1. 慢性消化器疾患
  2. 大分類: 肝血行異常症
31

門脈圧亢進症(バンチ(Banti)症候群を含む。)

もんみゃくあつこうしんしょう (ばんちしょうこうぐんをふくむ。)

portal hypertension (incl. Banti syndrome)

告示

番号:7

疾病名:門脈圧亢進症(バンチ症候群を含む。)

概念・定義

 門脈血流の異常には、門脈圧亢進を伴わないものと伴うものがあり、伴わないものは「細分類28. 先天性門脈欠損症」の項で述べている。門脈圧亢進症は門脈圧で定義されるが臨床的には必ずしも圧測定を要さない。
 門脈圧亢進症のうち、肝硬変によらないものは非肝硬変性門脈圧亢進症(Non-cirrhotic portal hypertension, NCPH)である1。NCPHのうち、小児で多いものは肝外門脈閉塞症(extrahepatic portal vein obstruction, EHPVO)である。肝外門脈の閉塞を伴わないものには特発性門脈圧亢進症(idiopathic portal hypertension, IPHまたはバンチ(Banti)症候群2)、バッド・キアリ(Budd-Chiari)症候群などがある。
 EHPVOは肝前性の門脈圧亢進症であり、肝門部を含む肝外門脈の閉塞があって門脈圧亢進症に至った症候群である。肝門部に発達した求肝性側副血行路を認め、これを海綿状血管増生と形容する3, 4
 IPHは肝内性の門脈圧亢進症であり、肝内門脈の末梢で閉塞・狭窄をきたし門脈圧亢進症に至る症候群で原因不明のものを指す。組織学的に肝内門脈の末梢に潰れ・狭小化・硬化性変化がみられる3, 4
 バッド・キアリ(Budd-Chiari)症候群は肝後性の門脈圧亢進症であり、肝静脈主幹あるいは肝部下大静脈の閉塞や狭窄から門脈圧亢進症に至る症候群を指す3, 4
 以上のほかにも希少で多彩な非肝硬変性門脈圧亢進症が存在する。

疫学

 平成17年度から平成21年度にかけて小児慢性特定疾患「門脈圧亢進症」の申請者は新規・更新を合わせて年間34-48名であった。難治性疾患克服研究事業「平成18年度門脈血行異常症調査研究班報告書」によれば、内科・外科・小児科から抽出した、成人を含めた全国調査で肝外門脈閉塞症の年間受療者数は340-560人、特発性門脈圧亢進症は640-1,070人、バッド・キアリ症候群は190-360人と推定された5。EHPVOは20歳未満の小児で診断される例が多く、IPHは40-50歳、バッド・キアリ症候群は20-30歳で診断される例が多いとされた。

病因4

 NCPHの病因は多彩と推定され、大部分で詳細は不明である。EHPVOは途上国に多いとされ、病因として関連が想定されているものは、門脈血栓・血管の形成異常・血液凝固の異常・骨髄増殖性疾患・新生児期の臍カテーテル・新生児臍炎・腫瘍・何らかの感染症などである。近年欧米でHIV感染症例にEHPVOの発生がみられることが注目されている1
 IPHの病因としては血栓説、自己免疫説、脾原説などがある。先天性免疫不全症が腹水を主徴とする門脈圧亢進症を呈する場合がある。バッド・キアリ症候群の病因としては血管形成異常、血液凝固異常、骨髄増殖性疾患の関与等が知られるが未だ詳細は不明である。腫瘍に続発する場合がある。Fontan術後の肝症は門脈圧亢進症を伴うことがある。

症状

 EHPVOは消化管出血の発症以前は症状が乏しいが、成長障害をきたしている例が多い。鼻出血等を契機に偶然見いだされた血小板減少・白血球減少・軽度の脾腫の精査から診断される例がある。門脈圧亢進の進行とともに食道や胃の静脈瘤が破裂して消化管出血に至る。出血は発熱を契機とする例が目立つ。IPHも消化管出血に至るまで症状は乏しい。しばしば脾腫は高度であり、血球減少がみられる。バッド・キアリ症候群では閉塞の部位と重症度によって消化管出血・腹水・下腿浮腫・胸腹壁の上行性皮下静脈怒張などがみられる。
 いずれの疾患も進行して門脈体循環短絡量が増加すると肝肺症候群・肝性脳症などが問題になる。肝肺症候群では労作時呼吸困難、バチ状指、チアノーゼ、座位で悪化する低酸素血症(platypnea, orthodexia)などがみられる。

