概念・定義
自己免疫性肝炎(Autoimmune hepatitis, AIH)は自己免疫機序が関与する原因不明の肝疾患で、遺伝的素因も関与が疑われる。中年以降の女性に好発するが、小児例もみられる。小児期AIHには好発年齢はなく、乳児期からあらゆる年齢層に発症する。
典型例では抗核抗体、抗平滑筋抗体などの自己抗体陽性、IgG高値などの特徴があるが、急性肝炎様に発症するAIHでは自己抗体陰性、IgG正常例が多く、診断が難しい。急性肝炎様に発症するAIHには組織学的に線維化が軽度もしくはみられない急性肝炎期と線維化が進行しており慢性肝炎が基礎にある急性増悪期に分類される。
疫学
平成22年度および平成23年度の小児慢性特定疾患「自己免疫性肝炎」(膠原病分野)の申請者は新規・更新を合わせて年間77名および71名であった。
2005年に行われた成人を主な対象とした全国疫学調査によると2004年1年間の患者数は9,533人と推定されたが、小児例の全国調査はなされておらず、小児例の正確な患者数は不明である。
病因
AIHの原因は不明である。抗核抗体などの自己抗体陽性、高γグロブリン血症、他の自己免疫疾患の合併、副腎皮質ステロイド治療に対する反応性などから、免疫寛容の破綻による自己免疫機序の関与が想定されている。
症状
多くは無症状であり、発熱時などの検査で偶然の機会に発見されることが多いが、急性肝炎ように発症する症例では、黄疸、全身倦怠感、易疲労感などをみられることがある。初診時、既に肝硬変へ進展している症例は本邦小児例では稀である。
診断
診断の詳細は難病情報センターの疾患概要を参照されたい(難病情報センター:自己免疫性肝炎)。
本疾患の診断には肝組織所見が重要である。典型例では慢性肝炎像を呈し、門脈域ではinterface hepatitisと著明なリンパ球・形質細胞浸潤がみられる。肝小葉内では、肝細胞は膨化し、ロゼット形成、巨細胞性変化もみられ、小葉中心領域に広範な肝細胞の脱落がみられることが特徴である。一部には原発性硬化性胆管炎の合併もしくは、鑑別の難しい症例がある。
治療
根治的治療法は確立されておらず、副腎皮質ステロイドが第一選択薬である。通常はステロイド剤に良く反応する。副腎皮質ステロイド抵抗性を示す場合には原発性硬化性胆管炎との鑑別を必要とする。小児では成長への影響を考慮し、メチルプレドニンパルス療法で導入し、アザチオプリン(保険未収載)の併用をすることがAIH診療ガイドラインでは推奨されている。重症例ではシクロスポリンAや肝補助療法(血漿交換や血液濾過透析)を要することがある。また、劇症肝炎例では肝移植が選択される場合がある。
予後
適切な治療が行われたAIH症例の予後は、概ね良好であり、生存期間についても一般人口と差を認めない。しかし、適切な治療が行われないと、他の慢性肝疾患に比べて早期に肝硬変・肝不全へと進行する。成人期になると、稀ながら肝発癌が認められる。
成人期以降の注意点
成人に移行するにあたってコンプライアンスを維持することが課題である。自覚症状が乏しく、ステロイドを忌避するなどの問題に遭遇しやすい。再燃を防止する治療を理解し受け入れ、自立して受診を継続できるよう援助・指導する必要がある。
妊娠出産時の注意は難病情報センターの疾患概要を参照されたい(難病情報センター:自己免疫性肝炎)。
参考文献
- 難病情報センター:自己免疫性肝炎(http://www.nanbyou.or.jp/entry/268)
- 十河剛、藤澤知雄.188 自己免疫性肝炎.『小児内科』『小児外科』編集委員会共編:小児疾患の診断治療基準 第4版.東京医学社.2012.p.418-419.
- 厚生労働省克服研究事業 難治性疾患「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班.自己免疫性肝炎(AIH)診療ガイドライン(2013年)(http://minds4.jcqhc.or.jp/minds/AIH/AIH-Guideline.pdf)
- 版
- :バージョン2.1
- 更新日
- :2015年7月9日
- 文責
- :日本小児栄養消化器肝臓学会