1. 神経・筋疾患
  2. 大分類: 難治てんかん脳症
71

PCDH19関連症候群

ぴーしーでぃえいち19かんれんしょうこうぐん

PCDH19 related epilepsy

告示

番号:72

疾病名:PCDH19関連症候群

疾患概念

正常又は軽度の運動発達の遅れを有する乳幼児期の女児に、発熱・感染症等を契機にてんかんを発症する。てんかん発作は一度出現すると高率に群発し(日に何度も繰り返す。)、以降もしばしば発熱などに伴い頑固な発作群発を繰り返す疾患である。発症後は、しばしば知的障害が進行し、自閉、多動、種々の精神症状を伴うことも多い。

疫学

本邦で確定診断されている患者数は100人未満であるが、海外の報告では人口10万人あたり4.8名程度と推測される。

病因

X染色体長椀Xq22.1に存在するPCDH19遺伝子の異常。これまでに点変異(部位はエクソン1に集中)、遺伝子欠失が同定されている。なお、変異保因男性は基本的に健常となる。

臨床症状

てんかん発作は乳児期から幼児期早期に発症する。1回の発作持続時間は短いが日に何度も繰り返し(発作群発)、各群発は日~週単位持続する。発作型は焦点性発作や全身けいれん(強直、強直間代)が主体で、ミオクロニー・欠神・脱力発作や15分以上遷延する発作は稀である。発作頻度は患者により多様であるが、多くは幼児期までが月~数か月単位と多く、その後徐々に減少し、思春期以後には寛解する例が多い。発作間欠期脳波ではしばしば焦点性棘波や鋭波、基礎波や背景活動の徐波化がみられる。

診断

A. 症状
下記の特徴、特に1.~5. を満たす場合、本症を疑う。
  1. 女児
  2. 乳児期から幼児期前半にてんかん発作を発症
  3. 繰り返す発作群発
  4. しばしば発熱や感染症が発作再発の契機となる
  5. 発作型は焦点性発作、全身けいれんが主体
  6. 家族例では女性にのみ発症する特異な分布がみられ、男性は健常である
  7. 知的障害、種々の精神神経症状(自閉、多動など)
B. 検査所見
  1. 血液・生化学的検査所見に特異的なものはない
  2. 頭部CT/MRIは基本的に正常(軽微な萎縮、形成異常など非特異的な変化を伴うこともある。)
  3. 生理学的所見:発作間欠期脳波ではしばしば焦点性棘・鋭波や基礎波・背景活動の徐波化を認める
C. 遺伝学的検査

PCDH19 遺伝子解析で変異を同定

確定診断

A. の症状及び B. の 3. から本症を疑い、C. の遺伝子異常を認めれば診断確定となる。

診断の際の留意点/鑑別診断

PCDH19 遺伝子に病的異常が同定されれば診断は確実であるが、臨床的には SCN1A 遺伝子異常に伴うドラベ(Dravet)症候群、脳炎・脳症、良性乳児部分てんかん、軽症胃腸炎関連けいれん、など発作群発を呈する疾患が鑑別となる。

治療

有効な治療法は確立していない。てんかん発作に対しては発作型に対応した種々の抗てんかん薬が用いられるが効果は乏しい。発作群発の抑制には、しばしばベンゾジアゼピン系薬剤が有効である。

予後

てんかん発作は思春期以降に寛解することが多いが、一部の患者では成人期にも継続して出現する。また、しばしば種々の程度の知的障害(軽度~重度)や、自閉、多動、様々な精神症状を合併し、発作寛解後も社会生活上で大きな問題となる。運動発達は初期に遅れることもあるが、長期的には良好である。

研究班

平成26~28年度厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)「希少難治性てんかんのレジストリ構築による総合的研究」
平成29~31年度厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)「稀少てんかんに関する調査研究」
令和2~4年度厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)「稀少てんかんに関する包括的研究」

成人期以降の注意点

思春期以降は発作は寛解する例が多いが一部の患者では成人期も継続する。加えて、知的障害が進行し、他に自閉、多動などの精神障害を合併し発作寛解後も残存する。そのため、てんかん発作が軽快したあとも、抗精神病薬を使った治療やリハビリテーションなどを要する。

参考文献

  1. 日本てんかん学会編集 稀少てんかんの診療指標 2017年04月17日発行
  2. Samanta D. PCDH19-Related Epilepsy Syndrome: A Comprehensive Clinical Review. Pediatr Neurol. 2020 Apr;105:3-9.
:第1版
更新日
:2021年11月1日
文責
:日本小児神経学会