1. 染色体又は遺伝子に変化を伴う症候群
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色素失調症

しきそしっちょうしょう

Incontinentia Pigmenti; Bloch-Sulzberger Syndrome

告示

番号:18

疾病名:色素失調症

概念・定義

色素失調症は、皮膚、髪、歯、爪、目、中枢神経に症状が現れる疾患である。特徴的な皮膚病変は、次の4段階で進行する。 第1期 水疱期(出生時から4ヶ月まで)、第2期 疣状発疹期(数ヶ月)、第3期 渦巻状色素沈着期(生後6ヶ月から成人まで)、 第4期 線状色素消退期である。脱毛、歯牙欠損、歯牙形態異常、爪の栄養障害を呈する。網膜の血管新生が一部の罹患者に見られ、 網膜剥離を起こしやすい。神経における所見では認知能力の遅れ、知的障害が見られることがある。

病因

IKBKG遺伝子の遺伝子変異により発症する。X染色体優性遺伝形式にしたがう。IKBKG遺伝子のエクソン4からエクソン10の欠失が、罹患者の約80%にみられる。

疫学

10 万人出生に 0.7 人。 女性:男性の割合は 20:1
医中誌検索と国内外の頻度情報から約5000例の報告
成人の患者数の推計: 約 2500人

臨床症状

色素失調症は、皮膚、眼、中枢神経に症状を示し、主に罹患者は女性でまれに男性もいる。 女性罹患者は、出生時またはその直後に紅斑水疱性の発疹がみられる。発疹は時間をかけて徐々に進行し、 疣状、色素沈着、萎縮という経過をたどる。成人では、線状に色素が消退する。脱毛、歯牙欠損、歯牙形態異常、 好酸球増加による白血球増多症、網膜の血管形成異常、その他の眼の所見がみられる。ときどき、骨奇形、痙攣発作、知的障害もみられる。
皮膚症状(100%):出生時より特有な丘疹と炎症様水泡疹、その後特徴的な色素沈着を残す。
歯(90%):萌出遅延、歯牙欠損、円錐歯
毛髪(50%):びまん性円形脱毛症
骨格(40%):後側彎症、半側椎骨
眼(35%):色素性網膜症、網膜血管病変
中枢神経(30%):精神発達遅滞、けい性麻痺、けいれん発作

検査所見

生後4カ月までは1ヶ月に1回、生後4カ月から満1歳までは3ヶ月に1回、1歳から3歳までは半年に1回、3歳以降は1年に1回の眼科検査を行う。 神経機能の評価は、小児科、小児神経科、発達小児科による定期検診時に行う。小児歯科または歯科では定期的に評価を行う。
末梢血:特に第1期(水疱期)、第2期(疣状発疹期)において白血球増多症が生じ、その65%までもが好酸球である。好酸球増加の原因は不明である。

診断の際の留意点

色素失調症の皮膚症状の鑑別診断は症状の段階によって変化する。色素失調症の児童は感染症を合併しやすいことから、たとえ色素失調症であっても、 感染症に一致する所見はそれに応じて評価されるべきである。

治療

疾患特異的な治療法は確立されていない。水疱へは標準的な治療(切開しない、外傷を避ける、など)をおこない、必要に応じて感染症への治療をする。 網膜剥離を引き起こす網膜の新生血管へは凍結療法、レーザー光凝固術を行う 。痙攣発作があるときは抗てんかん薬を処方する。 乳歯の萌出遅延や不適切な萌出が咀嚼や発語の発達に対応する。生え変わり後の欠歯へは矯正やインプラントを行う。頭部の脱毛へは脱毛部の縫合術を行う。

合併症

視力低下や斜視が現れたり、頭部を外傷したときは、網膜剥離の評価を行う。
眼症状:色素性網膜症・網膜血管病変の結果、血管新生、線維組織の増殖などの未熟児網膜症と似た変化をきたし、 牽引性網膜剥離などを引き起こし失明に至ることもある(眼症状を伴う患者の 10~20%)

予後

生命予後は悪くない。中枢神経病変を呈さなければ、知的予後も正常である。皮膚、中枢神経、眼、歯、毛髪、爪に症状があるが、 中枢神経症状と眼症状の有無が重症度と関係し、長期療養の必要な場合がある。

成人期以降の注意点

多くの症例では、症状は軽快するが、まれに、骨奇形、痙攣発作等が持続する症例が認められる。

参考文献

  1. 平成26年度 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業)「国際標準に立脚した奇形症候群領域の診療指針に関する学際的・網羅的検討」研究班
  2. Angela E Scheuerle (Feb 2015). Incontinentia Pigmenti. In: GeneReviews at GeneTests: Medical Genetics Information Resource (database online). Copyright, University of Washington, Seattle, 1997-2015. Available at http://www.genetests.org. Accessed february 1, 2017. 
  3. GeneReviewJapan藤田保健衛生大学 倉橋浩樹教授 翻訳
:バージョン1.0
更新日
:2017年3月17日
文責
:日本小児遺伝学会