診断4

 食道または胃の静脈瘤など側副血行路の存在、脾腫・血球減少など脾機能亢進の存在、腹水などをもとに門脈圧亢進を推定する。症候群であり診断は総合的に判断する。
 EHPVOは門脈圧亢進とともに画像検査で肝門部に海綿状血管増生をみることで診断されるが、病期によって形態は異なることに留意する。
 IPHの診断には画像検査で肝後性・肝前性の門脈圧亢進を除外し、肝内性の既知の原因を除外する。例としてはシトリン欠損症やWilson病・糖原病など代謝異常症、そのほかによる肝硬変症、先天性肝線維症、慢性活動性EBウイルス感染症など血液疾患、原発性硬化性胆管炎、B型慢性肝炎、寄生虫疾患、肉芽腫性肝疾患などがある。肝組織所見で裏付けを得ることが望ましい。
 バッド・キアリ症候群は血管造影および圧測定で肝部下大静脈ないし肝静脈主幹の閉塞や狭窄を証明する。
 門脈体循環短絡の程度を評価するには経直腸門脈シンチグラフィが有用である。肝肺症候群の評価には酸素飽和度でスクリーニングし、肺血流シンチグラフィを行う。

治療

 門脈圧亢進症に伴う消化管出血の治療ないし予防では、薬物療法、内視鏡的治療などがある。一時的止血にバルーンタンポナーデ法がある。小児用食道静脈瘤に対する内視鏡的治療には静脈瘤結紮術と硬化療法がある。胃静脈瘤に対してはバルーン閉塞下逆行性経静脈塞栓術(Balloon-occluded retrograde transvenous obliteration, B-RTO)がしばしば選択される。
 EHPVOに対するRex シャント(mesenterico-left portal vein bypass, MLPVB)は内頸静脈グラフトなどを用いて腸間膜静脈から肝内門脈への血行を再建するものである。
 バッド・キアリ症候群ではカテーテルを用いた開通術・拡張術・ステント留置、また手術療法などがある。
 難治性の消化管出血や急性肝不全に対して肝移植を選択する場合がある5

予後

 国内の調査報告は少なく、平成18年度難治性疾患克服研究事業「門脈血行異常症に関する研究」報告書によれば、成人を多数含む対象において5年累積生存率はEHPVOで93.3%、IPHで94.8%、バッド・キアリ症候群で94.2%であった。
 EHPVOで難治性消化管出血から肝移植に踏み切る例がある。

成人期以降の注意点

小児期を安定した状態で経過した症例でも、成人になって、あるいは女性の場合は妊娠出産を契機に、症状が急速に進行することがあるので、合併症に対する慎重な経過観察が望ましい6

参考文献

  1. Sarin, S.K. and R. Khanna, Non-cirrhotic portal hypertension. Clin Liver Dis, 2014. 18(2): p. 451-76.
  2. 深沢正樹、二川瞬二, 特発性門脈圧亢進症の概念の変遷と現況. 肝臓, 2000. 41(1): p. 5-15.
  3. 日本門脈圧亢進症学会, 門脈圧亢進症取り扱い規約 第3版. 金原出版, 2013: p. 1-132.
  4. 橋爪誠, 門脈血行異常症の診断と治療のガイドライン(2007年). 門脈血行異常症に関する調査研究 平成17-19年度総合研究報告書. p. 57-62.
  5. 廣田良夫, 門脈血行異常症の全国疫学調査. 門脈血行異常症に関する調査研究 平成18(2006)年度総括研究報告書. p. 82-92.
  6. Aggarwal, N., et al., Pregnancy with portal hypertension. J Clin Exp Hepatol, 2014. 4(2): p. 163-71.
:バージョン2.0
承認日
文責
:日本小児栄養消化器肝臓学会