1. 神経・筋疾患
  2. 大分類: 難治てんかん脳症
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アイカルディ(Aicardi)症候群

あいかるでぃしょうこうぐん

Aicardi syndrome

告示

番号:63

疾病名:アイカルディ症候群

疾患概念

1965年にAicardiらにより初めて報告された。脳梁欠損、てんかん性スパズム、網脈絡膜症を三主徴とする先天性奇形症候群。様々な種類の脳形成異常、難治性の痙攣発作、知的障害を呈し、神経発生異常が本態と考えられている。稀な疾患であり、原因も不明であるため治療法も確立されていない。

疫学

発生率は約1/10万出生(米国では1/105,000-167,000出生)である。圧倒的に女性に多いが、男性例も報告されている。厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業「Aicardi症候群の遺伝的要因の実態」で、2010年に行われた国内の小児科標榜基幹病院916施設に対する疫学調査(回収率66.6%)では、過去5年間の受診症例数は60例であった。国内の患者数は100名前後と考えられる。性別記載のあった57例中、54例が女性、3例が男性であった。

病因

現時点では不明である。患者の大部分が女児であることから、X染色体優性遺伝(男児では致死性)、もしくは常染色体上の限性発現遺伝子の異常により女児にのみ発症するとも考えられている。de novo の均衡型転座(X;3)を伴う症例から遺伝子座はXp22にマッピングされているが、疾患責任遺伝子単離には至っていない。多くは孤発性であり、家族例は姉妹発症の1家系が報告されている。

病理・病態

病理所見の報告は少ない。多小脳回、異所性灰白質、脈絡叢乳頭腫、くも膜嚢胞、嗅球欠損が報告されている。最近のてんかん焦点の外科切除病変では、皮質層構造の乱れ、巨大な神経細胞など限局性皮質異形成の所見を認めている。

臨床症状

スパズム発作がもっとも特徴的である。他の発作型として、焦点性運動発作の頻度が高く、スパズム発作の発症に前後して乳児早期に認められる。脳形成異常に伴い乳児期には発達遅滞を呈し、その後、知的障害と運動障害が目立ってくる。眼症状として、網脈絡膜ラクナがみられる。両側性が多く、円形で黄白色の大小複数の病変が視神経乳頭や黄斑部の周辺に存在する。視神経乳頭の部分欠損による拡大が約半数に認められる。小眼球の頻度も高く、両者とも片側性が多い。骨格異常として、肋骨と脊椎の異常が多い。四肢や頭蓋は基本的に正常である。肋骨の欠損や分岐肋骨、半椎、蝶形椎、脊柱側弯などを呈する。

検査所見

頭部MRIでは脳梁欠損に加え大脳皮質の形成異常を認める。多小脳回と脳室周囲の異所性灰白質がほぼ全例に認められる。大脳半球の非対称性も特徴的であり、古典型滑脳症にみられる左右対称性とは全く異なる。頭蓋内の嚢胞形成も頻度が高く、約半数で半球間裂や脈絡叢に嚢胞が認められる。脈絡叢乳頭腫の併発例も複数報告されており、脈絡叢の嚢胞との鑑別が必要である。後頭蓋窩病変の頻度も比較的高く、後小脳槽・大槽の拡大を認める。

脳波ではヒプスアリスミアの併発は18%と低い。脳波の特徴は左右の非対称性もしくは非同期性である。非対称性のサプレッション・バーストもしくは類似波形が多い。脳波も発作も他の基礎疾患に比べると年齢による変遷は少ない。

診断

頭部MRI検査で大脳皮質形成異常、異所性灰白質、脳梁欠損を確認し、眼底検査で網脈絡膜ラクナを確認する。診断基準は以下の通りである。

A. 症状
主要徴候
  1. スパズム発作
  2. 網脈絡膜ラクナ(lacunae)※※
  3. 視神経乳頭(と視神経)のcoloboma、しばしば一側性
  4. 脳梁欠損(完全/部分)
  5. 皮質形成異常(大部分は多小脳回)※※
  6. 脳室周囲(と皮質下)異所性灰白質※※
  7. 頭蓋内嚢胞(たぶん上衣性)半球間もしくは第三脳室周囲
  8. 脈絡叢乳頭腫
支持徴候
  1. 椎骨と肋骨の異常
  2. 小眼球または他の眼異常
  3. 左右非同期性 'split brain' 脳波(解離性サプレッション・バースト波形)
  4. 全体的に形態が非対称な大脳半球
他の発作型(通常は焦点性)でも代替可能
※※
全例に存在(もしくはおそらく存在)
B. 検査所見
画像検査所見:
脳梁欠損をはじめとする中枢神経系の異常(脳回・脳室の構造異常、異所性灰白質、多小脳回、小脳低形成、全前脳胞症、孔脳症、クモ膜嚢胞、脳萎縮など)がみられる。
生理学的所見:
脳波では左右の非対称もしくは非同期性の所見がみられる。ヒプスアリスミア、非対称性のサプレッション・バーストもしくは類似波形がみられる。
眼所見:
網脈絡膜ラクナが特徴的な所見。そのほか、視神経乳頭の部分的欠損、による拡大、小眼球などがみられる。
骨格の検査:
肋骨の欠損や分岐肋骨、半椎、蝶形椎、脊柱側弯などがみられる。
C. 鑑別診断

