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遺伝性膵炎

いでんせいすいえん

Hereditary Pancreatitis

告示

番号:31

疾病名:遺伝性膵炎

概念・定義

遺伝性膵炎とは、広義には家系内に2人以上の患者がみられる膵炎(家族性膵炎)であって少なくとも1人に既知の成因を認めない家系内集積性を示す再発性膵炎や慢性膵炎をいう。近年、遺伝学的診断手法の進歩により、これらの患者ではPRSS1SPINK1遺伝子などの遺伝子変異を有することが明らかになってきた。前者は常染色体優性遺伝形式をとるが孤発例も存在すること、後者は常染色体劣性遺伝形式を示すことから膵炎の家族歴は必須ではない。

病因

PRSS1遺伝子変異では、トリプシノーゲンからトリプシンへの自己活性化が促進されたり、トリプシン自身の加水分解が阻害されため、プロテアーゼとしての機能を保持した変異トリプシンが膵内に増加し、膵の自己消化・膵炎へと至る。SPINK1遺伝子変異(IVS3+2T>C変異)では、スプライシング異常によりエクソン3の欠損が生じるため、膵分泌性トリプシンインヒビターの立体構造が変化しトリプシン活性を阻害できず膵炎を発症すると考えられている。

症状

膵炎発作時には、腹痛、嘔吐・嘔気および発熱などの症状を呈する。平均発症年齢は6歳前後である。

診断

既知の成因がない膵炎例で①膵炎の家族歴がある、②再発性の膵炎がみられる、③E(M)CPで膵管拡張/狭窄像・膵石を認める、以上の3項目は遺伝子異常による膵炎を疑う重要な徴候であり、PRSS1SPINK1遺伝子変異を検索し診断確定を行う。

検査所見

急性期には腹痛とともに血中膵酵素値が上昇する。膵炎の反復・慢性化とともに小児期から膵管拡張/狭窄像・膵石などの画像所見が認められることが多い。

治療

慢性膵炎が急性増悪した場合には、絶食、補液など急性膵炎の治療に準じ対処療法を行う。発作間欠期には、脂肪制限食に加え、蛋白分解酵素阻害薬(メシル酸カモスタット)、H2受容体拮抗薬(塩酸ラニチジン、ファモチジン)、多糖類溶解薬(塩酸ブロムヘキシン)、ファター乳頭括約筋弛緩薬(フロプロピオン、トレピブトン)、消化酵素配合薬により内科的治療が行われる。

予後

PRSS1SPINK1遺伝子変異を有する再発性膵炎患者では、将来的に膵外分泌機能不全や糖尿病を発症し、さらには膵癌合併の高危険群となる。膵癌発症率は標準人口と比して約50-60倍である。現在までに小児期の糖尿病および膵癌発症例の報告はない。
:バージョン1.0
更新日
:2014年10月1日
文責
:日本小児栄養消化器肝臓学会