概念・定義
家族性腺腫性ポリポーシス(FAP)は、APC遺伝子の胚細胞変異を原因とし、大腸の多発性腺腫を主徴とする常染色体優性遺伝性の症候群である。放置するとほぼ100%の症例に大腸癌が発生する。
大腸癌以外にも、消化管あるいはその他の臓器に様々な腫瘍性および非腫瘍性の随伴病変が発生する。大腸腺腫性ポシポーシスに軟部腫瘍、骨腫、歯牙異常、デスモイド腫瘍などを伴うGardner症候群はAPC遺伝子の異常が原因であることから、FAPと同一疾患として取り扱われている。APC遺伝子変異を有する大腸線腫性ポリポーシスに脳腫瘍(主に小脳の髄芽腫)を伴うTurcot症候群(type2)もFAPとして取り扱う。
疫学
わが国の全人口における頻度は、1:17,400と推定されている。
病因
FAPは第5番染色体上のAPC遺伝子の変異によって発症する、常染色体優性遺伝の疾患である。本疾患における遺伝子変異としては、欠失、挿入、ナンセンス変異などが報告されている。これらの変異の結果として、短い不完全なAPC蛋白が作られる。
APC遺伝子は腫瘍抑制遺伝子であり、そのふたつのアレルのうちの一方の胚細胞変異に加え、もう一方のアレルのAPC遺伝子にtwo-hit目の体細胞変異を受けると腺腫が発生する。腺腫から大腸癌が発生する過程には、さらに発癌に関連する遺伝子の変異を受けると考えられている(multi-hit theoryまたはmultistage model) 。
症状
大腸の多発性腺腫に起因する症状として、下血、腹痛、下痢などを呈することがあるが、多くは無症状でFAPの家族内検索で診断される。大腸癌の発生は10歳代のこともあり、40歳でほぼ50%、放置すれば60歳ごろにはほぼ100%に達する。
大腸外の随伴病変として、先天性網膜色素上皮肥大、胃底腺ポリポーシス、胃腺腫、十二指腸ポリポーシス、十二指腸乳頭部腺腫、空・回腸腺腫、デスモイド腫瘍、頭蓋骨種、顎潜在骨腫、歯牙異常(過剰歯、埋没歯)、類上皮腫、甲状腺癌、子宮癌、肝芽腫、副腎腫瘍、脳腫瘍などの報告がある。非腫瘍性の網膜色素上皮腫大はFAPの77-90%に認め、大腸腺腫よりも早期に出現し補助診断として参考になる。
検査
大腸内視鏡検査で大腸に100個以上のポリープを認め、ポリープの病理組織診断で腺腫と診断されれば、家族歴の有無を問わずFAPと診断する。正常粘膜を覆うほど多数の腺腫があれば密生型FAP、正常粘膜を覆うほどでなければ非密生型FAPに分類される。
大腸に100個に達しない多発性腺腫が存在し、FAPの家族歴を有する場合はAttenuated FAP(AFAP)と診断する。大腸外随伴病変は、補助診断として参考になる。家族歴がないか不明の場合には、APC遺伝子変異を認めればAFAPと診断できる。APC遺伝子変異が確認されず、MYH遺伝子変異があればMUTYH関連ポリポーシスと診断されるが、MUTYH関連ポリポーシスは非常に稀で、大腸癌の浸透率は60歳までにほぼ100%であり、治療はAFAPに準じて行う。
APC遺伝子の胚細胞変異を有する場合にはFAPと診断する。APC遺伝子検査は、発端者の確定診断に有用であるとともに、家系内の50% at risk者の早期確定診断に基づく早期介入を可能にする。FAPの20~30%程度はAPC遺伝子変異がみられない。
治療
大腸癌が発生する前に大腸切除を行う予防的大腸切除が推奨される。大腸全摘・回腸嚢肛門(管)吻合術が標準術式といわれている。一般的に20歳代前半までに手術をすることが推奨されているが、密生型FAPでは癌化の年齢も早いとされており、10歳代での予防的大腸切除を考慮する。大腸切除後も大腸粘膜が残存している場合には、定期的な大腸内視鏡検査による大腸癌のサーベイランスが必要とする。
進行大腸癌を伴う場合には、進行大腸癌に対する標準的治療を行う。
デスモイド腫瘍や十二指腸癌などの大腸外悪性随伴病変を念頭においたサーベイランスを行う。
常染色体優性遺伝疾患としての側面を有するため、発端者の健康管理、遺伝子検査、次世代など50% at risk者への適切な介入を含めた遺伝カウンセリングは必須である。
予後
FAPは放置すれば40歳でほぼ50%、60歳ごろにはほぼ100%が大腸癌を発生する。死因の第1位は大腸癌で60%を占め、十二指腸癌とデスモイド腫瘍は大腸癌以外の死因として比較的頻度が高く、他に胃癌、膵臓、小腸癌、肺癌、肝癌、子宮癌、食道癌、胆嚢癌、肉腫、卵巣癌、甲状腺癌などの報告がある。死亡年齢の平均は46±15.6歳である。
文献
- 大腸癌研究会編.遺伝性大腸癌診療ガイドライン2012年版.金原出版,東京,2012年7月,pp9-30.
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- 版
- :バージョン1.0
- 更新日
- :2015年9月7日
- 文責
- :日本小児栄養消化器肝臓学会