以下の疾患を鑑別する。

線状皮膚欠損を伴う小眼球症(MLS)。先天性ウイルス感染。

診断のカテゴリー

A. 1、2、4 を必須とし、さらに A. 5、6、7、8 のいずれかの所見を認めた場合に診断できる。

診断の際の留意点/鑑別診断

全例に存在(もしくはおそらく存在)する診断の必須項目は、網脈絡膜ラクナと皮質形成異常(大部分は多小脳回)、脳室周囲(と皮質下)異所性灰白質の三項目である。脳梁欠損は主要徴候の一つではあるが、皮質形成異常や異所性灰白質を伴わない脳梁欠損単独では、アイカルディ症候群の診断には不十分である。

半数以上の患者は乳児期のてんかん発作で発症するが、最初の発作は強直間代発作や焦点発作などてんかん性スパズム以外の発作が約半数を占め、18例中11例の初回脳波は正常であったと報告されている。点頭てんかん(てんかん性スパズム)や知的障害などの神経症状は、皮質形成異常と異所性灰白質による二次的な徴候と考えられ、てんかん発作型は他の発作型でも代替可能であり、てんかん発作の発症前であっても、脳と眼の形成異常所見が典型的であれば、アイカルディ症候群の診断は可能である。

また、多くは女児であるが、男児例も報告されており、性別を診断に含めるべきではない。

大脳皮質形成異常、脳梁欠損、眼底異常をきたす疾患が鑑別に挙げられる。線状皮膚欠損を伴う小眼球症、Goltz症候群、脈絡網膜症を伴う小頭症、眼脳皮膚症候群、1p36欠失症候群、胎内ウイルス感染を鑑別する。

合併症

脊柱側弯、便秘、胃食道逆流、誤嚥性肺炎、中耳炎が多い。

治療

対症療法が主である。てんかん発作の治療は、他のてんかん症候群と同じく発作型に応じ薬剤を選択することが勧められる。アイカルディ症候群としての抗てんかん薬の臨床試験は報告されていない。

アイカルディ症候群のてんかん発作に対する薬剤の有効もしくは無効は、症例報告もしくはケースシリーズ研究に限られる。アイカルディ症候群のてんかん発作は、初期にはてんかん性スパズムもしくは焦点発作を特徴とする。長期的にはさまざまな発作が報告されているが、全般発作は比較的少ない。

Rosserらによる71例の観察では、てんかん性スパズムは17%、ミオクロニー発作が14%、発作の混在が12.7%、全般性の強直間代発作が9.8%、焦点発作が7%、脱力発作が5.6%、強直発作が1.4%、定型欠神発作が1.4%であった。また、67%の症例で発作が毎日あり、薬剤投与による発作消失は3例のみであった。

さまざまな抗てんかん薬、ACTH療法、ケトン食療法が使用され、2002年の報告ではバルプロ酸ナトリウムが45%、トピラマートが28%と、ほかの抗てんかん薬に比べ高頻度に使用されていた。点頭てんかんに対し、初期からビガバトリンを投与し発作が消失した2例が報告されている。19例のアイカルディ症候群に対するCBDの投与では、てんかん発作(発作型は分類されていない)に対する50%奏効率は投与12週、48週ともに71%であった。

予後

原則として進行はない。てんかん発作は難治で、60〜80%の症例では発作が毎日みられる。年齢依存性の変化は少なく、Lennox-Gastaut症候群への移行はまれである。歩行可能例は10〜20%、有意語表出例は10%前後である。27歳時点での生存率は、2008年には0.62と報告されている。

研究班

平成22~24年度厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)「Aicardi症候群の遺伝的要因の実態」
平成26~28年度厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)「希少難治性てんかんのレジストリ構築による総合的研究」
平成29~31年度厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)「稀少てんかんに関する調査研究」
令和2~4年度厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)「稀少てんかんに関する包括的研究」

成人期以降の注意点

成人例の報告は少なく詳細は不明である。神経症状と眼症状の進行は報告されていない

参考文献

  1. Aicardi J. Aicardi syndrome. Brain Dev, 2005;27:164-171
  2. 加藤光広. Aicardi症候群. 臨床てんかん学. 兼本浩祐, 他編. 東京, 医学書院, 2015:438-439.
  3. 加藤光広. Aicardi症候群. 稀少てんかんの診療指標. 日本てんかん学会. 東京, 診断と治療社, 2017:86-89.
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  5. Chau V, et al. Early treatment of Aicardi syndrome with vigabatrin can improve outcome. Neurology, 2004;63:1756-1757
  6. Devinsky O, et al. Open-label use of highly purified CBD (Epidiolex(R)) in patients with CDKL5 deficiency disorder and Aicardi, Dup15q, and Doose syndromes. Epilepsy Behav, 2018;86:131-137
  7. Podkorytova I. et al, Aicardi syndrome: epilepsy surgery as a palliative treatment option for selected patients and pathological findings. Epileptic Disord, 2016;18:431-439
  8. Palmer L, et al. Aicardi syndrome: presentation at onset in Swedish children born in 1975-2002. Neuropediatrics, 2006;37:154-158
  9. Kroner BL, et al. New incidence, prevalence, and survival of Aicardi syndrome from 408 cases. J Child Neurol, 2008;23:531-535
  10. Rosser TL, et al. Aicardi syndrome: spectrum of disease and long-term prognosis in 77 females. Pediatr Neurol, 2002;27:343-346
:第1版
更新日
:2021年11月1日
文責
:日本小児神経学会