺伝子が本症と同一であることが判明し、本症の重要な合併症と位置づけられた。そのほか骨髄線維症や低カリウム血症が知られ、皮膚・骨のみならず多くの臓器に障害を来す系統疾患である。

病因

Uppalら(2008)が、HPGD(PGE2分解酵素)遺伝子、Zhangら(2011)がSLCO2A1(プロスタグランジン輸送蛋白)遺伝子の遺伝子異常を見出し、PGE2過剰症であることがあきらかになった。日本ではSLCO2A1遺伝子変異男性例は、10代発症で、20代前半までに、完全型の症状が出現することが我が国の調査で判明している。日本におけるHPGD遺伝子変異例は、1例のみ報告されている。一方、非特異性多発性小腸潰瘍症でもSLCO2A1遺伝子に本症と同一部位の遺伝子変異が見いだされたことよりchronic enteropathy associate with SLCO2A1 (CEAS)と呼ばれることとなった。本症が圧倒的に男性に多いのと対象的に、CEASは女性に多い疾患であることより、病因として同一遺伝子変異を有することに以外に性差の関与が浮かび上がってきた。

疫学

全国調査(1次)にて推定患者数42.9例。1989-2010年までの原著論文は44例である。男女差があり、外国例ではHPGD遺伝子変異は男女1:1であることに対し、SLCO2A1は15:1といわれる。保因者数より推測した患者数の推定では、日本人に最も多いc.940+1G>A変異は保因者頻度1/250人程度。劣性遺伝形式モデルによる患者数は推定1/25万人。日本人1億2千万人では480人となる。患者は男性がほとんどであるであることから240人程度。

臨床症状

Touraine(1935)により3型により分類され、この分類が現在も用いられている。
完全型complete form:皮膚肥厚、ばち状指、骨膜性骨肥厚、脳回転状頭皮などのすべての症状を有する
不完全型incomplete form:脳回転状頭皮を欠く
初期型:骨変化が欠如または軽度で皮膚肥厚のみを有する
男性症例では思春期に発症し、10数年進行した後に症状がいったん安定する。女性例は40代に3主徴の一部が合併症とともに発症する症例がある。また、10代より前述の非特異性多発性小腸潰瘍症で発症する症例もある。

検査所見

CRP上昇や血沈亢進が通常見られる。血中および尿中prostaglandin E2 (PGE2)濃度の上昇も報告されている。原因遺伝子HPGDの機能により代謝される15-keto PGE2 (PG-M)はSLCO2A1遺伝子異常では上昇するが、HPGD遺伝子異常では上昇しない。

診断の際の留意点

診断基準は2つの症状と2つの検査所見の有無から構成されている。
4つすべて揃えば(完全型)、鑑別診断が無く、確定診断に至る。
3つの症状、所見(ばち指、皮膚肥厚、骨膜性骨肥厚)の場合は2次性肥大性骨関節症の除外を要する。
2つの症状(ばち指、皮膚肥厚)の場合は除外診断を経て、遺伝子変異が発見されれば確定する。しかし経過中に骨膜肥厚を確認することが望ましい。
1つの症状(ばち指)しか揃っておらず、レントゲン撮影にて骨膜肥厚がある場合は確実例ではなく疑いに留まる。その場合、皮膚肥厚の出現を待つことになる。
皮膚肥厚は発症時期を明確にするのが困難であるが、経過中に皮膚生検を行うことにより特徴的な所見を得ることができる可能性がある。生理的な皺と鑑別が困難でも、病理学的に本症の初期より特徴的な「真皮の浮腫」「ムチン沈着」などの所見が得られることがある。

治療

本疾患名で保険収載されている治療法はない。対症療法が主体である。しかしながら、ざ瘡や脂漏性湿疹などの合併法は通常の皮膚疾患として治療しうる。
 関節痛に対しては、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)が有効である。本症の病因がPGE2過剰症であることよりPGE2産生抑制作用のあるNSAIDは病因に沿った治療といえる。特に選択的COX-2阻害薬であるcelecoxibが、患者の尿中PG-Mを下降させることが報告されている。日本では長期投与の報告はない。
顔面皮膚皺壁や脳回転様頭皮には形成外科的なアプローチが試みられている。
<<海外での検討>>中国より、etricoxibにより本症の治療が行われ、前額の皮膚肥厚に奏効したことが報告された。

合併症

<皮膚症状>
脂漏・油性光沢(69%)、ざ瘡(65.5%)、多汗症(34,5%)、脂漏性湿疹(16.7%)

<関節症状>
関節痛(51.7%)[運動時関節痛(30.3%)、安静時関節痛(9.1%)]、関節腫脹(42.4%)、関節水腫(24.2%)、関節の熱感(9.1%)、骨折歴(6.3%)

<その他>
貧血(18.2%)、発熱(15.6%)、胃・十二指腸潰瘍(9.4%)、低カリウム血症(9.1%)、自律神経症状(9.1%)、易疲労性(6.1%)、思考力減退(3%)
SLCO2A1遺伝子異常関連炎症性腸炎(CEAS)男性例では本症が合併するが、頻度などの詳細は不明である。

予後

10 数年進行した後に症状がいったん安定する症例もあるが 50 代も未だ進行する症例もある。女性例は40 代に3主徴が全てそろわずに発症する症例がある。この間に続発する合併症としてリンパ浮腫は長期臥床を引き起こし、非特異性多発性小腸潰瘍症は大量出血による手術例もある。皮膚肥厚が進行すると眼瞼下垂を併発し、手術療法の適応となる。

成人期以降の注意点

移行期にあたる高校生から大学生の時期に急速に皮膚肥厚が進行し、受診例が目立つ。早めの受診により確定診断し移行期支援していく必要がある。診断がつかないままの進路決定、就職は、体調不良や整容の変貌により将来計画変更を余儀なくされる可能性がある。長時間の外出や睡眠時間減少により体調不良を来す症例がある。

参考文献


  • 1) 三森経世:肥大性骨関節症の診断と治療.日本内科会誌83:1943-1947, 1994.
  • 2) Zhang Z, Xia W, He J, et al: Exome sequencing identifies SLCO2A1 mutations as a cause of primary hypertrophic osteoarthropathy.Am J Hum Genet90:125-32, 2012.
  • 3) Umeno J, Hisamatsu T, Esaki M, et al:A Hereditary Enteropathy Caused by Mutations in the SLCO2A1 Gene, Encoding a Prostaglandin Transporter. PLoS Genet 11:e1005581, 2015.
  • 4) Nakazawa S, Niizeki H, Matsuda M, et al: Involvement of prostaglandin E2 in the first Japanese case of pachydermoperiostosis with HPGD mutation and recalcitrant leg ulcer. J Dermatol Sci78:153-5, 2015.
  • 5) Sasaki T, Niizeki H, Shimizu A, et al. Identification of mutations in the prostaglandin transporter gene SLCO2A1 and its phenotype-genotype correlation in Japanese patients with pachydermoperiostosis. J Dermatol Sci68:36-44, 2012.
:バージョン1.0
承認日
文責
:日本小児皮膚科学会