1. 慢性消化器疾患
  2. 大分類: 肝内胆汁うっ滞性疾患
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アラジール(Alagille)症候群

あらじーるしょうこうぐん

Alagille syndrome

告示

番号:11

疾病名:アラジール症候群

概念・定義

アラジール症候群は、小葉間胆管減少症による慢性胆汁うっ滞に特徴的な肝外症状を伴う、遺伝性肝内胆汁うっ滞症である。従来の臨床症状による診断では、肝臓、顔貌、心血管、眼球、椎体の全てに異常が見られる場合を完全型(または古典的)アラジール症候群、肝臓を含めて上記の3症状を伴う場合を不完全型アラジール症候群という。近年は、これらの臨床症状を全ては満たさないが、特有の遺伝子異常を伴う場合も本症として報告されている。

疫学

厚労科研班研究等から我が国のAlagille症候群の患者数は200~300名程度と推定される。

病因

原因遺伝子として JAG1 が1997年に、 NOTCH2 が2006年に、それぞれ発見され、現在では JAG1 の異常によるアラジール症候群1型と NOTCH2 によるアラジール症候群2型が区別されるようになった。JAG1NOTCH2 はともに、Notchシグナル伝達系を構成し、この遺伝子異常が胎生期の発生過程で何らかの影響をきたすことが原因と考えられているが、病態の詳細は不明である。]

症状

乳児期から始まる黄疸が主要症状であり、しばしば胆道閉鎖症や新生児肝炎と鑑別を要する。非典型例では、黄疸がなく、先天性心疾患や腎障害が前景に立つ場合がある。特に、本症2型では重症腎障害が特徴的とされる。心血管系の異常としては末梢性肺動脈狭窄が、椎体異常では前方弓癒合不全が、眼球では後部胎生環が特徴的な異常である。さらに、発育・発達障害、性腺機能不全、消化管の異常などを伴う場合がある。

診断

『診断の手引き』に示すように、古典的症状5つのうち3つ以上を備え肝組織で小葉間胆管の減少がみられるものが典型例である。遺伝子解析で JAG1 または NOTCH2 に異常がみられ、Alagille症候群として特徴的な症状がみられる場合も本症と診断する。

治療

慢性の胆汁うっ滞や成長障害に対して、脂溶性ビタミンや中鎖脂肪酸(MCT)の補充など栄養療法を長期に継続する。痒みや高脂血症に対して陰イオン交換樹脂や脂質降下薬が使われる場合がある。胆汁うっ滞性肝硬変に進行したり、痒みなどにより著しくQOLが低下した場合には肝移植が行われる。重篤な心疾患については外科手術が、腎不全については透析や腎移植が必要なことがある。

予後

黄疸を伴う本症患者の約3分の1が幼児期以降に胆汁うっ滞性肝硬変に進行する。近年、このような場合も肝移植によって長期生存が可能になってきた。一方、肝移植後も成長障害や頭蓋内出血をきたす可能性が報告されている。特に、肝移植が可能になってからは、胆汁うっ滞性肝硬変よりも血管奇形による頭蓋内出血が重要な合併症になっている。

成人移行期の注意点

肝疾患再燃、門脈圧亢進症の増悪がないか観察するとともに、肝外病変の出現に注意を要する。透析を要する慢性腎疾患、血管異常を背景とした脳血管障害、先天性心疾患を背景とした心内膜炎など多臓器の病変が肝病変の重症度とは関係なく出現しうるので、定期的な観察が重要である。
:バージョン2.0
更新日
:2015年4月6日
文責
:日本小児栄養消化器肝臓学会