疾患概念
疫学
病因
病理・病態
臨床症状
検査所見
頭部MRIでは脳梁欠損に加え大脳皮質の形成異常を認める。多小脳回と脳室周囲の異所性灰白質がほぼ全例に認められる。大脳半球の非対称性も特徴的であり、古典型滑脳症にみられる左右対称性とは全く異なる。頭蓋内の嚢胞形成も頻度が高く、約半数で半球間裂や脈絡叢に嚢胞が認められる。脈絡叢乳頭腫の併発例も複数報告されており、脈絡叢の嚢胞との鑑別が必要である。後頭蓋窩病変の頻度も比較的高く、後小脳槽・大槽の拡大を認める。
脳波ではヒプスアリスミアの併発は18%と低い。脳波の特徴は左右の非対称性もしくは非同期性である。非対称性のサプレッション・バーストもしくは類似波形が多い。脳波も発作も他の基礎疾患に比べると年齢による変遷は少ない。
診断
頭部MRI検査で大脳皮質形成異常、異所性灰白質、脳梁欠損を確認し、眼底検査で網脈絡膜ラクナを確認する。診断基準は以下の通りである。
A. 症状
- スパズム発作※
- 網脈絡膜ラクナ(lacunae)※※
- 視神経乳頭(と視神経)のcoloboma、しばしば一側性
- 脳梁欠損(完全/部分)
- 皮質形成異常(大部分は多小脳回)※※
- 脳室周囲(と皮質下)異所性灰白質※※
- 頭蓋内嚢胞(たぶん上衣性)半球間もしくは第三脳室周囲
- 脈絡叢乳頭腫
- 椎骨と肋骨の異常
- 小眼球または他の眼異常
- 左右非同期性 'split brain' 脳波(解離性サプレッション・バースト波形)
- 全体的に形態が非対称な大脳半球
- ※
- 他の発作型(通常は焦点性)でも代替可能
- ※※
- 全例に存在(もしくはおそらく存在)
B. 検査所見
- 画像検査所見:
- 脳梁欠損をはじめとする中枢神経系の異常(脳回・脳室の構造異常、異所性灰白質、多小脳回、小脳低形成、全前脳胞症、孔脳症、クモ膜嚢胞、脳萎縮など)がみられる。
- 生理学的所見:
- 脳波では左右の非対称もしくは非同期性の所見がみられる。ヒプスアリスミア、非対称性のサプレッション・バーストもしくは類似波形がみられる。
- 眼所見:
- 網脈絡膜ラクナが特徴的な所見。そのほか、視神経乳頭の部分的欠損、による拡大、小眼球などがみられる。
- 骨格の検査:
- 肋骨の欠損や分岐肋骨、半椎、蝶形椎、脊柱側弯などがみられる。
C. 鑑別診断
以下の疾患を鑑別する。
線状皮膚欠損を伴う小眼球症(MLS)。先天性ウイルス感染。
診断のカテゴリー
A. 1、2、4 を必須とし、さらに A. 5、6、7、8 のいずれかの所見を認めた場合に診断できる。
診断の際の留意点/鑑別診断
全例に存在(もしくはおそらく存在)する診断の必須項目は、網脈絡膜ラクナと皮質形成異常(大部分は多小脳回)、脳室周囲(と皮質下)異所性灰白質の三項目である。脳梁欠損は主要徴候の一つではあるが、皮質形成異常や異所性灰白質を伴わない脳梁欠損単独では、アイカルディ症候群の診断には不十分である。
半数以上の患者は乳児期のてんかん発作で発症するが、最初の発作は強直間代発作や焦点発作などてんかん性スパズム以外の発作が約半数を占め、18例中11例の初回脳波は正常であったと報告されている。点頭てんかん(てんかん性スパズム)や知的障害などの神経症状は、皮質形成異常と異所性灰白質による二次的な徴候と考えられ、てんかん発作型は他の発作型でも代替可能であり、てんかん発作の発症前であっても、脳と眼の形成異常所見が典型的であれば、アイカルディ症候群の診断は可能である。
また、多くは女児であるが、男児例も報告されており、性別を診断に含めるべきではない。
大脳皮質形成異常、脳梁欠損、眼底異常をきたす疾患が鑑別に挙げられる。線状皮膚欠損を伴う小眼球症、Goltz症候群、脈絡網膜症を伴う小頭症、眼脳皮膚症候群、1p36欠失症候群、胎内ウイルス感染を鑑別する。
合併症
治療
対症療法が主である。てんかん発作の治療は、他のてんかん症候群と同じく発作型に応じ薬剤を選択することが勧められる。アイカルディ症候群としての抗てんかん薬の臨床試験は報告されていない。
アイカルディ症候群のてんかん発作に対する薬剤の有効もしくは無効は、症例報告もしくはケースシリーズ研究に限られる。アイカルディ症候群のてんかん発作は、初期にはてんかん性スパズムもしくは焦点発作を特徴とする。長期的にはさまざまな発作が報告されているが、全般発作は比較的少ない。
Rosserらによる71例の観察では、てんかん性スパズムは17%、ミオクロニー発作が14%、発作の混在が12.7%、全般性の強直間代発作が9.8%、焦点発作が7%、脱力発作が5.6%、強直発作が1.4%、定型欠神発作が1.4%であった。また、67%の症例で発作が毎日あり、薬剤投与による発作消失は3例のみであった。
さまざまな抗てんかん薬、ACTH療法、ケトン食療法が使用され、2002年の報告ではバルプロ酸ナトリウムが45%、トピラマートが28%と、ほかの抗てんかん薬に比べ高頻度に使用されていた。点頭てんかんに対し、初期からビガバトリンを投与し発作が消失した2例が報告されている。19例のアイカルディ症候群に対するCBDの投与では、てんかん発作(発作型は分類されていない)に対する50%奏効率は投与12週、48週ともに71%であった。
予後
研究班
成人期以降の注意点
参考文献
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- Rosser TL, et al. Aicardi syndrome: spectrum of disease and long-term prognosis in 77 females. Pediatr Neurol, 2002;27:343-346
- 版
- :第1版
- 更新日
- :2021年11月1日
- 文責
- :日本小児神経学会