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進行性家族性肝内胆汁うっ滞症

しんこうせいかぞくせいかんないたんじゅううったいしょう

progressive familial intrahepatic cholestasis; PFIC

告示

番号:13

疾病名:進行性家族性肝内胆汁うっ滞症

概念・定義

進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(Progressive familial intrahepatic cholestasis ; PFIC)は、乳児期に発症し、常染色体劣性遺伝形式をとる家族性の肝内胆汁うっ滞症である。特徴としては、現在までに3種類の異なる遺伝子異常が指摘されており、それに基づいて1-3型の3病型(PFIC1-3)に分類されており、PFIC1, 2では血清直接ビリルビン、総胆汁酸およびAST・ALTの高値を呈するが、γGTP値が正常もしくは軽度高値であることが特徴とされている。  いずれも乳児期から慢性肝内胆汁うっ滞を呈し、進行性の経過をとるが、PFIC1では下痢、膵機能不全、難聴など肝外症状を合併するのに対し、PFIC2は症状が肝に限局する一方で早期に肝不全が進行し、時に肝細胞癌を発症することが知られている。保存的治療の無効例は肝移植の適応となるが、移植後の経過は肝外症状の有無により異なる。PFIC3は日本人では発症が極めて稀であると考えられている。

疫学

全世界的な疫学としては、5万から10万出生に1名の患者発生率が推測されている。また別の報告によれば全世界における調査で、生存率は5歳で50%、20歳で10%程度と見積もられている。一方で本邦では症例報告が散見されるのみであり、正確な患者数、病歴、予後などのデータはない。

病因

PFIC1 は、染色体18q21に存在しfamilial intrahepatic cholestasis 1 (FIC1)蛋白をコードする ATP8B1 遺伝子の変異によって発症する。FIC1 の異常が胆汁うっ滞を来す機序は不明である。 PFIC2 は、染色体2q24に存在し胆汁酸トランスポーターであるBSEP (bile salt export pump)蛋白をコードする ABCB11 遺伝子の変異によって発症する。肝細胞から胆汁酸を分泌できず肝細胞内胆汁うっ滞をきたす。 PFIC3 は、染色体7q21に存在しMDR3 (multi drug resistance 3) P糖蛋白をコードする ABCB4 遺伝子の変異によって発症する。PFIC3 は日本人では極めて稀である。

診断

PFIC1は、乳児期から遷延性黄疸として発症し、成長障害、肝不全へと進行する。また肝脾腫、著明な掻痒感を呈する。その他、低身長、特異的指趾(stubby fingers)を呈する。FIC1は肝臓のほか、腎臓、小腸、膵臓、蝸牛有毛細胞、膀胱、胃でも発現しているため、胆汁うっ滞性肝障害とともに、肝外症状として下痢や膵炎、難聴をきたすこともある。血液検査では直接ビリルビン、総胆汁酸およびAST/ALTの高値を呈するが、血清コレステロール、γGTP値は上昇しない。肝組織では、胆汁うっ滞が小葉間胆管よりも毛細胆管でみられることが特徴である。電子顕微鏡では毛細胆管内にByler’s bileと呼ばれる粗雑な胆汁の顆粒が認められる(PFIC2では胆汁は無構造である)。間欠的に症状を呈する軽症型の存在が知られ、良性反復性肝内胆汁うっ滞症 (benign recurrent intrahepatic cholestasis; BRIC) 1型と呼ばれているが、遺伝子変異と疾患の重症度の相関は知られていない。  PFIC2の責任分子BSEPは、FIC1と異なり肝細胞にのみ発現するため肝外症状をきたすことはないが、PFIC1と比して肝不全への進行は早く、若年のうちに肝細胞癌を発症する例も知られている。血液検査ではPFIC1と同様に直接ビリルビン、総胆汁酸およびAST・ALTの高値を呈するが、γGTP値は上昇しない。肝組織では、巨細胞性肝炎が特徴的とされるが、全例で認められるものではない。また早期より肝硬変像を呈する。またPFIC1と同様に、BRIC2が存在する。  PFIC3は乳児期に遷延性黄疸で発症するものから妊娠中に胆石症などで発症する例まで様々である。PFIC3ではPFIC1, 2と異なり、一般的な胆汁うっ滞性疾患と同様に血液検査で直接ビリルビン値、総胆汁酸、AST・ALT高値とともにγGTP値も高値を示す。PFIC3は日本人では発症が極めて稀であると考えられている。

治療と予後

治療としてはいずれも、ウルソデオキシコール酸、フェノバルビタールの内服と脂溶性ビタミンの補充、必須脂肪酸強化MCTフォーミュラミルク(MCTミルク)が用いられている。ウルソデオキシコール酸は、肝障害予防目的で初期の段階で全ての患児に使用される。また、リファンピシンも一時的に有効であることが多い。掻痒の軽減や病気の進行を遅らせる目的で外胆汁瘻造設術を施行する場合がある。最終的には肝移植の適応となるが、PFIC2では根治的であるが、PFIC1では肝移植施行後も小腸吸収不全は解消せず、さらに下痢の悪化やグラフト肝が脂肪肝となるなど必ずしも術後のQOLは良くない。また、肝移植後のPFIC2において”再発”の報告があり、これはレシピエントのBSEPに対する自己抗体の出現によるものであり、本邦でも我々が報告している。

成人期以降の注意点

肝移植症例を除いては成人期に生存する例はまれである。2型の場合、肝移植は根治的であるが、BSEPに対する自己抗体の出現による”再発”の報告があり注意を要する。1型では難治性掻痒感や下痢のコントロールに難渋するため小児消化器病医との連携が大切である。
:バージョン1.1
更新日
:2015年4月6日
文責
:日本小児栄養消化器肝臓学会